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ガザ、これまで目にしたこともない残酷さ

ガザにおけるイスラエルの大量虐殺、それは外科医の私たちがこれまで目にしたことのない残酷なものだ

Feroze Sidhwa
Mark Perlmutter
2024年4月11日
翻訳:折口学

これを読んだら、この猛攻撃が続く限り、イスラエルへの武器供与を停止するよう声をあげてほしい。

3月25日、整形外科医と外傷外科医のわたしたち 二人はハーン・ユーニスにあるガザ・ヨーロッパ病院で働くため、ガザ地区に入った。二人はあふれかえる汚水のはなつ悪臭、そして大気に漂う火薬の独特な臭いに圧倒された。ガザ・ヨーロッパ病院はガザに暮らす250万人の住民(その半数は子どもたち)にとり、曲がりなりにも機能する最後の病院のひとつだ。わたしたちは人道主義にもとづく医者として世界中、ありとあらゆる残酷な現場を経験したつもりだった。しかし、ガザで遭遇したのはこれまで二人が見たこともないものだ。

車を降りると、わたしたちを大勢の子供たちが取り囲んだ。みな、標準よりも背が低く痩せている。新たな外国人の到着に喜ぶ子供たちの歓声をよそに、上空にはイスラエルの無人機がスノーモービルのような音をあげている。その音は日常の背景に紛れ込み、この包囲され、略奪された場所では、暴力と死はいつだって誰にでも降り注ぐ可能性があることを思い知らせる。

ただでさえ限られた睡眠時間は、国連安全保障理事会が停戦の実行を迫る宣言をした後ですら、病院の壁を揺るがし、耳をつんざく爆発音で絶え間なく妨げられる。戦闘機があげる悲鳴を頭上に聞くと、誰もが身構え、地を揺るがす大きな爆発に備える。攻撃はいつも「イフタール(断食明けの食事)」を狙って仕掛けられる。ほとんどの住民がムスリムだから、毎日ラマダンの断食を終え、家族が集まり、最も気を抜く時間を狙ってくる。

病棟を歩けば、民間人や子供たちが悍ましい暴力に意図的に晒されている証拠を至る所に見ることができる。頭を撃ち抜かれた3歳の子供、胸を撃ち抜かれた12歳の娘、腹部を撃ち抜かれたICUの看護師。どれもが世界で最良の訓練を受けた射手の仕業だ。病院内には仮設テントが隙間なく並び、住む場所を奪われた家族が、少しでも安全な場所に逃れようと必死だ。その数百人に満たない家族は病院の建物の中にいるだけマシで、建物の外には数万人の避難民が溢れている。

診察を始めるやいなや、人々に加えられている暴力に衝撃を受けた。とてつもなく強力な爆薬が岩や床や壁を引き裂き、土や瓦礫は人間の肉体を突き破り、皮膚を波状に貫通する。土や瓦礫が文字通り埋め込まれた患者の肉体に感染症の対策をとることなどできない。医療はこのように加えられたダメージに施すすべがない。

わたしたちは人道的外傷外科医として、信じ難い苦難の現場を歩いてきた。9.11の爆心地(グラウンド・ゼロ)、ハリケーン・カトリーナ、ボストンマラソン爆弾テロ、そして2010年のハイチ地震。これらの災害の初動に立ち会ってきた。ジンバブエ南部の困窮やウクライナ戦争の恐怖の中で働いてきた。ふたり合わせて57年間のボランティア活動を通し、三つの大陸のさまざまな発展途上国で、40以上の外科手術ミッションに携わってきた。この長い経験を通し、人道的外科医にとり、患者に必要な治療を提供できないことほど辛いものはないことを悟った。

しかし、それはガザに来る前の話だ。今、わたしたちは、死にゆく子どもを前にして何もできない苦しみを学んでいる。娘の家族はすでに皆殺され、ひとりで死を迎えようとしている。わたしたちには、家族がどうやって殺されたのか、子供たちに伝える勇気がない。人間の体というよりは、ぷっくりとはち切れ膨れたホットドッグのようになるまで焼かれた死。スタズタに切り裂かれ、まとめて埋葬するより仕方のない死。そうでもなければ、アパートの残骸に生き埋めになり、窒息と敗血症でゆっくりと迎える死。
いわゆるパレスチナの「占領」に米国は多額の資金を提供し、圧倒的な武力を提供してきた。パレスチナの「占領」という言い方は誤解を招く。イスラエルの初代大統領のチャイム・ワイズマンは、パレスチナ人の存在は取るに足らない「どうでもいい問題」だと片付けた。その30年後、モシェ・ダヤン国防相は、パレスチナ人は「これからも犬のように生き続けるだろう。。。それがどんな結末を迎えるのか、すでにご存知の通りだ」と内閣で発言した。

その結末を、今、わたしたちは目の当たりにしている。ガザ・ヨーロッパ病院で、ふたりの外科医は外傷室と手術室の床を染める血がわたしたち自身の手から滴落ちたものだと気づかされた。無力なガザ住民はわたしたち米国人が与えた資金、武器、外交支援のおかげで、大量虐殺に晒されている。

われわれふたりは、ジョー・バイデン大統領をはじめとするアメリカの政治家が、イスラエルが対パレスチナ戦争を続ける限り、イスラエルへの支援を取り消すよう、要求し続ける。それがかなわなければ、人類は過去100年の歴史から何も学んでいないことになる。ポーランドの詩人、スタニスワフ・イェジ・レックは「雪崩を起こした雪のひとひらはその責任を感じない(雪のひとひらは自分が雪崩を起こしたことに気づかない)」と言ったが、人類に対する犯罪に私たち米国人は責任を認めなければならない。

イスラエル空軍が去年12月までにガザに撒き散らした米国製の爆弾は、広島を破壊した原爆2発分を上回る。ガザではこの半年で1万4千人近くの子どもが殺された。これは、過去4年間、全世界の紛争地域における死者の数を上回る。歴史上、これほどのジャーナリスト、医療従事者、救急隊員が犠牲になることは、いかなる規模であれ、これまでの紛争ではない。わたしたちのチームはガザ・ヨーロッパ病院が直接攻撃にあってもおかしくないという恐怖を抱え、毎日生活している。すでにいくつもの病院が標的になった。ガザ市のアル・シファ病院はすでに灰燼に帰した。医療スタッフの殺人、誘拐、拷問が度重なり恐怖は募るばかりだ。

わたしたち二人は、この死と恐怖の雪崩を止めようとしてガザにやってきた雪片だが、同時にその責任も痛感している。この文を読んだら、この大量殺戮が止むまで、イスラエルがガザ包囲を解くまで、そして占領を終わらせる交渉が始まるまで、イスラエルへ武器供与を止めるよう、声をあげていただきたいと思う。


Feroze Sidhwa カリフォルニア、ストックトンのサン・ホアキン総合病院の重度外傷性外科医
Mark Perlmutter 北カロライナ、ロッキー・マウントのUNCヘルス・ナッシュの整形外科医

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