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米景気と賃金の逆行について

7月CPIは市場予想を下回り、ディスインフレトレンドに変化がないことが確認された。期待されていた家賃の減速はおあずけとなったものの、住宅価格との対比では家賃もそろそろ減速基調に入るとみられる(図表)。

昨年冬から長きにわたり続いているインフレ減速トレンドは、耐久財、非耐久財、サービス価格がそれぞれ折り重なるように減速していることで形成されている(図表)。足元では原油など資源価格が上向きつつあることが懸念材料だが、サービス価格はCPIの61%を、家賃は34%を占める一方、エネルギーは6.9%を占めるに過ぎない。CPIのトレンドを作るのは家賃である。

とはいえ足元では米金利は顕著に上がっており、ハイテク株に対して逆風になっている。景気、特に雇用関係の統計が強いことを背景に、賃金フレーションになるのではないかとの見方が広がっているようだ。実際、indeed求人は7月末から増加に転じており、企業サイドの採用意欲が高いことと物語る。この調子でいけば、次回のJOLTS求人は強い結果になる可能性が高い。

先週の雇用統計でも賃金上昇率が予想外に高く、賃金フレーションへの警戒感を高めるところとなった。特に、雇用の「中身」、すなわちパートタイムが大きく増加していたことには注意を要する。パートタイムの増加は構造的に平均賃金を低下させ賃金上昇率の低下要因となるが、それにも関わらず今回の賃金上昇率が高かったことは、個々の賃金が構造的な低下圧力を跳ね返すほど高くなっていることを暗示している。

他方で、悩ましいのは実体景気に加速感が見られないことである。ISM製造業などは「そろそろ上がる」という市場の期待を裏切る形で水面下を潜航中である。ISM製造業の先触れとして機能する台湾輸出受注も未だ盛り上がりに欠けており、ISMの回復は当面おあずけを喰らったままだろう(図表)。景気は悪いのに賃金は強い、という環境が足元で出来上がってしまっている。

景気が悪いのに賃金が伸びる背景には、労働参加率の構造的な低迷がある。コロナ禍で発生したFIRE層や重症者が労働市場からEXITしてしまった関係上、コロナ前より労働力が早く払底するようになった可能性が高い。この点、日本など東アジア諸国が厳格な感染予防で人命を優先した結果、深刻な人出不足には至らず、なかなか賃金が上がらないことと無関係ではないかもしれない。

話を景気に戻すと、足元で中国の半導体輸入は増加しつつある(図表)。景気悪化が伝えられている中国だが、需要の減速に加えてコロナ期間中に大量に積み上がった在庫のせいで生産回復が遅れていることが関係しているだろう。半導体在庫払底→半導体輸入増加→台湾からの半導体輸入増加→米ISM製造業改善、というサイクルに移行するのは秋頃だろう。

市場の方でも景気回復による業績回復ストーリーは予想EPSの改善という形で織り込まれている。金利が上昇しても株価が下がらないのはこのためである。景気回復を背景としたバリュー株、景気敏感株の強さはまだまだ続きそうだ。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨するものではありません。

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