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一本のバゲットの味

そういえば、
建物を描くことが
好きだった

幼い頃から親しんだ
天守閣を描いた
無口な祖父が
外壁の直線を誉めてくれた

横を通りすぎるたび
見おろされていた
朱色の大鳥居を描いた
同期生の父上から
特別賞をいただいた

異国の街角に恋をした
それは、一枚の油絵
圧倒される門の扉
鉛色の空に溶け込みそうな教会の屋根
店先に並ぶ仕事道具は使い込まれ
画面に描かれていない人々の
日々の暮らしを想わせた

憧れの街角の絵を真似て
油絵を、水彩で描いた
倶楽部の先生から
これもひとつの技法だよ、と
教えていただいた

今、ページをめくる
アトリエの写真集
目を引くのは
逆光のオリーブの盆栽
優しい白さの日向のソファ
ふと、
思い出した
過ぎし日の
大切なひとびと
映画の1コマの中に居るような
昔のわたし

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