2023年に読んだ中華BLメモ

 2023年に読んだ小説の感想やらおすすめポイントやらをつらつらと。
 山河令ドラマも完走しましたが、くると分かってても最後の例の場面はぼろっぼろに泣きました。毒蝎が変態じゃなくなってたのには驚いた。あれドラマであの子気に入って原作読んだ人膝から崩れ落ちるんじゃないかな。大丈夫だった? 温周が名前を呼び合うシーンは甘すぎて指の隙間から恐る恐る画面を見たよ。
 23年もたくさん邦訳が発表されたりスタートしたり、何よりさはんがアニメ・小説ともに上陸して本当に嬉しい限り。祭りじゃ!! 日本の皆さんはこれからあのカタストロフィを味わうんだな。自分も記憶を失ってもう一回読みたい。漠尚はいいぞ。柳巨巨はいいぞ。
 それから天官の新修版も大事に大事に読み進めてます。めっちゃ変わってるじゃん。


1.『乖,大神别闹!』青梅酱  (晋江)

 国内1位のプロゲーマーが事故で転生したら5年後の未来だった。
 正月ボケした頭にも優しいさくさく読める俺最強系快進撃。確か黙読の作者コメントで紹介されてて読むことになった作品。一般人を装った元天才チャンピオンが、現チャンピオンの氷の女王(男)を攻略するついでに世界も攻略する。
 主人公の林肖は戦略系バトルゲーム"Zone"のプロチーム黑玫(黒いバラ)戦隊の隊長だったが、大会で優勝した帰りに交通事故に遭い死亡する。目が覚めるとそこは5年後。肉体は、スター選手に強行公開告白(マイルドな表現)して出禁を食らい傷心で自殺した一介のモブファンになっていた。
そしてかつての盟友、ライバルは軒並み一線で活躍する超人気プレイヤーになり、”Zone”は、5年前からは考えられないほどの熱狂的ブームを巻き起こしていた。
 古巣の黑玫戦隊が、隊長の不在と共に優勝から長らく遠のいていることを知った林肖は、せっかく生き返ったんなら世界のてっぺん取ってやる、と無名の新人の殻を被り再び黑玫戦隊へと潜り込む。
が、実は元の肉体の持ち主が崇拝してたスター選手こそ、黑玫戦隊の現隊長で孤高の女王・尤景だった。好感度最低の状態から女王を手懐けられるのか? 名だたる強豪を蹴散らして王者に返り咲くことはできるのか?
 こんな感じのプロローグ。メインの2人以外にもサブカプっぽいのがちょいちょいあるし、ここは某高校ホスト部か?? と突っ込むぐらいには面白い人たちがたくさん出てくる。戦況でハラハラさせられることはあるが基本ギャグ+主人公最強でテンポ良く進むので精神的ダメージも少ない。濃厚な地獄の合間の息抜きにおすすめ。

2.『病案本』肉包不吃肉  (晋江)

 言わずと知れた肉包先生の衝撃作。番外含め140万字の長編である。邦訳版も絶賛連載中で、これから日本の読者がこの地獄に身を投じるのかと思うと今からぞくぞくする。
 とある珍しい精神病を抱えた少年贺(賀)予と、その主治医だった医者の谢清呈が主人公。詳しいあらすじはプロが手がけた翻訳版で読んでいただければ十分だろう。ひとつ注釈を入れておくなら、ちょっとだけSFというか、超現実的な要素があるので、単なる学生×医者の現代BLでは終わらないということ。
 「これ以上心臓を抉ってくる話があるのか!?」と嘆きながら二哈を満身創痍で読み進めていたが、あった。ここにあった。なんでそんなことするの?? こんなにエロいのに心の息子が反応しない!! 嘘やっぱちょっと勃ってる...... を繰り返し、終盤まできても一向にHEの気配がない。致命的な誤解と決裂が重なっていく。何回スマホを放り投げようとしたことか。序盤はちょっと笑える場面もあった気がするけどあれは幻だったのかな......。
 でも大丈夫。
 作者を信じろ。
履修済みから言えるのはこれだけだ。
『同志たちよ、苦難に屈することなかれ』
 贺予と0.5〜1.0墨燃は同族嫌悪してそう。肉包先生は作者コメントでちょいちょいセルフクロスオーバーしてくれるのも見どころだと思う。個人的にバクステパロとか撮影裏側パロみたいなの好きなんだ。救われるから。

