「会いたい」 ③
松木は、
何も言わず、うつむきかげんにグラスを口に運んでは、また静かにテーブルにもどす……
沈黙の時間
それはそれでまた、友紀恵の心はたとえようもなく、落ち着かない。
敢えて言うなら海外土産にもらった、変な味の歯磨きペーストを初めて使った時のようだ。
耐え兼ねた友紀恵が口火を切った。
「北海道はまだ寒いでしょうね」
「そうでしょうか…………次の予定って何時にどこ?」
「本当に予定があるんですか」
「ごめんなさい。」
「私、びっくりして…これ以上一緒にいてはいけないと咄嗟に…」
「先生にしたらそうなんですよね。突然驚かせてすみません」
「僕は授業のあと、いつ切り出そうかとずっと思っていました」
「わかっています。世間的にはこんなヒヨッコが、こんな想いを先生に持つことが、いかに不自然で一時的な熱病だと思われるかと
「僕自身、何度も自問自答していたんです」
「でも〜会う度に気持ちは深くなって…」「次は、次こそは、」
「結局、最後のさいごにこんなかたちでしか伝えられなくて…」
どう受け止めて、何と応えればよいのか
友紀恵はさらに、
来てしまった自分の愚かさに
嫌気すらかんじた。
松木が悪いわけじゃないのだ。
親子ほども歳が離れていて、全てを把握出来てなかった自身の行動を恥じた。
どう対処することが
お互いに一番よいのだろうか?
「何度も僕は僕なりに考えて、あなたと歩くと決めました」
「ありがとう。あなたの気持ちはとても嬉しいです。少し時間をくれるかな?」
「北海道までは飛行機に乗ればそんなに遠くないし、私もよく考えてみます」
「そんな大人な返事を、はいわかりましたというほど、僕は子どもでもないし、常識人でもありません」
「今夜あなたを帰すつもりはないんです」
「あなたに見て欲しいものがあります」
つづく
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