ほんのり怖いから、相当怖いまでの小説
怪奇小説オムニバスと名がつく本の目次を見ると、半分近くが既読、という怖い話オタクです。とはいえさして詳しくもないので、少しだけレアなやつを選んでみました。怖さは順不同。
『旅行時計』 W・F・ハーヴィ 国書刊行会 怪奇小説の世紀1より
叔母の友人から、留守宅に旅行時計を取りに行って欲しいと頼まれた主人公。留守宅、というところからしてほんのり怖いけれども、そのあと怖さのせまってくるときのオノマトペがもう…出だしはのんびり、あとはあっさりしてるけれど、怖いよう。
『BJ』藤野千夜 講談社 おしゃべり怪談より
結婚したばかりの主人公は西日の当たるマンションに引っ越しをするのだが、どうにもそこに、おかしなものがいる気配。新婚夫は間が抜けてるし、賃貸なのに強制参加させられた自治会も少しだけ首をかしげる出来事はあるわで、新しい生活ってこんな変なもんだっけという主人公のとまどいが伝わってくる。何気ない出だしと藤野さんのするする綴る文体もよくて、何度も読んだ。
『見た男』A・M・バレイジ ちくま文庫 イギリス恐怖小説傑作選より
イギリスの古い怖い話って、導入部がのったりしてる。でも、それがまたいい。書き仕事をするために、中庭にあるホテルに所謂カンヅメしている男の話。薄暗い中庭、そこに現れるものとは…。怖さの描写もさることながら、ひとりカンヅメになっているという特殊な環境で起きるできごとって、余計に怖い。最後の一行がまた、こはいんです。
『吉備津の釜』日影丈吉 河出文庫 日影丈吉傑作館より
事業に失敗した主人公が、飲み屋で出会った男の紹介で金を借りに行く場面から物語は始まる。怖いというより、物語のなかに物語が隠れていてそれが最後にビターっと噛み合う面白さがすごい。怖さも二回味わえます。昭和初期、隅田川水上バスが生活の足だったころの情景が、フランスで料理人をしていた作家のさらっとした文体で描かれているのも良きかな。
『深夜特急』アルフレッド・ノイズ 講談社
世界ショートショート傑作選1より
この物語にもしも挿絵があったら見たくないよー。怖そうだよー。グロテスクとかじゃなさそうだけど、記憶に残したくないんだよー。
だって、内容が、子どものころに父の本棚で見た「深夜特急」という本の挿絵とそっくりの場面に大人になってから遭遇する物語なんですから。物語in物語に普段は憧れるけれども、実際になったら怖いです。
『パーティ』池澤夏樹 文春文庫 骨は珊瑚眼は真珠より
最後はかなり短いお話しです。
なんか怖い話しないですか?と職場の後輩にねだられた主人公が、豪雨のために急遽山小屋に泊まって翌朝早く下山した時にであった不思議を話すのだが…。え、怖さが二重構造になってるんだけど、えー、とか言ってる間にさらっと終わってしまいます。
初読の怖さって、トーゼン一度しか味わえないんですけど、何度も読みたい怖さってありますよね?そんな感じの怖い話を集めてみました。今はもう、手に入らなそうなものが多いですが…(それがまた怖い)。
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