3.『千秋』梦溪石  (晋江)

 これも邦訳が出たので知名度が上がったはず。毎週連載もいいけどいきなり本が出るのも嬉しいね。
 ジャンルは剣と武功で戦う仙侠小説。魔門の一つである浣月宗のトップ晏无师が、崖から墜落して瀕死状態になった玄都山掌門沈峤を拾う場面から話が始まる。
 「親方、空から美人の道士が! しかも高名な門派の掌門です!」「よし、利用してやろう」
こうして沈峤の受難の日々が始まった────。みたいな導入。
 詳しいあらすじは邦訳に任せて割愛するが、性悪説を唱える自覚的な悪人と、性善説を信じて意志を貫く人間が出会うとどうなるのか、というお話。作者の簡単な紹介文には『価値観がまるで異なる二人がどうやってお付き合いするか』とある。
 登場人物それぞれの性格、思考、それに基づく行動が一貫していて、全てが主人公の都合のいいように動かないところがリアルで立体的。驴肉夹饼......。
 見返りを求めず信念に従って真っ直ぐに進もうとする沈峤のメンタルの強さも魅力的だし、折れない意志なんて存在するはずがない、そんな幻想は粉々に砕いて絶望させてやる、とかなり行き過ぎたちょっかいを出す晏无师もこの野郎とは思うけど憎めないキャラ。初めは全然くっつく雰囲気がないので、凡人の想像力ではここからどうやって結ばれるのか全く思いつかないのだが、見事にくっつくのだ。ビューティフル。鮮やかな過程に脱帽するしかない。
 途中から晏无师が本気で追いかけようとするのに、今までの行動が最悪だったせいで全く信じてもらえないのをによによ見守るのはまさに愉悦。でも結局終始沈峤が割を食っている。かわいそう。

4.『大哥』priest  (晋江)

 P大の初期作。最近台湾でドラマ化が発表された。台湾ということはがっつりBLのままやってくれるので、無事放送が始まるのを正座待機したい。
 以下、本家の紹介文を一部引用。"魏谦は、早くに両親を亡くし、幼い妹の面倒を見ながら貧しく苦しい生活を送っていた。ある日、路上生活の孤児に情けをかけてしまったばかりに、しつこく付きまとわれてしまう。粘り勝って家に迎え入れられた彼は小远(遠)と名付けられた。
 苦しい日々を経験してきた魏谦は、どんな手を使ってでも金を稼いで成功し、苦境から抜け出すことだけを考えて、家長として、兄として家族を守ろうと必死に足掻いていた。やがて月日が流れ、ようやく仕事が軌道に乗り、希望の光が見え始めたとき、まさか突然小远の気が触れるなんて。"
 みんな大好き兄受。P大の作品はどちらかというと直接的な描写は少なめで、行間の空白にストローを捩じ込んで無限にちゅうちゅう吸い上げるタイプだと思っているんだけど、大哥は見えてるところにめっちゃおいしい部分がたくさんある。マグロの中落ち。
 魏谦が本当に度を超えた守銭奴なので、おいおいマジかよそんなことまで、としょっちゅう心配になる。小远も独占欲を腹の底で煮詰めて静かにトチ狂ってるタイプ。
 priest作品の文体が好きなら絶対読むべき。

5.『黄金台』苍梧宾白  (晋江)

