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介護とリハビリとの協働について

多職種協働という言葉はよく耳にしますが、それは具体的にどのようなものなのでしょうか?ICTを活用して情報連携が軽やかになれば、多職種協働が推進されているということなのでしょうか?リハビリテーション会議や生活行為向上連携加算といった利用者の自立支援や重度化の予防を目的とした介護とリハビリの連携を促進しようとする施策はありますが、どれだけ利用者に具体的な利益を生み出しているかは疑問の残るところです。

生活行為向上連携加算をYahoo!で検索してみましたが、算定の要件については理解できても、それを運用することでどのように具体的な成果を生み出すかについてはイメージが湧きませんね。現段階では連携を図るというプロセスが目的化されていて、対象者の生活に具体的な利益を生み出すアウトカムについては今後の課題なのかもしれません。


自分は老人保健施設で勤務をしていたこともり、リハビリ職との連携協働は強く叫ばれていました。多職種を交えてのカンファレンスも盛んに行われていましたし、書類の数も多かったですが、それにより対象者の生活にどれだけ変化を起こせたかというとなかなか厳しいなという印象もありました。あくまでリハビリ職と介護職がそれぞれに大きな塊としてあって、定期的に情報交換をするという流れが主流であって、互いの相乗効果を生み出す有機的な動きがつくれていないというのが多くの老人保健施設の実情ではないかと思います。活動の拠点が同一である老人保健施設ですらそのような実情(素晴らしい協同体制を構築している老人保健施設もあると思いますが…)ですから、在宅であればなおさらで、リハビリ職との具体的な連携協働のイメージが湧きずらいのではないかということもあり、個人情報に触れない程度でさらっと記事にできたらと思いました。


対象者は後縦靭帯骨化症で寝たきりの状態で回復期リハビリテーションから退院されてきました。病院からも回復する見込みはないという説明があり、寝返りも全介助であったことから、オムツ交換・清拭・衣類更衣で訪問介護が介入することになり、他のサービスとしては訪問リハビリとデイサービスを利用していました。触れた感触としてはとにかく全身が硬く、上半身を捩じる体幹の柔軟性がないことから、全般的な介助が必要になるという感じでした。手指に拘縮があったので食事には自助具が必要ですが、腕の曲げ伸ばしに関しては可能なのでご本人で食べることができており、起き上がりは全介助レベルでしたが、一度起きてしまえばベッド柵に摑まって端座位は保持できるというのが概ねの身体状況でした。『自分でトイレに行って排泄ができるようになりたい!』とご本人は強く希望されていたので、自宅のトイレで排泄ができるようになるという目標に向けてチームアプローチを開始しました。


上半身の硬さはもちろんですが、下半身もかなり硬くて、筋力低下というよりも柔軟性のなさが動きの制限をつくっている印象でした。そこで動きに関わる初期の役割分担としては、①訪問リハビリテーションにて下肢の柔軟性をつくる。②デイサービスにて座位の耐久性をつくる。③訪問介護にて上半身の柔軟性をつくるという感じでした。もちろんそれぞれが厳格に役割を分担させていたということではなく、訪問リハビリテーションでも上半身のアプローチはしていましたので、あくまで中核となる役割の目安ですね。


さてさて、訪問介護としては対象者の上半身の柔軟性をつくるアプローチをしたいわけですが、リハビリ職ではないのでストレッチや可動域訓練をすることはできません。あくまでケアプランに沿った排泄・清拭・更衣というケアに上半身の柔軟性をつくるという価値をどう組み込むかが介護職の悩みどころになるわけです。

動画を見てくだされば分かる通り、上着の着脱は上肢機能を活用しているだけではなく、背中の様々な筋群(細かいことはよく分かりません)も総動員されてるんですね。寝返りも全介助レベルとなるとご本人が寝ている状態での清拭や更衣の介助を行なってしまいそうですが、端座位になるという一手間を増やして、手の届く範囲はご本人に拭いていただき、更衣も可能な限りご本人に行なっていただくことで、上半身の柔軟性をつくるアプローチに変貌するのですね!

