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景気と物価が生み出す相場の位相遷移について

3月CPIは市場予想対比上振れし、金利は上昇、株価は下落という分かりやすい反応となった。FRBの年3回の利下げ予想年2回ではないか、との観測が広がっている。

利下げ予想を深堀りすると、実は「年1回」との見方も大きく増えている。加えて、来年4月時点でも「今後1回か2回」の見方が増えている(図表)。今回のCPIは市場の利下げ期待をかなり後ろ倒しにさせている。

インフレ動向を寄与度で確認すると、家賃インフレ減速の減速、というこれまでの動きに加え、①その他のじわりとした再加速、②エネルギーの跳ね上がり、という動きが出ている(図表)。

エネルギーの跳ね上がりは中東における地政学リスクが背景にあるだろう。ただ、ホルムズ海峡封鎖などの事態になれば原油価格もさらに上を見るだろうが、現時点でそれをシナリオに織り込むのは無理筋である。事態の鎮静化を祈りつつ、エネルギー価格は落ち着くとみる。他方で①のその他については自動車保険料がかなり上昇している(図表)。勢い、水準共に一部が望んでいるスタグフレーション期に比肩する。

保険料が上がっている背景には加速する(していた)賃上げ自動車値上げに加え、ここ数年の洪水や大雪など、頻発する自然災害も影響しているとみられる。自然災害を脇に置けば、賃金上昇や自動車価格上昇など、伝統的なインフレが保険料上昇に波及しているとみられる。

コロナショック以降のインフレは4つの波の合成で成っている(図表)。足元は第C波、第D波が来ている状態であり、保険料の上昇もこうした波の派生として捉えるべきだろう。保険料上振れは何か特殊要因が発生しているわけではなく、津波に襲われた後の濁流の支流とみるべきである。

それではこうした「インフレ減速の減速」は株高トレンドを崩すだろうか?確かに、かつて2022年11月には「インフレ減速」が発覚し逆CPIショックが起きた。ただ、当時は高インフレ・高金利によるリセッション懸念が支配的であった点が重要である。リセッション懸念が強いためにインフレ率が低下してもダウなどバリュー株は1年近く伸び悩んだのに対し、ナスダックなどグロース株は金利低下を好感して素早く上昇トレンドに移行した(図表)。その後、2023年後半にリセッション懸念が後退すると、「景気は良いのにインフレも金利は下がる」というユーフォリア(ゴルディロックス)が到来し、ダウもナスダックも両方上げていった(図表)。

こうした流れの中で今後「インフレ減速の減速」、さらには金利再上昇が起きた場合、まず以て相場はバリュー銘柄が優位になると考えられる。ただ、これにはリセッションが来ないことが大前提となる。

ISM製造業が上昇サイクルに入ったからリセッションは来ない」と考えたくなるが、これでは去年ISM製造業が最悪だったのにリセッションに陥らなかったことを説明できない。結局のところ、個人消費や設備投資など需要サイドが盛り上がらないと市場の認識を変えるには至らないだろう。

「インフレ減速の減速」が強固になりつつある今、市場の支えは小売売上高にかかっている。ここが崩れるようであれば「景気は悪くインフレも高い」というプチ・スタグフレーションに近づく。小売が保たれるようであれば投資家はしばらくバリュー相場をエンジョイできるだろう。

とはいえ、難しいのは現環境の根底には「インフレは減速局面である」という大前提があり、インフレがどこまで進むか分からない2022年とは異なる点である。前述した「インフレ減速の減速」も所詮は一時的で、時間軸が一年延びたところでその先には金利低下とグロース相場、もしくはゴルディ相場が来ると考えることも可能だ。そうした期待が足元の相場の崩壊を防いでいる面もあるだろう。インフレ再加速をもたらすにはそれこそ50年前のような第二次中東戦争が必要とみられ、足元のイラン・イスラエルの地政学リスクがその端緒となる可能性はあるものの、そこまで見込むことはまだ合理的ではない。

投資家は引き続き景気と物価、二つの時間軸を精査することを求められる。これまでは景気と物価が確度も甘いまま交差していたのが、コロナ以降では二つの時間軸が直行し、投資の時間帯が二象限から四象限に拡大している(図表)。今の相場がどこに当たるか、今後どこにいくのかをよく精査されたい。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。

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