 架空の古代中国を舞台にした朝廷劇。この世界では男同士の婚姻が公認されている。なんて素敵な設定だ。
 北方の辺境守備軍”北燕鉄騎”を束ねる将軍・傅深と、朝廷の狗、皇帝の耳目と恐れられ誰もが避けて通る、飛龍衛欽察使・严(厳)宵寒。軍権を握る将軍と、朝廷内で権力を持つ廷臣として犬猿の仲の二人だったが、傅深が戦場で両足に重傷を負ったのをきっかけに、皇帝に結婚を命じられる。
 どういうこと??? とツッコみそうになるが、その裏には複雑な思惑が絡み合った深い理由がちゃんとある。『先婚后爱』の説明通り、いがみ合ってた二人がまず結婚して、そのあと恋愛が始まるパターン。
 北から侵入を目論む異族、辺境州と北燕鉄騎の統率権を狙う廷臣たち、玉座を守るのに必死な皇帝......時代劇としてのストーリーもしっかり面白くて、しかも短めなので中華BLの入門編としておすすめ。晋江でもすぐに読めるし、紙媒体も簡体字・英訳版ともに比較的日本でも手に入りやすい。

6.『因與聿』シリーズ 護玄  (実体書)

 台湾の作家による怪異サスペンス。時々幽霊が見えてしまう大学生・虞因が、殺人事件の被害者の霊に(強制的に怪異で脅されながら)導かれて事件解決の糸口を見つけていく。ホラー描写が結構怖い。虞因は毎回どこかしら大怪我をするし、巻が下るにつれて毎回死にかけるようになる。主人公じゃなければとっくにあちらの住人だよ。
 基本的に1冊で事件が解決するシリーズもので、『因與聿』(因と聿)のシリーズは全8巻。15年以上前の作品らしい。イラスト表紙で挿絵もあるのでキャラクター小説、ラノベくらいの立ち位置だと思われる。
 BLとして銘打たれてはいないが、栄養価の高い登場人物が盛りだくさんでとても美味しい。そういう読み方をしているのは正直申し訳ないと思っている。
 まず家族構成。虞因の父親で警官の虞佟(超童顔、普段は温厚で怒るとやばい)、虞佟の双子の片割れで同じく警官の虞夏(同じく超童顔、暴力担当、身体能力が異常)、とある事件で家族を全員失い虞家に引き取られた少荻聿(1巻冒頭で引き取られてくる、事件のショックで口がきけない、虞因より年下だが虞因より遥かに頭がいい)、そして虞因の4人で暮らしている。母は事故で他界。
 それから警察周辺の面子。検死医の厳司(飄々として掴みどころがなく口が悪い胡散臭い長髪メガネ)、鑑識の玖深(若手、ホラーが死ぬほど苦手なのによくやばいものを調べさせられる)、途中から登場する検察官黎子泓(優秀で冷静で頼れるワーカホリック、厳司の学生時代の元ルームメイト、ゲーマー)等々。
 因は当初弟ができることに反発して少荻聿を煙たがっていた。対する聿も突然できた家族に馴染めず、過去の事件にいつまでも囚われて心を閉ざしていた。その後、因の能力のせいで怪異と事件に巻き込まれていくうちに、二人の関係もじわじわと変化していく、その過程がにこにこする。なかなか懐かなかった黒猫がこっそり擦り寄ってきたような感覚を味わえる。
 読むに至った経緯は「渣反新装版が台湾の売上ランキングに入った」という記事を見る→台湾で売れた小説の作家ランキングに目がいく→作者を検索して面白そうな本がないか探す→護玄さんの本に目が止まる、という流れだったように記憶している。
 嬉しいことに電子書籍が博/客/来で購入できたので1巻を買い、好きの塊だったのでシリーズ全巻を一気に購入。ネイティブにはきっと読み易い部類なのだと思うが、繁体字の上に台湾の方言が随所で出てくるので慣れるまで結構時間がかかった。あちらの日常生活や言い回しが学べるので二度楽しい。たまに日本語由来の単語も出てくる。なんなら表紙にサブタイトルの日本語訳が書いてある。山猫(レオパード)、水漬(しみ)、彩券(たからくじ)、とか。「〜の」みたいな感じで流行りなのか? なんか知らんがありがとうございます。

