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丸山明宏が再構成したメケメケの物語

丸山明宏(美輪明宏)の最初のヒット曲は、「メケメケ」だ。
この曲はシャンソンで、シャルル・アズナヴールが作詞し、ジルベール・ベコーが作曲し自ら歌った。
アズナヴール版と丸山版では、ストーリーが異なる。
どこがどう違うのか、丸山はどういう意図で物語を書き換えたのか、について考察してみたい。

元歌はどんなストーリー展開なのか?

マルティニークの港で埠頭に大型船が停泊している。
若い男の腕の中で娘が泣いている。その船で彼が航海に出てしまうからだ。
「あなたがいなくなると、さびしい。」
でも、それがなんだい? 港でよくある話じゃないか、恋の終りの。
娘は最初は平気を装ったが、突然何がなんだかわからなくなった。
「怖いわ。言っちゃ駄目。あなた無しでは、私、死ぬわ。」
それでも、男は「行かなきゃならない」と船に乗り込む。
キャスティング・ボートに引かれて大きな船は波止場をゆっくりと離れた。
埠頭に残る美しい娘を見つめていた男は、後悔の念に苛まれた。
そして、海に飛び込んだ。
この愛の表現の前に、サメも呆然として男を襲うことはない。

これは、船乗りが航海よりも恋愛を選ぶというハッピーエンディングだ。
アズナヴールは、上手く話を纏めている。

丸山明宏の書いた別のストーリー

港町で色男が船に乗り込もうとして、女が引き留めている状況は同じように描かれている。女が「置いてけぼりはいやだ。」と泣きながら言う。
「あたしは死んじゃうよ。」と。
でも、汽笛が鳴って、出航の時を迎える。
男は椅子から立ち上がる。女はすがり、引き摺られて、石畳に投げ出されてしまう。男は、船を目指して走る。
女は捨てられて、最後に「バカヤロー、情なしのケチンボ。手切れのお金もくれない。」と叫ぶしかない。
そして、女はあきらめて帰る。
やがて海には月も出るだろう。

これは、船乗りに捨てられる女のアン・ハッピーエンドだ。
どうして、丸山明宏はこんな悲しい結末に書き換えたのだろう?

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