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「真理の探究」について考えてみよう


ウラ
元は渡来人。今は鬼。桃太郎へのうらみで鬼になった。決まった姿をもたないので、その時代の桃太郎の生まれ変わりと同じ姿をしている。二千年経ったいま、鬼でいるのがもう嫌で、どうしたら桃太郎を許せるのか、それを知るために人間の心を知りたがっている。長くこの世をさまよいすぎて、なにかもういろいろわからない。
鈴木小路(すずきこみち)
ダメ新米教師。節分の豆まきで噛んで「鬼はうち」って言ったらウラと上辺に取り憑かれた。ちょろい。
上辺(うわべ)
ウラの従者(式神)。姿がなく、音が出るものに取り憑くことでしゃべっている。いまのお気に入りは小路のスマホ。基本的に言葉のチョイスが雑。

小学校 内容項目(6)「真理の探究」
エウレーカ!」を使って考えてみる。

ウラ:これは……、「腑に落ちる」よろこびなのかのう。

小路:すっごくうらやましい……。だいぶ前にぼくが失った「何か」を感じる……。なんかキラキラしてる……。輝いてる……。

上辺:聞きたくねええ……。疲れ果てた大人の愚痴の予感しかしねえ……。

小路:なんかね……。大人になるってことは、わからなかったことがだんだんわかっていくことだと勝手に思ってたんだよね……。でもちがうの。この世界、わからないこと多すぎ!

上辺:うーわー聞きたくねー。前フリすんなよぅ……。マナーとして聞かなきゃなんねーだろ。聞きたくねええ……。

小路:(泣)

上辺:…………。あー、小路くんは何がわからないのかな?

小路:(喜)ええとね。役所の手続きと税金のしくみと、それから確定申告のしかたと冠婚葬祭のマナーと社交辞令と本音の違いでしょ! あとね、政治経済のしくみと郵便振り込みのしかたもよくわかんない。あとねあとね、この国の未来と自分の将来もわかんないんだよすごいよね! あとねー!

ウラ:(呆)


上辺:(呆)

小路:もう生きる意味もよくわからない……。

上辺:あー。まああれだ。そう落ち込むな小路。だいたい予想通りだから。

小路:なぐさめてよ……。

ウラ:しかし立派なものじゃのう。

小路:え? 何が?

ウラ:この童女(わらわめ)は、一年も前から「わからない」を抱えたまま暮らしておったのじゃろう? その上、その「わからない」をずっと温めたまま忘れずにおった。じゃからこそ、新しいことを学んだ時に、「胸の中の『わからない』とくっつくかもしれない」と思い至ったのじゃと思う。

小路:あー。なるほどね。

ウラ:人の「知りたい、わかりたい」と願う気持ちは強いものじゃのう……。

小路:あれ? どうしたのウラ? なんか凹んでない?

ウラ:ウラは……、二千年を過ごす間に、「ウラとしてここにおる意味」を見失ってしもうたのでのう……。朝が来るのがいやでのう……。目覚めとともに毎朝思うのじゃ。「今日は、何のために生きよう」と。

小路:…………。

ウラ:この童女はきっと、「今日こそわかりたい」と毎朝思っておったはずじゃ。わかった後であっても、「もっと知りたい、もっとわかりたい」と、この子はきっと願うじゃろうと思える。「わかる」ことにこれだけ喜んでおるのじゃからな。

小路:あー。

ウラ:きっと、「なぜ生きるのか」などといういらぬことは考えもせなんだろう。小路はこの童女がうらやましいと言うたが、ウラもうらやましいと思う。この童女のような、「何かをしたい」気持ちがウラもほしい。それが生きる力になるような気がしてのう……。

小路:あー、なるほど。向ける方向は別として、「好奇心がないと人は生きられない」ってことなのかなぁ……。

上辺:「好奇心」もそうだけどよー。言ってみりゃ「欲」なんじゃねーのか? 「欲」がなきゃ人間は飯すら食わねーだろ。眠りもしねーし子どもも残さねえ。「生きたい」って思わなきゃ息もしねーかもしれねー。全滅だな。人間も生きもんも。

小路:(怖い……!)

ウラ:「知りたい、わかりたい」も、生きる理由を持ち続けるための、人に備わった「本能」なのかもしれぬのう……。つくづく妙な生き物じゃな、人というものは。



まとめ


小路:「わかる」ことのよろこびは、世紀の大発明でも、誰もが通ってきたあたりまえの「理解」でも変わらないのかもしれないね。

ウラ:人は……、「すでにそこにあるもの」を分析して言葉に直して理解しようとする……。そうして、自分の中に「わかる世界」を作ろうとする。これはなぜなのかのう。

上辺:「環境に自分を合わす」んじゃなくて、「自分が理解できるように環境を変える」ってのは生き物の中で人間くらいだもんな。人間って自己主張強えーよな。




【参考】「小学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編」より
(6)真理の探究〔第5学年及び第6学年〕
 真理を大切にし,物事を探究しようとする心をもつこと。

(中学校)
[真理の探究,創造]
 真実を大切にし,真理を探究して新しいものを生み出そうと努めること。

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