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「会いたい」②

「4月からは北海道です」

「先生と、今日で終わりたくないんです。」

いつものように、授業終了後、

ホワイトボードの文字をゆっくり消しながら

松木蒼は続けた。

「呑みにいきましょう」

そう言ったかと思うと、松木は 電話でタクシーを呼んだ。

その強引さに、友紀恵は返事の選択肢を持てなかった。

教室からは、15分くらいだろうか、路地裏にある、小さなバーに着いた。

コノ字スタイルのソファーシートに松木が座った。

(結構遊んでいるんだ〜)

友紀恵は押しきられてついて来てしまった自分に少し嫌悪感を持っていた。

「ローゼスロックでアイス3つ」

「先生、なにのむ?」

(なに?急に友達しゃべり?)

「私はローゼスを水割りにしてください」

「同じローゼス?」

「そう」

あまり話したい気にはならない友紀恵である。

グラスが並んで

「かんぱい」「新しいスタートに」

松木の意図がよくつかめないまま

友紀恵は「オメデトウ」とはぐらかして

グラスに口をつけた。

「ちっともめでたくなんかないですよ」

不満そうな松木に、

「だって北海道にご栄転でしょ」

「嬉しいの?」

「嬉しいとか嬉しくないとかじゃないと思うけど…」

「思うけど何?」

やけに突っかかってくる松木に

友紀恵はすでに腰が浮いていた。

「おかしいですか」

「こんな若造が、先生を好きになるのは」

「でも〜僕は初めての授業の時から……」

今言わなければ、何か言わなければ、

思えば思うほど、言葉が出て来ない。

「ごめんね。私、本当は今から予定が入ってて…もう行かなきゃ…」

無理矢理立ち上がった友紀恵の手を

松木は強く引っ張り引き戻した。

「すみません。」

「もう少し一緒にいてくれませんか」

                                                       つづく










                                                                                          


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