マガジンのカバー画像

Starting over

6
傷ついて立ち止まっていた人々が歩き始めるまでのお話
運営しているクリエイター

#シロクマ文芸部

【SS】一瞬

【SS】一瞬

「布団からベッドへ。ちゃぶ台からダイニングテーブルへ。生活は変わっていったわ。結婚して、子供も二人いて。貧しかったから古くて狭いアパートの一室に四人身を寄せ合って暮らしていた。主人と二人一生懸命働いたの。必死に働いていたから苦しいとか辛いとか考える暇もなった。今は広い家に住まわせてもらっているわ。子供たちも独立したし、楽をさせてもらっているわ。でも、なんかね、あの頃の狭いアパートがたまらなく懐かし

もっとみる
【ショートストーリー】雨にお願い

【ショートストーリー】雨にお願い

「走らない?」
彼女はそう言ってカバンを肩にかけた。
「でも、まだ雨が…。」
僕はそう言ってフロントガラスに打ち付ける雨を見上げる。確かに少し降り方が落ち着いてきたみたいだけど…。
会社の駐車場に車を停めた途端、滝のような雨が降ってきた。建物までそう離れていないのだが、外に出たらあっという間にずぶ濡れになってしまうだろう。社用車の中、僕と彼女は無言で雨を見つめていた。
彼女は今、何を思っているのだ

もっとみる