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監視資本主義社会の到来で、自律的人間が終わる

 ズボフの『監視資本主義』について、前回は、グーグルがわたしたちから膨大なデータを収集していて、プライバシーを侵害しているといった問題を中心に取り上げましたが、今回は、そのデータをもとに、わたしたち自身が操作されている可能性について主に取り上げていきます。


操作のために駆使される心理学的手法

 クリック率の高い効果的な広告提案をするには、情報の量だけでなく、多様さも求められるようになり、スマホやパソコンなどの情報端末にとどまらず、調理家電やお掃除ロボットなど電化製品全般に、グーグルなどの手がのびていることが前回の投稿の内容でした。

 そのうえで、グーグルなどが推し進めているのが、わたしたちの行動を自分たちが意図したように操作していくことであり、次のようにあります。

競争の第3段階では監視資本主義者は行動の経済の必要性に気づいた。それには、ただ行動を追跡、補足、分析、予測するだけでなく、ユーザーの遊びや活動に介入し、積極的に行動を形づくる手段が必要とされる。その結果生まれた新たな生産手段は、精巧で新しい行動修正の手段に従属し、保証された結果に近づくために、さまざまな機械処理、技巧、戦術(チューニング、ハーディング、条件づけ)を用いて、個人、グループ、集団の行動を形づくる。産業資本主義が常に生産手段の強化を強いられたように、監視資本主義者は現在、行動修正の手段の継続的な強化を強いられている。

『監視資本主義』

 この行動修正という、わたしたちの行動を操作するために、いろいろな心理学的手法が用いられているわけですが、そのイメージがわきそうな部分を取り上げます。

わたしたちは実体としてではなく、類型として精査される。あなたに指示された(自動車保険の)価格は、あなたが何を書いたではなく、どのように書いたかによって決まる。すなわち―あなたの文章の中身ではなくその長さや複雑さ、記載した内容ではなくあなたが記載したという事実。写真の内容ではなくフィルターの選択や彩度。何を開示したかではなくどのように開示したか、あるいはしなかったか。友人に会うためにどこに行く計画を立てたかではなくどのように計画を立てたか。漠然と後でと言ったのか、それとも正確な時間と場所を決めたのか―。加えて、感嘆符や副詞の選択は、あなたのパーソナリティを明かす、潜在的に有害な信号として機能する。

『監視資本主義』

 どういう人間かの判断を、書いた内容ではなく、本人すらたぶん気づいていない無意識的なところでとらえようとしていて、本当に気持ち悪いと思います。そしてわたしたちをさらに深く知ろうとする試みは、顔動作記述システム(FACS)などでさらに進化しているようです。

FACSは顔の筋肉の基本的な動きを見分け、それを27の顔の「行動ユニット」に分類し、頭、目、舌などについても同様に分類する。後にエクマンは、6つの「基本的感情」(怒り、恐れ、悲しみ、喜び、嫌悪、驚き)が人間の幅広い感情表現の拠り所になっていると結論づけた。FACSと6つの感情モデルは、顔の表情と感情の研究において支配的なパラダイムになった(後略)

『監視資本主義』

他者の道具としてのわたしたち

 生体センサーや深層センサーを搭載し、気づかれないほど小さなカメラを使って、わたしたちの細かな表情までとらえようとする試みが進んでいるようです。こうやってえた情報をもとに、顧客を類型化して、どのような販売を望んでいるかを推測し、心に響くメッセージを練って、届けることで、人々の行動を変えるといった操作が行われています。それはクリック率であり、最終的には成約率が少し上がるだけで、収益を劇的に増やすことができるからです。ですから「監視資本主義の目的は、わたしたちを破壊することではなく、わたしたちの著者となり、その著作から利益を得ることだ」と書かれています。
 わたしたちはそうやって利用されており、そういった状態を本書では道具主義(instrumentarianism)と呼んでいます。

修正・予測・収益化・支配を目的として、行動を計装し、道具化することと定義した。計装とは本来、「計器を装備して、監視や制御を行なうこと」だが、この定義においては、「人間を操り人形にすること、すなわちわたしたちを、人間の経験を視覚化し、解釈し、操るコンピュータと常時つなげておくこと」を意味する。「道具化」とは、監視資本がわたしたちを他者の市場目的を果たす手段へと変えるために、わたしたちの経験を操ることを意味する。

『監視資本主義』

 このような道具化にいたる心理学の源流に、「徹底的行動主義」があると著者は指摘します。その先駆者に、一切の主観を排除して、行動の観察に専念すべきだと主張したスキナーがいます。自由と無知は同義語だと書いたそうで、人間に本来自由などないと考えていたようです。

自律的人間の廃止

 このスキナーを完成させたのが、MITメディアラボ内のヒューマンダイナミクス・ラボのディレクター、アレックス・ペントランドだと本書では位置づけます。

ペントランドは自らの目的は、機械システムのように機能する社会システムを開発することだと述べる。そのシステムは、行動データの流れを用いて、「正しい」行動パターンを判断し、「悪い」行動を「正しい」行動に変える必要がある時には介入する。ペントペンランドは次のように警告する。「人々が正しく相互作用せず、情報が正しく広まっていないと、人々は悪い決断を下す。必要なのは、人間と機械の共生生物を作ることだ。そこでは、人間はコンピュータのおかげで相互作用のネットワークについてより深く理解し、一方、コンピュータは人間の働きについてより深く理解できる」。

『監視資本主義』

 そういったシステムをつくろうとしているのがグーグルのようで、グーグルの共同創業者であるペイジは次のように言ったとあります。

グーグルは、世界の情報を最も望ましい形で管理することを目指していたが、ペイジが望むのは、グーグルが社会組織そのものを最適化することだ。2013年に彼はこう言った。「わたしのかなり長期的な世界観において、我が社のソフトウェアはあなたが知っていること、知らないことを深く理解しており、さらには、重要な問題を解決できるようにこの世界を組織する方法を知っている」。

『監視資本主義』

 あらゆる情報を集めて正しい判断をしてくれるような印象を、あたかも与える発言ですが、実際には、どのような方向に導くかを決めているのは、AIではなく、グーグルの上層部のようで、法学者フランク・パスクワーレが次のように述べています。

「グーグルプレックス(グーグル本社の通称)では、決定は秘密裏に行われる…情報を出すか出さないか、どう順位づけするかを決める権利は、その情報についてどのような印象を定着させるか、あるいは消すかを決める権利でもある。…彼らは客観性と中立性を謳っているが、常に特定の価値観に基づいて、歪んだ決定を下している。そうやって世界の創造を手伝いながら、ただ世界をわたしたちに『見せている』だけだと主張する」。

『監視資本主義』

 グーグルの上層部がわたしたちを導く方向を決めていると書きましたが、より広い視点にたつと、国際金融資本であり、その背後にいる一握りのエリート層が決めているのですね。グーグルは彼らの先兵としてわたしたちの生活に深く入り込んでいて、人々がほとんど警戒することなく、存在してしまっていることが私は問題だと思っています。
 グローバリズムの問題として、戦争や感染症対策の注射は犠牲者も多く、見ることができることで注目が集まりますが、グーグルによる操作という見えない脅威も同じくらい大きくて、そこに気づいてもらいたいのですね。なぜならズボフも警告しているように、知らなううちに廃止されようとしているのが、自律的人間だからです。

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