7.『你丫上瘾了!』柴鸡蛋 (別題:上瘾,海若有因) (連城)

 例の伝説のすばる対談の中で話題に出ていたので是非とも読まねばと手をつけた。
 面白い。ひたすら面白い。毎行腹を抱えていたかと思うほどに笑える。口角は吊り上がりっぱなしで一向に下りてこないし、話が常に斜め上の方向へ舞い上がって爆速で突き進んでいく。愛おしい莫迦たちに涙すら出る。
 両親が離婚して父とつましい二人暮らしをしている白洛因と、裕福だが厳格な軍人の家庭に生まれた顾海がメインCP。”上瘾”は中毒になる、という意味で、二人の下の名前を合わせると"海/洛/因(ヘ/ロ/イ/ン)"になる。
 白洛因の学校に転入してきた顾海は、転校早々白洛因の存在が無性に気に食わず、幼稚な嫌がらせを仕掛ける。白洛因も負けじとやり返し、周囲も巻き込むレベルでかなりえげつない嫌がらせの応酬が始まる。正直現実でやったらごめんじゃ済まないと思う。そのうち顾海の頭がバグり始めて、最終的になぜか超強火セコムに進化する。
 学生編と社会人編の2部構成。文量以上に話の展開がはちゃめちゃに早くてジェットコースターみたいに駆け抜けていくので前情報をあまり入れずにこの疾走感を味わってほしい。約束された超絶ハッピーエンドをお楽しみに。読了後にこんな晴れやかな気分になったのは久々かもしれない。
 白洛因の幼馴染の楊猛(ひ弱で女性的な顔立ちに似合わない名前なので”楊萌”てイジられる)、同じクラスの尤其(「特に、とりわけ」という意味の副詞がそのまま人名になってて紛らわしい)の二人もサブカプ匂わせでちょいちょい登場するが、かなり変な関係性でひたすら楊猛が哀れ。
 簡体字版は書題が『海若有因』に変わり、危ない部分はかなりカットされている模様。これも繁体字ノーカット版が台湾の電子書籍で読めるので、絶対にエロい方を読んでほしい。アホなプレイからリバからなんでもある。馬上ックスぐらいの衝撃はあった。
 ちなみにドラマ化もされている。まだ手をつけていないので割愛。

8.『魔尊他念念不忘』墨西柯  (別題:寻九) (晋江)

 ついったの界隈でちょいちょい推されていた「勉強しすぎで過労死したら、小説の世界に転生していた」系ラブコメ(ラブコメ?)。
 主人公の池牧遥は、周りが止めても聞かないくらいに寝る間も惜しんで勉強ばかりする学生だった。とうとう体にガタが来て突然死、目覚めると小説の世界に転生していて、しかも配役は「合歓宗唯一の男弟子」。この配役に合致する登場人物は一人しかいない。彼は最強の悪役の恨みを買って無惨に殺される運命にあるのだ。
 ”合歓宗”は双修、つまりセックスを修行の手段とする邪宗。修行の段階が高い相手と交わり、相手の能力を自分のものにすることで、自分の修為を高めるというとんでもけしからん宗派。千秋でも出てきたってことはオリジナルじゃなくて何か修仙ジャンル共通の設定があるんだろう。
 最強の悪役、溪淮は若気の至りでなんやかんやあってちょっと強いジジイに喧嘩を売ってしまい、キレたジジイに捕まって、池牧遥と一緒に真っ暗な洞窟に幽閉される。原作で合歓宗の男弟子は、身動きの取れない溪淮を好き放題に吸い付くして、最後は溪淮を殺して一人で逃げ出そうとしたために強烈な恨みを買い、地の果てまで逃げた挙句に惨殺される。
 その結末を知っている池牧遥は、惨殺を回避するために身バレする情報を何一つ与えず、怒りも極力買わないように細心の注意を払って、膝を犠牲にして幽閉のシーンをヤり過ごし、行方をくらました。これで命は助かった、あとは寿命までのんびり暮らそう────。
 一方童貞を捧げた相手に置いてけぼりにされた溪淮は、池牧遥を恨むどころか顔も本名も知らないのにベタ惚れして、わずかな手がかりを頼りに池牧遥を探し出すことだけに全精力を注ぎ始める。地頭の良さと美貌だけが取り柄の池牧遥は、金持ち・天賦持ち・チートのペット持ちの全力から逃げ切れるのか?
>>>『配角:道侶結』<<<

