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実は根拠の薄い景気回復シナリオ

米CPI、小売売上と市場は月中の重要指標を通過し上下に振れている。以下、順に指標を追う。

8月の米CPIは前年比+3.7%と市場予想をきわめて小幅に上回った一方、コアCPIは市場予想通りの結果となった。項目別で見れば明確だが、今回のCPI上振れはエネルギー価格の上昇が効いている。コアCPI、すなわち物価の基調は引き続き減速とみるのが妥当だろう(図表)。

CPIの大宗を占める住居費だが、引き続き住宅価格の減速に引き摺られる形で減速が続いている。住宅価格と住居費のラグモデルでは、住居費はこのまま24年初めまで減速が続く可能性が高い(図表)。それは即ち、インフレの減速基調が変わらないことを意味する。50年前のインフレ再加速シナリオはどうあがいても再現されないだろう。

現在の市場が懸念しているのは、景気が思ったほど弱くならずにインフレも当初予想通りには減速せず、政策金利が高水準で維持されるリスクである。この点は本日公表となった小売売上高が強い結果となったことで懸念に拍車がかかった面があるだろう(図表)。クレジットカードの消費は減るどころか加速しており、「利上げ→クレカ破産→リセッション→利下げ」という教科書通りの純粋真っ直ぐな想像は市場が噴き上がる燃料として火にくべられている。

その他、景気も雇用も今のところ死角がない。求人件数は当noteが注視するindeedカンニングに照らすと先月のJOLTS求人減少はダマシであり、次回は回復する可能性が高い(図表)。雇用が減らないならば家計所得も増加し消費も減らない。雇用の源泉たる企業の景況感も足元で底入れ感が出てきた。ISM製造業は台湾カンニングに従う形で改善に転じている(図表)。

ここまで書くと「景気は再加速で雇用は減らずインフレは減速して来年には利下げ」というどう考えても株を買うしかない圧倒的なゴルディロックスシナリオしか浮かんでこないが、他方で「来年の景気のけん引役は何か?」との問いにしっかりと答えられない面もある。景気は米国を除き欧州・中国で冴えない展開が続いている(特に欧州景気は厳しさを増している)。米国の自律的・循環的な景気回復だけで現在の予想EPS改善を正当化できるか、という疑問がFMの間で高まっているようである。

歴史的に見れば米景気が回復すると中国景気がやや遅れて回復してきた。中国から米国への輸出が増えるためである。中国の貿易統計を確認すると、8月は米国向けに底入れの動きが出ている(図表)。米景気、特に製造業の回復は中国景気に遅れて恩恵をもたらすだろう。

リアルタイムの中国景気を大気汚染でカンニングすると、8月下旬以降徐々に経済活動が活発化しているシグナルが出ている(図表)。この調子でいけば今月末公表のPMIも良くなりそうだ。また資源価格、とりわけ鉄鉱石価格はかなりのペースで上がっており、本年4月末以降の「中国失望レンジ」を抜けた感がある(図表)。中国景気は最悪期を脱し、今後は緩やかな回復に向かう、というのがコンセンサスとして固まりつつあるだろう。

とはいえ、これだけで中国発グローバル景気改善、ひいてはEPS回復を予想するには心許ない。足元で中国では不動産関連の支援策を各種打っているが、市場の反応はいま一つ鈍い。今後中国では10月に二中全会(共産党の政治に関する会議)、12月に経済工作会議(共産党の経済政策に関する会議)が開かれる予定である。特に12月の経済工作会議で何が出てくるかに注目が集まる。目下の市場は米中景気、とりわけ製造業の底入れをテーマにしているが、「底入れ後」の到達点を見定めるのはもう少し先になるだろう。


※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。

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