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自宅に帰りたい患者さん

私は療養型の病院で、入退院のお手伝いをする仕事をしています。

私の担当しているTさん、70代の女性、独居。
入院する時には、家に帰る予定のなかったTさんですが、「家に帰りたい、こんなところにいたくない。」と激しい帰宅願望があり・・・。

今現在、自宅に帰るための調整をしています。
さて、無事に帰れるでしょうか?



Tさん

Tさんは息子さんが一人、ご本人も息子さんもわりと言いたいことをハッキリ言う気の強そうな人です。

私の勤める病院に転院してきたのは、2か月ほど前でしょうか。

もともと一人暮らしをしていたのですが、自分で自分のことが出来なくなってきて、家で転んで動けなくなっていることが増えていたそうです。自宅での生活は、そろそろ難しいかと思っていた時に、肺炎になり近くの総合病院に入院になりました。

入院して肺炎が落ち着いてきたので自宅へ退院の話が出た頃に、食事中に窒息したため生死の境を彷徨い、なんとか回復。しかし、酸素投与が必要になり、誤嚥を繰り返していることから食事もミキサー食になり、これでは家に帰れないと私の勤める病院へ転院してこられたのです。

入院してきた時は、酸素をしていたし、歩行器歩行はなんとか出来ていたけれど不安定で1人では歩かせられない感じでした。食事はもちろんミキサー食。でも、本人は最初から「家に帰りたい」って言っていたのです。気の強そうな人だなぁって思ったのが第一印象。

家族へは、酸素が必要なくなり状態が安定したら退院を考えましょうと話していましたが、まさか、本当に退院するとは思っていなかったのです。

帰宅願望

Tさんは、ひとつ言い出すと手に負えなくなります。

「こんなとこにはもういたくないのよ」
「脱走してやろうかしら」

手に負えず、家族に説得してもらったこともあります。

帰宅願望が強すぎるので、酸素が外れるか試してみたり、食事をお粥とキザミ食にしてみたり、リハビリを頑張ってもらったり。

自宅に帰るのであれば、自分のベッドから台所やトイレに行けないと帰れません。リハビリすることで、ずいぶん体力も回復し、杖歩行も出来るようになりました。

家族に伝え、退院をすすめることにしました。家族は帰ってきてほしくないので、これまた、間で調整している私は怒られっぱなしで(苦笑)

それでも、なんとか退院の方向をすすめていくことで同意してもらいました。ケアマネージャーさんを決め、家族と契約を結んでいただき、具体的なサービス内容を決めていきます。

家に帰る前に、家族と打ち合わせをして、退院日を決めるところまできました、Tさんが家に帰るまで、あと数日なのでしょうか。

退院できるかな

ある程度、退院のめどが立ったので、本人に「今、自宅に帰られるように調整しているところだから、もう少し我慢していてね」と話をしたのですが。

Tさん「なんでそんなに準備が必要なの?」
私「家の中で転ばないように家の手すりとか準備したり、ヘルパーさんの手配をしているの」
Tさん「そんなことしなくていいから、タクシーに乗って帰ればいいんだから!もうこんなところにいるの、嫌なの!」
私「そうは言っても、一人で生活できないから準備が必要なんだよ。」
Tさん「もうタクシーで帰るからいいんだって」
私「タクシー呼べるの?」
Tさん「・・・・(しばらく黙って)念を送るから」
私「それで、タクシー来てくれるの?」
Tさん「・・・・無理やね。」
私「じゃぁ一人で出来ないこと多いから、家に帰ってもまた入院しないように転院先考えるね」

少しユーモアもあったのか、念でタクシーを呼ぼうとするので、困ってしまいます(笑)。

そんなやり取りをして、準備してから帰ることにしぶしぶ頷いていましたが、さて、退院日まで待てるでしょうか?

帰宅願望の強い患者さんは決して少ないわけではありません。家に帰るリスクを説明し了承していただいた上で、自宅退院ができればいいのかなと考えています。リスクばかり言っていては自宅で生活出来ないですしね。

自己主張は大切なことなのですが、やっぱり職員は毎日の関りなので、疲れてしまうかもしれないですね。これが、病院が抱える問題点の一つなのでしょう。

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