9.『小蘑菇』一十四洲  (晋江)

 キノコが主人公のBLなんて初めて読みました。
 ”小蘑菇”はそのまま「小さなキノコ」という意味。
 舞台は荒廃して異形の怪物が跋扈する未来の地球。蟻や甲虫が巨大化し、襲われた人間は”感染”して理性も人の肉体も失い怪物の仲間になってしまう。住処を追われ数を減らした人間は、基地を建設し、その中で必死に生存の道を模索していた。
 人類の基地の一つ、北方基地から少し離れた場所に、人類が恐れ決して立ち入ろうとしない”深淵”と呼ばれるエリアがあった。そこに生えたキノコである安折は、他の同類と違って唯一自由に動き思考するキノコだったが、ある日命よりも大切な胞子をなくしてしまう。その後、深淵で大怪我を負い死の間際にあった人間と出会い、短い会話の後息を引き取った彼の姿を借り、手がかりを求めて北方基地へと向かった。
 人間の基地には「審判庭」と呼ばれる、感染者をふるいにかけ抹殺する権利を与えられた機関があった。そして北方基地には、審判庭の中でも絶対的な権力と判別能力を持った基地の守護者である「審判者」陆沨(陸渢)がいた。
 安折が基地に辿り着いた時、折悪く審判者が感染者を撃ち殺す場面に遭遇してしまう。驚異的な識別能力を持つ陆沨の前に、異形である安折は死を覚悟するのだった。
 ふわふわピュアホワイト人外の安折の可愛さが爆発しっぱなし、しかし人類は超急ぎ足で破滅へと向かう。感情が忙しいことこの上ない。人外特有の達観と鈍さが本当に最高のバランスで調和してるので、人間のふりをする人外が好きなら絶対おすすめしたい。
 陆沨は無慈悲な処刑人的ポジションの性として、畏怖と憎悪を同時に受ける存在。本人も弁解する気も同情を得る気もなく、ただ忠実に職務を全うして基地と人類を守るために引き金を引き続ける。そんな冷血な軍人が安折にだけ人間らしいところを見せる。そんなん好きに決まっとるやろ!!! 人を疑うことを知らないキノコをからかったり、間男()をひと睨みで追い払ったり。
 本来なら相容れないはずの二人が出会う時、運命の歯車がうんちゃらかんちゃら。
 個人的には博士が好き。匂わせサブCPもいる。猫耳でラジドラも完結済み、安折が可愛すぎて耳が溶ける。

10.『限时狩猎』唐酒卿  (晋江)

