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女を縛るイスラムが女に倒される予感がする。その暁には柿の渋抜きを教えに訪れてみたい。

以下は本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
本論文も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。

イランの春
イランは親日国かと言うと、それは全く違う。 
少なくとも今のイランは憑かれたようにテロを支援し破壊を喜んでいる。 
数年前、安倍首相が最高指導者ハメネイ師に会って、中東に好んで波を立てる真意を問うた。 
師の答えはホルムズ海峡を航行中の日本タンカーヘのミサイル攻撃だった。
マナーも恥も知らない。 
最近も手下のフーシ派を使って日本郵船の船を拿捕し、返そうともしない。 
そんな無礼を働く現政権は半世紀前、突如登場したホメイニ師の流れを汲む。 
師がパリから戻った時はイラン国軍も民も熱狂して歓迎したものだ。 
ただイランの民(ペルシャ人)はそれほど熱狂的なイスラム教徒かというと、歴史はむしろ否定している。 
ペルシャ人とイスラムの邂逅は日本でいえば法隆寺ができたころになる。 
イスラムに帰依して団結したアラブ人がペルシャ帝国を打ち倒した。 
ペルシャの民は基本ゾロアスター教徒だ。
ユダヤ教はゾロアスターの教えを下敷きに作られ、その亜流がキリスト教、イスラム教になる。 
そんな孫宗教がゾロアスターの民に改宗を迫る。
酒は飲むな、犬を飼うな、女は布にくるめと。 
しかし犬はゾロアスター教では神の使いだし、オマール・ハイアムは酒と女が大好きだ。 
ならばと孫宗教を弄って犬も飼え、女と酒を四行詩に詠めるようにシーア派という分派を作った。 
それで納まっていたのにホメイニ師がまた「犬は飼うな」を言い出した。 
特に女の扱いが酷かった。
顔も見せるな、化粧もするな、不倫は即死刑だと。 
こちらはそのころテヘランに赴任した。
イ・イ戦争のただ中で毎晩イラク機が爆撃に来て一晩で40人が死んでいた。 
その合間に、不倫した女性がホントに石打刑で処刑された。
ケイハン紙には歓喜する坊主とそれを見守る群衆の写真があった。 
救いのない異様な世界に紛れ込んだ印象だった。 
ただそんな街を歩いていてふと意味不明の懐かしさを覚えるときがあった。 
例えば昼飯を食べに行く。飯屋の種類は多くない。9割方がカバブ屋だ。
カバブとは一口大の焼いた羊肉をバターライスで食べる。焼きトマトがつく。
その酸味と羊肉の脂が極上のハーモニーを生む。 
調理場を覗かしてもらったら炭火の上で串刺しにした羊肉を焼いていた。 
時々ひっくり返す風情は菊川の蒲焼の作り方とそっくり同じに見えた。 
炭は堅い。
カスピ海側の炭焼き小屋に行ったら炭材はどう見ても姥目樫だった。
備長炭を使っているのだ。 
助手のマスウッドは姓にアシュカリが付く。
意味は「武人」という。 
正倉院にペルシャの漆胡瓶(しっこへい)がある。
そのころ侍の階級に「足軽」が登場する。
出所不明の言葉だが、もしかしたら「アシュカリ」が漆胡瓶と一緒に来たとも考えられる。 
「足軽は偉いのか」と助手が聞く。
足軽大将もいたと言ったら喜んでいた。 
イランはゾロアスターの昔から太陽暦を使う。
冬至にはヘンダワネ(メロン)を食べる習わしがある。 
そう言えば日本ではその日に南瓜を食う。 
ペルシャの正月(ノールーズ)は三月の春分の日だが、その少し前にチャハルシャンベ・スーリと呼ぶ火祭りがある。
二月堂のお水取りのころになる。 
街角に火が焚かれて子供たちがそれを飛び越す。
くる年の幸せを祈るのだとか。
お水取りもそんな風ではなかったか。 
イラン人は果物好きで柿も食う。ただ渋い。渋いままうまいと言って食う。 
民の生活はゾロアスターの香りがするが、そのイランで先日、総選挙があった。 
投票率は40%と過去最低を記録し、おまけに5%分は白票だった。 
街角を歩く女性の多くもヒジャブを脱いで髪をたなびかせイスラムにはっきりノーと言っている。 
女を縛るイスラムが女に倒される予感がする。 
その暁には柿の渋抜きを教えに訪れてみたい。

2024/3/10 in Tokyo

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