腰部から骨盤に着目してみると、細かい動きですが左右に動いたり、前後に動いたり、伸び縮みをしながら多様な動きがあることが分かります。『お尻が浮いてくる!』『背筋が伸びてくる!』との語りもありましたが、これらの作用は立ち上がりへの移行的アプローチとも言えそうです。上着の更衣を通じて背部・腰部・骨盤を総動員しながら立ち上がりに向かう前段階をつくるというのは、是非とも頭に入れておきたいところです!


背部・腰部・骨盤の柔軟性が向上して、動画での『お尻が浮いてくる!』という感覚をご本人も自覚できるようになって来たら、ズボンの更衣も端座位で行うようにしました。

ご本人は手指に拘縮があるので、親指と人差し指でズボンを引っ掛けるようにしてズボンの操作をしています。ズボンをお尻から抜く際には左右に骨盤を振り、一瞬だけお尻を上げて膝の方向にズボンを移動さています。体幹の前傾に関しては制限があり、足下にまで手を伸ばすことができないので、左右の足を動かしてズボンを脱いでもらいますが、これらの一連の動きは立ち上がりから歩行への前段階として効果的なアプローチように感じますね!


座位での動きが安定してきたら、立位でのズボンの着脱に移行します。実際には椅子ではなくピックアップを支持物にしていましたが、ズボンの着脱が立ち上がりから歩行へのアプローチになっているこは一目瞭然だと思います。体幹の調整にいくらかの困難さがあり、立ち上がりの際に体幹が前傾しすぎて前方に倒れるリスクもあったので、胸部と背部を挟むように手を置いて体幹の調整をフォローしています。立ち上がりのために手で利用者の体幹を持ち上げているのではなく、あくまでご本人の動きの調整を行っているので誤解しないでくさいね!


この頃には訪問リハビリテーションではピックアップを使用した屋内での実用的な歩行訓練に移行して、デイサービスではトイレでの排泄を先行して実践してくれています。それというのも、ご本人の血圧が急に下がることがあり、排泄時に急な血圧低下が生じて意識消失が生じた場合を考えると、訪問介護から開始するよりも、デイサービスで始めた方が対応しやすいという理由があったからです。およそ1ヵ月の評価を経て、訪問介護での排泄も自宅のトイレで行えるようになり、『トイレで排泄をしたい。』というご本人の希望が実現することになりました!


リハビリ職と介護の連携協働を考える上で重要なことは、介護職がリハビリ職の指示を受けるということではなく、それぞれがご本人の希望に寄り添うことで、相乗効果を生み出すアプローチを推進していくことなのでしょう。もしも介護職がご本人の柔軟性をつくるアプローチができていなければ、リハビリ職は1単位20分という限りある時間を、ベッド上でのストレッチや可動域訓練に大部分を割いていたのかもしれません。衣類更衣を通じた立ち上がりの動きを介護が日常的につくらなければ、リハビリ職はそこに時間を取られて、屋内での実用歩行へと向かうことはできなかったのかもしれません。つまり介護がご本人にとっての良質な基礎をつくることによって、リハビリ職は速やかに応用に向かうことができて、その応用が根付いたら介護が基礎へと落とし込む。そしてリハビリ職はさらなる応用へと向かうという実践の繰り返しが、利用者の生活の質を引き上げる有機な作用を生み出すのであって、それこそがリハビリと介護の連携協働の本質なのでしょう。


長くなりましたが、リハビリ職と介護職の連携協同についてイメージが湧くようになったでしょうか?かなり大まかな流れでのご説明でしたが、少しでも何かが掴めた気がするぞ!と感じていただければ嬉しく思います。細かい部分について改めて記事を書こうと思いますので、今後も宜しくお願い致します!

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