 『コードナンバー01AE86、姓名、时(時)山延、身長189cm、体重82kg。2160年、黒豹試験に合格し特装部隊に入隊、2162年に部隊を除名、光桐禁監所に収容。特装任務評価機関では、自我の制御能力がやや低く、共感能力に欠け、加えて強烈な支配欲を有する傾向にあるとの評価。任務中何度も規則を破り、危険指数はS級と特記。』
 『コードナンバー7-001、姓名、晏君寻(尋)、身長175cm、体重62kg。2163年、黒豹試験に合格し特殊武装部隊に入隊、2164年に部隊を除名。特装任務評価機関では、身体能力がやや低く、危険な場所での任務に適さない、破壊力を有さないとの評価。』(本文より)
 将進酒の作者による、ディストピア系SFミステリ、という分類になるんだろうか。AIが家事をしたり警察の捜査に協力したりする一方で、行政から見放されて発展が停滞した街区も存在するような近未来の設定。
 晏君寻は、その驚異的な推理力で度々督察局の事件調査に協力をしてきた。今回連続殺人事件の調査協力と共に頼まれたのは、収監されていたはずの危険人物"01AE86"のお目付役、そして彼も調査に協力させることだった。
 他人との接触が得意でない晏君寻に、初対面のはずの时山延はやたらと馴れ馴れしく、同時に一瞬で命を奪われそうな殺気を漂わせる。気づくと相手のペースに呑まれそうになりながら、晏君寻は时山延を伴って事件を追い、犯人を突き止めていく。
 と、初めの方はパスい狙撃手の男が壊れ物の少年を精神的にいたぶりつつ、血生臭い難事件をサクサク解決していくバディ系ミステリかのように思われた。でも読み進めるにつれてなんだか様子がおかしい。晏君寻の過去、事件を煽動する道化師、时山延の異常な執着の理由...。途中で大どんでん返しがあり、そこを越える前と後で話の印象がガラリと変わる。
 明らかに語彙が追いついてなかったのと、世界観に対する想像力の限界がネックになって正直一周ではちゃんと理解できた気がしない。でかめの謎が解明されたあとしばらく思考が停止した。すごく面白いのは間違いないんだがきちんと面白さを消化できていない感じ。無念。
 読了後に同軸別主人公(作中で脇役として出てきた人)の続編があると知り、そのキャラが気に入っていた私は静かにガッツポーズを決めた。続編を読むときに限时狩猎もリベンジしたい。

11.『成化十四年』梦溪石  (晋江)

 同名のドラマを見た方もいるかもしれない。原作はしっかりBLしてるので、千秋の邦訳が出終わったら次はこれが出ないか結構期待している。
 史実を土台にした宮廷ミステリ、またの名を敏腕官吏の出世物語、あるいは有能飯マズ嫁の食べ歩き日記......。
 107万字越えの嬉しい長編小説。えっ、こんなに面白い話をこんなにもりもり読めていいんですか?
 主人公は若くして科挙に合格し、順天府で仕官することになった唐泛・字を润(潤)青。ミステリらしく、初っ端から人が死んで、唐泛が鮮やかに真相を解明する。もうこの時点で頭の良さが滲み出ている。名探偵润青。
 さて旦那はいつ出てくるのかとわくわくしていたら、次に登場したのは若くして皇帝に重用され彼のために設立された治安機関のトップに君臨する汪直さん。
 3歩歩けば敵を作り、生き急いどんのかと言いたくなる速度で勢力を拡大していく毒舌やり手ベンチャー社長()。一目で唐泛の有能さを見抜き、自分の出世に利用しようとめっちゃ接触してくる宦官。そう、宦官なのだ。あまりにも絡みが多くて唐泛がお気に入りですよオーラを垂れ流すからもしかしてこの人が旦那......? と思いそうになるが、違うのだ。だってついてない。
 とはいえはちゃめちゃにいいキャラで、大抵のついてる男に負けないほどの武力、短期間で絶大な権力を手に入れる智力、何度足を引っ張られてもただでは起きない野心、あと顔、どれを取ってもつよつよである。最高。適度に性格が悪いキャラなんてなんぼいてもいいですからね。ちなみに史実と経歴や性格なんかは改変されているが実在の人物だそうだ。
 じゃあ唐泛は一体誰に嫁ぐんだよ。馬鹿野郎攻めは遅れて登場するのがお約束だろ。事件を調査する中で出会ったのが、皇帝直属の禁軍、錦衣衛で中間管理職()を務める隋州、隋広川。初対面は横柄、非協力的、無愛想と三拍子揃った最悪の印象。多分唐泛ぐらいできた人間じゃなかったらそのまま嫌われて終わってたよ。よかったな度量の広い相方で。
 一見武力全振り堅物真面目人間かと思うのだが、話が進むにつれて結構お茶目()な一面がぽろぽろ垣間見えるようになる。それと恋のライバルが多い。うかうかしてると嫁が男女関係なく口説かれる。
 規制とかの関係と、ストーリーもしっかり重視した作りなので直接的に二人がいちゃこらする場面はそう多くはないのだが、少ないからこそたまに挟まる他愛のないやりとりがものすごくクる。
 恋愛の部分を差し引いても本当によくできたストーリーで、ドラマ化も納得の作品。文章も読みやすいので、自力翻訳の第一歩として読んでみてはいかがだろうか。

