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バイクに乗る

退院して数日経った。
僕は家の中で退屈でたまらなくなるだろうと思っていたけど、そんなことはなく、まあまあのんびりと過ごしていた。
次第にキズの痛みにも慣れてきて何とか日常生活を送れている気がした。
ただし2月いっぱいは休職だけど3月からは介護士として復帰するので、体力的にとあと力仕事が大丈夫なのか不安だった。
日に日に痛みに耐えて動けるようになっている実感を持って、いよいよあることをやってみようと思った。
それは…
「バイクに乗る」だ。

ガンを発見するきっかけとなったバイクでの事故だけど、その後も入院までは怖がることもなくバイクには乗っていた。
しばらくエンジンをかけていないので少し動かしてあげたいなって思った。
基本的に座ってるだけだし、キズもくっついたし大丈夫でしょ?とか思ってね。
ガソリンが少ないのは知っていたから取り敢えず最初のミッションは、家から10分ほどのガソリンスタンド⛽にガソリンをいれに行く、にした。
取り回しは腹筋にキツイだろうと思って、まず跨がってから動かすことにした。
跨げません‼️
足が上がらない。いやぁ、正確に言うと足をあげると腹筋がちぎれそうに痛い。
あきらめない。足をあげるのなんて一瞬やんか。うえい!跨いだ。
やれば出来る。何事も…
降りれるのか?

久し振りのバイクは楽しい。わずかな距離でも風を感じて走るこの感覚はやっぱりやめられない。バイクに乗っていてよかったと思った。

ガソリンスタンド⛽に着いた。
腹のキズが痛んでいることを周りに悟られないよう、一気に足を挙げて降りた。いて~
破れたんじゃない?ねえ今、破れたんじゃない?
まぁ良い、取り敢えずガソリンを入れた。
再び足を振り上げバイクに跨がる。痛すぎる。
我慢しかない。帰らなきゃならない。
走り出した僕は気付いた。バイクは体幹と腹筋を鍛えるのに最適な乗り物だ。いちいちバランスを取る度に腹筋が痛む。いや、さっき腹が破れたからだ。違う、破れてなんかいない。
やめておけばよかった。そんなに急いでバイクに乗る理由はなかったんだ。

家についてお腹のキズを見た。
破れていない。当たり前か。
バイクに乗れなくはないことが解っただけでも収穫だったな。
休職中だ、気を付けよう。

こうして僕は少しずつ、手術前の日常を取り戻しつつあった気がする。
手術前の自分と違うのは、僕がもう『がんサバイバー』になっているってこと。
そしてその事がその後の僕を強くしてくれたと同時に弱虫にもさせた。

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