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#31 「早く辞めればいいのに」と口にしたときの弊害と、言わないための対策と考え方

 よく「早く辞めればいいのに…」という言葉を耳にします。正直私も、何度も思いましたし、口にしてしまったこともあります。

 結構気軽に発してしまう言葉ですが、人が辞めるということを考えると、傷つける言葉を軽々しく口にするすべきではないと改めて思います。

 言うべきではない理由と、言わないための対策や考え方を、まとめてみました。

1.言われた当人の気持ち

 同僚に、「辞めたらいいのに」と言われたら、私は結構ショックです。自分の仕事に自信を持っていても、その自信が音を立てて崩れ落ちてしまいますし、自信がなければ余計に落ち込んで、卑屈になってしまいます。
 頑張ろうと思っているときに、そのように言われてしまうと、さらに大きな打撃になります。

 私は、畑違いの診療科に転職したとき、初めての診療科だからと言う事で必要以上に緊張をしていたので、仕事に慣れるのにものすごく時間がかかりました。
 当たり前にやっていたことがスムーズにできず、自己嫌悪に陥りました。先輩たちが集まって話をしていると、本当はただの雑談をしていただけであっても、「自分のことを話してるんだろうな」「なんでまだいるんだろうね」って言ってるんだろうなと思っていました。直接的な言葉でなくても、私の言動に「え?」という顔で見合わせるの目撃し、「またやってしまった…」と思ったりしました。
 そうなると、緊張する→失敗する→自己嫌悪+周囲の低評価→今度はちゃんとやらなきゃと意気込む→緊張する(はじめに戻る)といった負のサイクルに陥ってしまいます。
 私は、その時点で10年以上の経験がありました。そして、自分が器用ではないことは痛いほど自覚していましたし、そこで経験を積むと決めていたので、自分がある程度仕事ができるようになれば、解決するという確信があったので、耐えることができました。

 でも、経験がない方だったらどうでしょうか。業務で未知なこと、未経験なことの方が圧倒的に多く、頑張ろうと思って入職したのに否定され、不要だと言われたら、居辛くなるのは必至です。
 そして、退職することになったら、その方は、できない自分、陰口を言われた自分、逃げてしまった自分、をずっと抱えて行くことになります。

2.辞めてほしいと思う理由

 仕事ができないとか、性格に難があるとか、気に入らないなど、辞めて欲しいと思う理由はそれぞれあると思います。
 仕事がなかなか覚えられない場合、プリセプターを始め、関わるスタッフが指導に多くの時間をとられてしまいます。何度も同じことを指導していると、覚える気がないとか、やる気がないように思えてしまい、早々に辞めてもらったほうがありがたいと思ってしまいます。

 そして、そのスタッフ自身やその人の働きぶりが気に入らないからといった、個人的な嗜好で辞めてもらいたいと思う人もいます。

3.本来は育てるのが役目

 指導が大変だから、響かないから、という理由で辞めさせたがるのは、本来お門違いです。相手に合わせた指導方法で、一人前に育てるのが、既存スタッフ全員の役目です。

 特に、嫌いだからという理由で、関わりを拒否したり、きつく当たるのは、自分の本来の役目を理解していない証拠です。そのような人は、自分はそこに必要な人間で、相手は不要な人間だと考えていますが、それは思い上がりかもしれません。
 指導して育てるという役目を放棄して、自分の嗜好で相手への態度を変ええたり、あえて傷つける意志をもって発言したりするような人が、本当にそこで必要とされているのかは、大いに疑問です。

4.本当に辞めた方がいい人もいる

 残念ながら、施設とその方の力量やキャラクターが合わず、辞めた方がお互いのためになる、ということもあります。
 やる気だけではカバーしきれなかったり、そのやる気がなかったり、職場の士気を下げるような振る舞いをする人は、職場を変えた方がいいでしょう。

 やる気があって頑張れば、どこでも働けるというのは、正解であり、不正解でもあります。

 やる気があって頑張れるためには、その職場に合わせて自分を変える必要がありますし、周囲の雑音に耐える精神力も必要になります。それができる人もいますし、難しい人もいます。

 合わないところで、どんなに頑張っても、周囲の態度が冷たかったり、頑張ってる割に、報われたと感じられないことが多く、辛くなるだけです。
 そういう場合は、「せっかく教えてもらったのに、申し訳ない」とか、「逃げてはいけない」と思うのではなく、ここを卒業して、新しいところで挑戦する、という気持ちで辞めればいいんです。辛く嫌な思いを抱えて耐え忍ぶことが、就労ではありません。

5.伝え方を考える

 退職を言い渡すのは、いろいろな理由から難しいです。だからといって、居辛くさせて辞めさせようとするのは、人として問題です。現場でよく見受けられ、麻痺しがちですが、これはただの、いじめやパワハラです。
 スタッフたちは、陰口や嫌味として「辞めればいいのに」などと言わないで、責任者を通して本人に伝えてもらいましょう。

 ここで問題になるのは、責任者の人柄、考え方、力量です。とりあえず、スタッフの意見として「ここでやっていくのは難しいだろう」ということを論理的に伝えましょう。

 責任者は、本人が頑張れるかどうか、他の人との差をどう思っているのかなどを踏まえつつ、本人の気持ちを確認し、部署異動や退職などを打診しましょう。
 具体的な業務を指導するのは、スタッフの役目ですが、いち社会人としての芽を摘んでしまわないように気を配るのが、責任者の役目だと思います。ですから、異動や退職の打診が本人の将来を潰さないような言葉を選んで伝えてもらいたいと切に願っています。
 役職者であっても、先輩であっても、人のやる気を削ぐ権利は誰にもないのですから。

6.「辞めたら新しい人を雇えばいい」という考えの闇

 この発想はごもっともですが、某大学病院で経営陣が同じことを言ったとき、私たち看護師はどのような反応をしたでしょうか?

 私は、どんなに努力してもその程度にしか思われない職業なんだなという悲しさ、虚しさ、腹立たしさが入り混じった複雑でモヤモヤした気持ちになりました。「バカにするな」と怒りをあらわにした看護師の方も多かったと思います。

 でもこれって、職場で「嫌なら(できないなら)辞めればいい」と言っているのと、根本は変わらないのではないかと思っています。もちろん雇用主と従業員、同僚同士と立場が違いますし、規模も随分異なりますが。
 権力を持つものが、持たないものを使い捨てにする…。人が辞めたら新しく雇うことになりますので、言わんとすることは理解できますが、せめて同僚に関しては、使い捨て意識とは違うアプローチをしたいものです。

まとめ

 「辞めればいいのに」と言われスタッフは、失敗体験や辛い記憶だけが残ってしまいます。本来は、指導者が育てるべきで、このような発言は自分の指導する役割が認識できていないことと同じです。
 ただ、施設や部署に合わず、他に移った方が輝ける人もいるので、陰口や嫌味で伝えるのではなく、責任者から打診してもらうなど、伝え方を考え、そのスタッフの未来につなげましょう。

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