12.『案簿録』シリーズ 護玄   (実体書)

 前に挙げた『因與聿』の続編。登場人物も引き継ぎで、『因與聿』最終巻の続きから話が始まる。若干厳司と黎子泓に焦点が当たった構成になっているが、相変わらず虞因はよく死にかける。
 こっちは9巻あって、今4巻まで読み終わったところ。神出鬼没の最強殺人鬼みたいな人が出てきてだいぶストーリーが緊迫してきた。
 こちらも同じく電子書籍で読めるので手に入れやすくておすすめ。

番外[漫画]


『恶人想要抢救一下』  木火燃・云中  (bilibili漫画)

 ”快穿”というジャンルがあるんだそうだ。転生者が複数の作品を渡り歩き、ミッションをクリアしていく構造らしい。
 前年から追いかけている"不小心救了江湖公敌”のサジェストに現れ、絵がド好みだからと迷わずクリックした漫画。読んでよかった、めっちゃ面白い。伏線の張り方もテンポもすごくいい。あと絵が上手い。このクオリティで全カラー、全く意味がわからない。ピンク頭ちょうかわいい。あとめっちゃBLする。肝心なところは隠れてるけど十分頑張ってくれてる。
 主人公の転生者・王亿(億)は、系統によってとある物語のとある登場人物として役をこなし、シナリオ通りに物語を完結させるというミッションを与えられる。十分なミッションをこなせば、元の世界へ帰ることができるらしい。無理難題を突きつけられ、メンタル崩壊しかけながらもミッションをこなそうとする王亿。彼にはどうしても元の世界に戻って叶えたい強い願いがあった。
『敬愛なる宿主様、こんにちは。小説、”冷酷な校草(学校一のイケメン)が私に恋をした”の世界へようこそ。この小説は、純真可憐なヒロインが”校草”の主人公秦限を救うお話です。彼が兄に虐待された子供時代の影から抜け出し、愛情も成功も手に入れる青春学園物語です。そして宿主、あなたには素敵な主人公の悪辣な兄を演じ、非情ないじめ、暴言、暴力をふるってもらいます。必ず少年時代の秦限に、一生消せないトラウマを植え付けてください────』
『混蛋! マジで俺は十八層地獄に落ちるべきだろ! 小さな子を殴るなんて! うううう......あいつあんなに小さいのに......なんで”俺”みたいなクズに目をつけられちゃったんだ......』

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2024年は『破云(破雲)』から沼始めしました。

 ところで残次品邦訳の続きはまだですか、アニメ上陸のニュースはめちゃくちゃ歓喜しましたけど、あの、原作の邦訳の方は......気づいてないだけで3話ってもう出てるのかな。今まで読んだ中で一番好きなので一人でも多くの人に読んでほしい。空中分解だけはどうか、どうかしないでくれ。。。

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