見出し画像

摂食障害25周年!⑪

「食事に何を求める?」

無制限に使えるお金があれば。
無制限に食べ物が出続ける魔法の箱があれば。
無制限に尽きないドリンクボトルがあれば。

きっと時間を忘れて食べ続け、吐き続けるだろう。

あればあるほど食べれる。
ないならないで、食べない。
ある分しか食べない。

「あれが食べたい」
「これが食べたい」
「今日はこの気分だ」

特にそのような望みがなかった。
食べれることがありがたい。
米でも麺でもパンでも。
拘りなく、買えるものを買い、目の前に並べれば、平等に口にした。

菓子パン10個。
コンビニパスタ3皿。
どんぶり4個。
おにぎり7個。
サラダ4つ。
チキンバー5個。
アイス3個。

これが30分ほどで全て消える。
今になって理解したが。
量があればあるほどタイムアタック精神が出ていた。
品数が少ない方が時間をかけて味わっていた。
それはそうだ。
次買うまでに距離と時間があると思うとそれまでどう持たせるかペース配分を無意識に考えていたからだ。

次にありつけるまで距離も時間も気にしなくていい場合、わんこそばのようにリズム良く口にした。
好き嫌いが少ない、拘りがないとこうも無感情に食べ物を口にすることができる。味はわかる。美味しいのは嬉しい。むしろ不味いと思ったことがない。

不思議なことだろうか。
嫌いな食べ物は明らかにあるのでそれは不味いと言える。
それは食材の味が苦手なだけだ。

食べれる料理で「この味付けは好きだ」「濃ゆいな」「薄いな」「もう少し塩味を」。
そんな感想を考えたことがない。
目の前にあるもの、口にしたものが完成形であり、それ以上足したいとも引きたいとも思わない。

その思考が奥底にあるせいだろうか。
「付け足す」ことが苦手だった。

例えば寿司。
醤油をつけて食べなかった。
例えば目玉焼き。
なにもかけない。焼いただけのものを
そのまま食べる。
例えばコロッケ。
ソースが家にない文化だったこともあるが、何かをかける発想すらない。
例えばフランクフルト。
ケチャップとマスタードを渡されるがかけたことがない。
例えば肉まん。
地域限定かもしれないが、ポン酢がつくことがある。つけたことない。
例えば餃子。
何もつけない。タレ皿が不要。
例えばサラダ。
出されたままを食べる。
ドレッシングを自分からかけることがない。

そう、自分からかけることができない。
元からかかって出てきたものは取り除くのが面倒なのでそのまま食べる。
しかし自分に選択肢があるパターンは動くことが一切なかった。
素材の味が好き?違う。
健康に気遣い?違う。
めんどくさい?違う。

味変精神を悪と定義付けた、自分でかけた呪いだった。

誰に言われた訳でもない。
自分で失敗した例もない。

ただ、ある友人が味変魔人だったので少なからずとも影響があったに違いない。

とある友人の話をしよう。
仮名ジャイアン。

ジャイアンは食べ物にうるさかった。
決してグルメではない。
むしろ馬鹿舌だと私は思ってる。
食事マナーも悪い。
高くて美味いのは当たり前、早い安い美味い最高精神。
食べ放題は神。
他人のことはデブと平気でいうが本人も80キロオーバー達成してる中々のビジュアルである。

ジャイアンは食べ物にうるさかった。
焼肉を食べに行った時のことだ。
ランチ食べ放題。
テーブルにひとつしかないグリルに文句言いながら、運ばれてきた数皿を全て皿ごとひっくり返して焼き始める。
鉄板焼きか?
焼肉定食でも作る気か?
豚と鳥とソーセージが全て転がされてある意味豪華な料理が完成する。
味付けは全てタレ。
網がすぐ焦げるから塩も欲しかったが主導権握りまくってるジャイアンの好きにさせていた。
まあ、お代は相手持ちなので私の負担ゼロのことを考えれば黙ってその光景を眺めるだけだ。

3つの枠があるタレ皿に全て同じタレを流し込んだジャイアンは焼けた肉を全部の枠にてんこ盛りにのせる。

焼肉正統派の皆様。
タレ味の肉に更にタレをつけて食べるのはありですか?
ありなのか?味既についてるのに?
でもタレが置いてある以上、タレつけるんだろうな?どうなのそれ?

そんな思考を巡らせながら適当に肉を取って食べる私。
ちなみに私はレモンダレしか使わないので皿は真っ白を保つ。

最初の肉を無言で食べ尽くしたジャイアンが口を開く。
「肉が臭い。安もんの肉だろこれ。食べ放題の肉って臭いよな。この値段でこの味かぁ…」
始まった。
そう思ってても「美味しい」と言えばいいのにディスることしかしない。
初めて来た場所でもないのに、毎回同じことを言う。
毎回同じ注文するのに毎回同じことを言う。
私は肉の臭さがわからなかった。
美味しかった。
更にジャイアンは言う。
「脂が多いんだ。だから臭いんだ。」
わかるんか?そのタレで。
ささみでも食ってろ。
そう思って「じゃあ、鶏肉メインで食べたら?」と勧めれば「パサパサしてるだろうが!不味いだろ!!」と返ってくる。
パサパサしてるのも不味いのもあなたの焼き加減ですがね、とは口に出さなかった。
美味しいものもイチャモンつけないと気がすまない要は「文句が趣味」の人種なのだ。
わかってるから特に焚き付けたりもしないし、反論もしないし、正論もぶつけない。意味が無い。
ただ、目の前に広がるジャイアンの食事法はやはり異常だったと思う。

黒い。
全てが黒い。
タレまみれの皿。何故か白飯にタレをかける。何故かキムチにもタレをかける。ナムルにもかける。黒い。
スープを飲めば「汁が少ない」「塩っ辛い」「チープな味がする」と言い、サイドメニューには盛りつけが悪いと言い出す。
食べ放題90分、一部始終付き合う身となれば中々に精神がすり減るもの。

私はそのストレスからわざとたくさん食べ、何回もトイレに行き、戻ってはまたたくさん食べ、とあからさまな行為をしているのにジャイアンは気にしない。
摂食障害のことは話したことないが、疑問に思わないのだろうか?
聞けば答えるが、自分から話す気はなかった。

私は私で食べ方はおかしいが。ジャイアンはジャイアンでおかしいのだ。

ジャイアンは平気で不味いという。
家の飯がまずい。
母の作る飯がまずい。
コンビニ飯がまずい。
スーパーの惣菜がまずい。

そして平気で残す人間だ。
食べ残しを良しとする人間だ。
まずいから食べない、と言うのにその食べかけを私に渡そうとした時もあった。
「何故自分が不味いと称したものを私に渡そうとするのかな」
さすがにこの扱いはと異議を申し立てた私にジャイアンは言った。

「お前は何でも食うだろ。味なんか気にしないんだから。」

ふむ。
なるほど。
この方、私の事を残飯処理マシーンと勘違いしてらっしゃる。
私が食べたところでリサイクルにも何もならないのに。

そう思われてるのか。
確かにそうかもしれない。
味を気にしないのかもしれない。
だって美味しいもの。
何もつけなくても美味しいもの。
「食べても大丈夫」な形になってる限り、何もくわえなくても美味しいもの。
害がなければ、美味しいもの。

食パンそのままでも。
白飯だけでも。
茹でた麺のみでも。

食べれるなら、それで完成だもの。
それ以上もそれ以下も求めない。

食べれることが有難いから。
それ以上もそれ以下もいらない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?