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中国発の半導体サイクルが世界に影響

1-3月期の中国GDPが発表された。中国景気については昨年12月にリオープンで高成長という楽観論が高まったのも束の間、年明け以降の人流回復が鈍く悲観論が高まった。今回1-3月期の成長率を受け、一部金融機関は23年通年の成長率予想を引き上げるなど、再び楽観論が高まりつつある。

欧米金融機関は楽観に傾いているが・・・

「数字の印象ほど景気は良くない」との意見も散見される。確かに今回の結果は繰り越し需要による加速の面も大きい。特に個人消費は飲食サービスの高い伸びに支えられている(図表)。1年前は新型コロナの感染対策が強化されていた時期であり、上海ロックダウン(22年3月28日→5月30日)から1年後である4-5月にかけてはテクニカルに高い伸びになると予想される。現在の統計は実力を反映しているとは言い難い

消費マインドの回復も気になる。中国人民銀行の四半期毎アンケートでは、今後3ヵ月で消費を増やすと答えた家計は依然低水準である(図表)。同様の傾向はGDP統計中の家計所得・支出から求められる消費性向からも確認でき、消費の持続性には引き続き注意を要する。

家計の経済活動は繰り越し需要で加速している一方、企業活動は明確に鈍化した。最たるものが設備稼働率であり、23年1-3月期は新型コロナが発生した20年1-3月期以来の低さとなった(図表)。業種別の設備稼働率は医薬品製造、製鉄関連を除いて低下しており、特にコンピュータ・通信機器関連で大きく低下している。

設備稼働率の低下は鉱工業生産の減速に直結している。3月の鉱工業生産は前年比+3.9%と予想を下回った。企業別では「ハイテク分野」「外資系企業」で生産が鈍化している。

ハイテク関連、特に電子関連での生産が鈍っている背景には、同セクターにおける在庫の積み上がりがある。コンピュータ・通信機器や電気機器の在庫は、①同セクターが在庫取り崩し局面にあること、②在庫払底から生産拡大までには今しばらく時間がかかること、を示唆する(図表)。在庫がはけるにはざっくり1年程度かかるだろうか。

こうした電子製品の在庫積み上がりは、半導体需要の減速にもつながっている。中国における半導体輸入・半導体生産は2021年末をピークに減少傾向が続いている(図表)。特に輸入が減少していることは、ハイエンド向けの半導体需要が弱いことを示唆する。

半導体需要の軟化は台湾など東アジアにおけるシリコンサイクルにも強い下押し圧力をかけ、米国など先進国ハイテク企業の業績にも下押し圧力をかけている。台湾の輸出受注は伝統的に米国ISM製造業に先行して動く性質がある。20日に発表された3月台湾輸出受注は市場予想を下回る結果となり、ISM製造業の回復はまだ先であることを示唆する(図表)。足元の米国ではPMIや地区連銀景況観など上向きの動きを示す指標も出てきたが、これまで述べたアジアのハイテク需要減速を踏まえると、米景気もしばらく影響を受けるとみられる。

以上、①中国景気はサービス主導の回復であること、②製造業はハイテク関連で在庫取り崩し局面にあること、③中国の半導体需要の弱さが東アジアに波及していること、④東アジアの半導体需要の弱さは米景気にも下押し圧力を与えていること、を述べた。

中国経済、ひいては世界経済は半導体サイクルにかなりの部分を負っている。他方、直近の中国金融統計では資金供給の増加が確認され、銀行から実体経済へとマネーが放出されている様子が確認される(図表)。

中国系銀行の貸出態度は引き続き緩和的であり、半導体など個別セクターの業況を脇に置けば、マクロ的に資金が干上がる状況にはない(図表)。この辺りは米国とは状況が180度異なる(図表)。年後半の米国景気は資金不足から減速の色彩を色濃くしようが、資金循環的には中国のマネーは拡大傾向にある。

過去、中国のマネー拡大は重厚長大系のオールドエコノミーや不動産市場に流入してきた。現在、不動産市場は中国政府による規制が残ったままであり、その規制を突き破ってマネーが奔流するか不透明と言わざるを得ない。マネーというガソリンが流し込まれ、規制というブレーキが踏まれた中国経済であるが、今後のスピードは政府がどこでブレーキを緩めるかにかかっていると言えそうだ。

※本投稿は専ら情報提供を目的としており投資を推奨するものではありません。

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