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おすすめ本紹介シリーズ

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約週1回ほどのペースで投稿しているおすすめ本紹介をまとめたものです。どれも他の人に読んでほしいお気に入りの作品なので、少しでも興味を持ってくれれば幸いです。
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2023年7月の記事一覧

王道回帰は緻密なパズルと共に ~零 雫『不死探偵・冷堂紅葉』を読んで~

 少し昔、私は「ライトノベルでミステリは受けない」という噂をインターネットで聞いたことがある。その影響に乗せられて「なぜライトノベルでミステリは流行らないのか」というテーマの論文を書いたこともハッキリと記憶に残っている。(調べも甘く決して完成度が高くない代物ではあるが)類似の枠組みであるライト文芸でミステリが多かったことにも引っかかりを感じていたのかもしれない。  そんな経験もあってか、『不死探偵・冷堂紅葉』という近年のライトノベルにしては珍しいド直球なタイトルに興味を持った

幕末と明治の狭間を彷徨う ~今村 翔吾『イクサガミ』を読んで~

 大概の書店では文庫本のコーナーの中に「時代小説」がひとまとまりに固められている事が多い。そのせいもあってか、私の中では小説に限らず「時代物」というのは敷居の高いジャンルだと思い込んでいた。  当然だがそのコーナー以外にも時代物の作品が置かれている。今回紹介する『イクサガミ』もその1例だ。通常の文庫本コーナー、とりわけかなり目立つ場所にあったものを手に取った。  私はあまり時代小説を読んだことが無い。それでも楽しめたのはこの作品が多ジャンルのエンタメ性を織り交ぜているから

今だから描ける未来社会 ~Mika Pikazo/ARCH原作・吉上 亮/三雲 岳斗著『RE:BEL ROBOTICA』を読んで~

 創作において未来世界をそれたらしめるのは、現在の最先端技術のさらに上を行く何かが、社会全体に享受されていることではなかろうかと考えている。古びた表現かもしれないが、空飛ぶ車や家族同然のロボットなんかはその最たる例だろう。  今回取り上げる『RE:BEL ROBOTICA 』もまた近い未来を舞台としている。例に漏れず、私達からするとオーパーツのように感じる技術が一般化されている。だが、その世界に潜り込んでいると、どこか今っぽさを感じて仕方がない。 あらすじ 2050年、AR

異質なゲームが人を惹きつけて離さない理由 ~鵜飼 有志『死亡遊戯で飯を食う。』を読んで~

 これは個人的な見解なのだがライトノベルの新人賞受賞作は発想が"尖って"いることが多い。差別化のためだろうか。そういう意味では『死亡遊戯で飯を食う。』は近年の新人賞受賞作品の中でも、トップクラスに"尖って"いる。少し表現を強めるならば"異質"と言い換えられるかもしれない。既存ジャンルにまとめることも不可能ではない。しかし、いざそうしてみるとどこかに違和感を感じてしまう。どこを切っても新感覚という奇妙さに惚れ込んだのは私だけではないはずだ。 あらすじ クリアすれば初心者でも3

ビジネスも世界も人ありき ~初鹿野 創『彼と彼女の事業戦略』を読んで~

 Twitterを初めてからもうすぐ1か月が経とうとしている。タイムラインはいつ見ても最新の情報が流れてきて飽きさせない。そんな中で少し前からタイムラインでよく見る書影がいくつかあった。その中の1つが『彼と彼女の事業戦略』だ。正直な話、ライトノベルとビジネスが上手く結びつかなく、普通のビジネス書だと勘違いしていた。しかし、日を重ねていく内に賞賛のつぶやきを目にすることが増えているのを見て、興味本位で購入した。  実際に読んでみると皆がここまで評価している理由に納得した。確か

闇鍋本格ミステリの"ミステリ"が凄い 〜青崎 有吾『アンデットガール・マーダーファルス』を読んで〜

 近年ライト文芸ではミステリ作品の刊行が目立っている。その中で活躍する探偵達はミクロな分野の知識のみを用いて活躍する。探偵像は私達が幼い頃にイメージしたものから少し遠ざかり、現実に近い世界観で物語が展開されている。『アンデットガール・マーダーファルス』もまたライト文芸レーベルから刊行されているミステリシリーズだ。しかしながら、いくつかの王道要素を踏まえながらも他作品では味わえないような独自の雰囲気を持っている。その異質さを一言で言い表すならば、3巻目の帯にて称された「闇鍋本格