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能登半島地震から考える日本の耐震基準②  2024/1/27

 能登半島地震で、木造住宅が大きな被害を受けています。このような被害を防ぐためには建物の耐震化がとても大切ですが、能登半島では高齢化が影響してか、築年数の古い旧耐震の建物が多く、耐震化率が50%程度の地域もあると言われています。
 今回は、どのような木造建築物が被害を受けやすいのか、熊本地震の調査報告を基に、耐震性を確保するための重要ポイントについて解説します。
筆者は、建築に関する業務を25年ほど行っている構造設計一級建築士です。

出典:林野庁HP(熊本地震での木造住宅の被害について(熊本地震報告))

(1)旧耐震基準の木造建築物は高い倒壊率(熊本地震報告①②)

【重要ポイント①②】
・壁の量が多いことが重要で、新耐震基準を満たせば倒壊・崩壊をある程度防げる

 昭和53年の宮城県沖地震により耐震基準が見直され、昭和56(1981)年6月に新耐震基準として木造については壁量規定が強化され、旧耐震基準より多くの壁量が必要となりました。
 能登半島は、古い建物が多くあり耐震化が進んでいないようなので、旧耐震基準の建物が多く倒壊しているのではないかと推測されます。
 なお、平成28年の熊本地震では、昭和56(1981)年6月以前の旧耐震基準で造られた建物は、新耐震基準で造られた建物に比べ、顕著に高い倒壊率でしたが、新耐震基準で造られた建物の倒壊・崩壊は少なく、新耐震基準で必要とされている壁量を満たしていれば、倒壊・崩壊が防げる可能性が高いことが確認されました。

壁量規定とは・・・
 木造建築物の構造形式は、軸組工法やツーバイフォー工法がほとんどですが、これらは、地震の揺れや暴風などにより建物にかかってくる力を、耐力壁・筋交いが抵抗し建物の倒壊・崩壊を防いでくれます。
 大きな窓を一面に設けるなど耐力壁や筋交いが少ない建物や強度の低い耐力壁が多い場合、地震などに抵抗する力が小さく、地震の揺れに耐えることができずに倒壊してしまいます。この耐力壁・筋交いの最低限必要な量を定めた規定が壁量規定です。
 この壁量規定の必要壁量の1950年の建築基準法制定以来、1959年と1981年の2度強化され新耐震基準で規定された壁量があれば、倒壊・崩壊が防げる可能性が高いということです。

(2)2000年基準は、倒壊率は低い(熊本地震報告③)

【重要ポイント③】
・基礎に鉄筋が入った丈夫な鉄筋コンクリート造の基礎であること
・基礎、土台、柱、梁、筋交いなどが、しっかりした金物で、しっかりと緊結されていること
・耐力壁、筋交いが、バランスよく配置されていること

 平成7(1995)年に発生した阪神・淡路大震災における被害等を受けて、平成12(2000)年に「建築基準法施行令」の改正と告示の制定・改正がなされ、木造住宅の基礎の仕様や接合部の仕様、壁配置のバランスのチェック等、同震災の被害調査で指摘された箇所への対策の明確化等が行われました。
 その結果、建築基準法における現行の耐震基準では、震度6強~7に達する程度の大規模地震でも倒壊・崩壊するおそれのない建築物とすることを目安に基準が定められ、2016年に発生した熊本地震においても、2000年以降の建築物の倒壊率は低くなっています

耐震基準と震度の関係について
「この建物は震度いくつまで耐えられるのか?」などと、よく聞かれるのてますが、地震時に実際の建物にかかってくる力は、地盤の条件や、建物の固有周期、地震時の揺れ方など、さまざまな要因が絡んでくるので、単純に震度と耐震基準を比較することはできません。概ねこのくらいと言われているものてすが、
〈旧耐震基準〉
震度5程度の中規模の地震で大きな損傷を受けない
〈新耐震基準〉
・中地震では軽微なひび割れ程度の損傷
・震度6程度の大規模な地震で建物の倒壊や損傷を受けない
となります。
 新耐震基準は、倒壊・崩壊はしないが、軽微なひび割れ程度の損傷は許容されているため、無被害とは限らないということになります。

(3)耐震等級3の建物は、大部分が無被害(熊本地震報告④)

【重要ポイント④】
・新耐震基準の1.5倍などの耐震性能とすれば、無被害となる可能性が高い

 耐震等級とは、2000年に施行された地震に対する建物の強度を表す指針。 住宅性能表示制度や長期優良住宅制度で規定された耐震に関する基準です。
 その基準は、耐震等級1から等級3まで、性能の高さを段階的に表しています。耐震等級1は、「建物における最低限の耐震機能を満たした建物」で建築基準法の新耐震基準となります。等級2は等級1の1.25倍の耐震性能、等級3は等級1の1.5倍の耐震性能となります。
 熊本地震では、耐震等級3の木造住宅には、大きな損傷は見られず、大部分が無被害でした。
 近年では、住宅性能表示制度や長期優良住宅制度の制定に伴い、建築基準法の求める耐震性能の1.5倍以上の性能(住宅性能表示制度 耐震等級3)を持つように設計される建物が増えてきています。これらのように、構造や工法の種類に関係なく、設計の工夫によって高い耐震性を持つ住宅の実現が可能です。

◯木造の耐震基準が新たなフェーズへ
 施行はあと一年ちょっと後となりそうですが、現在「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)」が、国土交通省から示されています。
 今まで、木造2階建てなどは、簡易的な壁量計算でよかったものが、建物の重さをしっかりと出して、壁の耐力と比べる構造計算に近い規定になりそうです。これについては、また別の機会に解説します。

(4)その他
【重要ポイント⑤】
・地盤の良い場所に建てる

 地盤が緩いと揺れが大きくなります。能登半島地震で被害が大きかった地域は、地盤が悪かったと推測されます。
 また、液状化については、粒径が均等な砂質地盤で起こります。液状化が酷いと建物が傾いたりする被害が出る可能性があります。一度傾いてしまうと直すのに多額のひようが必要になりますので、あらかじめ、各自治体が出しているハザードマップ、液状化危険度マップなどで、確認してみましょう。
 液状化に対する事前の対策としては、杭を打つか、地盤改良を行うことが大切です。

・建物を重さを軽くする
 「地震力=重さ×係数」なので、
瓦屋根などの重たい屋根で建物の重さが重くなると、建物に作用する地震力は大きくなります。建物全体を耐震改修することは難しくても、屋根を軽い屋根に変えるだけでも、耐震性があがります。
 木造の耐震基準が新たなフェーズへで触れましたが、今後の耐震基準としては、「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)」により構造計算に近い規定になり実際の重さから地震力を出し、それ以上の耐力壁などの壁を設けるという、検討を行うことになりそうです。設計の手間は増えますが、より詳細な検討により壁量を決めることになるので、地震に対する被害防止の観点から、正しい方向の改正になると思います。これについては、また別の機会に解説します。
 


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