THE FIRST FUJI ROCK
10月になってようやく暑さが和らいだ。
外出しただけで嫌な汗が流れる猛暑が終わると、
夏フェスのシーズンも終わったんだなと少し寂しくなる。
そしてふとしたきっかけで、一年前の記憶が顔を出してくる。
初めて行った2023年のフジロック。
たった一日だけの参加だったのに、これほどまでに主張をしてくる。
この感覚は何かに似ている気がする。
FOO FIGHTERSの夏2023
『FOO FIGHTERSをどうしても見たい…』
初めてフジロックへ行くと決心したのは、ヘッドライナー発表直後。
2017年のSUMMER SONIC以来、実に6年振りの来日。
『フジロックか、遠いなぁ。』『まさかの単独を期待!』と、
いつもなら見送るのだが今回は一報の受け止め方が違った。
それは前年(22年)に盟友テイラー・ホーキンスの訃報があったからだ。
ツアー生活が長い超人気バンドになると、心身ともに負担が大きい。
常に「突然の別れ」の可能性を孕んでいる。
それなのに些細な理由で観る機会を放棄していた。
アーティストが残した作品は無限に残るが、LIVEの機会は有限。
一期一会。分かっていたはずなのにだ。
そしてトリビュートLIVEで見せたデイブ・グロールの涙を思い出すと、
人で溢れかえったGREEN STAGEを見せたくなり、ついに決心に至った。
チケットを購入してからはとんとんと事が進んだ。
どういう持ち物が必要なのかをリサーチ。
装備を整えるためのショップ巡り。
勝手が分からない会場内でどう行動するかを毎晩想像し眠った。
朝はまず何の準備から手をつけるかワクワクして目が覚めた。
(まず仕事に手を付けるのだが…)
前日は興奮してなかなか寝付けなかった。
大人になるとこんな経験はなかなかない。
アプリ上で組んだ見たいアーティスト順にステージを巡る。
こんなに自然の中を歩いたのはいつ振りだろうか?
足元の砂利の感覚がどこか懐かしい。
ヘッドライナーが始まる頃のGREEN STAGEはとても涼しく、
長袖でも十分に心地よい気温だ。
加入したジョシュ・フリーズのドラミングは後方でも気持ちよく響く。
途中演奏したMETALLICAの“Enter Sandman”のリフに気持ちが昂る。
最後の“Everlong”は環境も相まって涙が浮かんでくる。大合唱だ。
深夜のPAで食べた味噌ラーメンがまぁ美味い。異様に美味かった。
帰宅してひと眠りしたあとの寿司と酒は異様に沁みた。
NHK『72時間』の様な編集された誰かの体験ではなく、
ノーカットの自身の体験だ。
勿論、想定外のトラブルや不便さもあった。
ETCカードの挿入場所を間違え、帰ってくるまで取り出せなかった。
道中、ETCが使えないのは物凄く不便だ。
その直後ゲートが閉まっていた料金上に進入してしまった。
恐ろしいうっかりである。
途中のPAでトイレ休憩と遅めの朝飯を食べていたら、
隣の家族連れのお子様が物凄い勢いでゲロを吐いた。
こちらもややパニックになる。ゴアテックスで良かった。
会場は異例の好天で暑い。滅茶苦茶暑い。話しと違う。
そして雨は1ミリも降らなかった。話しと違う。
夜の会場内はまあまあ暗い。暗いというか、闇だ。
駐車場へ向うバスの待機時間はヘッドライナーの演奏時間よりも長かった。
アドレナリンが切れている分、疲労感が物凄い。
真夜中の高速道路の運転は眠気と恐怖でアクセルを踏む足が緩む。
帰宅後、すぐにベッドに飛び込みたい気持ちを抑えて荷ほどきをする。
これが物凄く面倒だ。全て廃棄したいくらい面倒だ。
そして、翌日からは何事もなくふつーに仕事が始まる。
フジロックはただの音楽フェスにあらず
経って振り返ると、LIVEそのものよりも前後の出来事の方が
強く印象に残っていたりする。勿論、一期一会のLIVEも良い思い出だけど、酒のつまみにはこうした出来事の方が盛り上がる。
そうだ、この感覚は「旅」だ。
行くと決めチケットを買ってから当日までの日々。
不可抗力的なトラブルや、ままならない環境の不自由さ。
旅における悲喜こもごも。
それを誰かに言いたくなるところ。
全てひっくるめてフジロック。
そう思わせる体験と価値は、旅そのものではないだろうか。