母方の伯父さんは出張が多く、お土産もよく買ってきてくれていた。赤福を初めて食べたときの感動は忘れられない。世の中にこんな美味しいものがあるんだ、とびっくりしたものだ。お行儀悪いが、箱の隅までついたあんこを食べるべく、ちょっと舐めたりした。

 伊勢神宮のおかげ横丁に入ってすぐ右側に赤福の本店がある。奥のお店で食べることが出来る。それも二つ。お茶もついている。最高すぎるではないか!

 伊勢市駅前のホテルに金曜日の夜に泊まっておくと、土曜日の朝、早くに外宮を参拝することが出来る。人が増える前に、静かな境内で参拝出来る。そのあと、内宮にバスで移動する。PASMOが使えるから小銭を用意しなくていい。次々とバスが来るので、あまり時間も気にする必要がない。

 外宮にも、いくつか摂社がある。中でも度会国御神社が好きだ。知らないと絶対、行けない。私も知り合いに教えてもらって、その存在を知った。清々しいとしか言いようがない。もちろん多賀宮、風宮、土宮も良い。その奥にある祠も忘れずお参りする。朝早く、人の少ない時間に、ゆっくり回れるのは嬉しい。もちろん人に会ったら、急いでマスクをするが、せっかくの清々しい空気を、精一杯吸い込む。

 次に内宮に行って、帰りに赤福を本店で食べよう、っと、うきうきだった。
祖母のお兄さんのことが解決して、ほっとして、ご褒美に来た伊勢旅行だった。
赤福の前に、ガツンとお肉でも食べようかしらん。と食べ物で頭がいっぱいになりながら、内宮に移動する。

 内宮は、どうしても人が多い。団体も多い。正装をした人も沢山いる。御垣内参拝なのだろうか。御垣内参拝とは、伊勢神宮の特別参拝のひとつで、御正宮の内側の聖域に入って参拝することだ。通常は御帳とよばれる白い布の前で参拝するが、手続きを踏めば、御垣内に入れる。そのときには正装してないといけない。

 五十鈴川にかかる宇治橋を渡る。とっても天気が良く、遠くまで見渡せる。ここを渡ると別世界だ。神様の世界だと言われている。
 砂利道に入って、暫くすると、ゴンっという大きい音がして、私の足に何かが落ちた。何かが、というのは見えないからだ。急に、物凄く、重いものが落ちてきた。両足のつま先の上に落ちてきた。でも見えない。でも痛い。ものすごく痛い。歩けない。泣きそうだ。痛いのは足の先だけなので、半べそかきながら、なんとか参拝して、ほうほうのていで家に帰った。どうやって帰ったのかも覚えてないくらい大変だった。

家に帰って、足を見てみると、爪が全部、血豆で膨れ上がっていた。足の裏は普通で、怪我もしてなかった。
翌日、痛い足を引きずって病院に行った。どこに行っていいか分からなかったので、いつもかかっている内科と皮膚科をやっている病院に行った。お医者さんは、私の足を見るなり
「トラックに轢かれた?」
と聞いてきた。
「いや、歩いていたら急に、こうなった。」
と言っても、信じてくれなかった。
「相当のことがなきゃ、こんな爪にならないよ。痛かったね。」
と言って、急ぎ、足の骨のレントゲンを撮ってくれた。
「骨は大丈夫。筋肉にも別に損傷は無さそうだから。でも、痛いだろうから、痛み止めを出しとくね。しばらくしたら、痛みは無くなると思う。でも、当分、見た目は治らないよ。サンダルとかは履かないほうがいいかも。」
ということだった。お医者さんの言うとおり、痛みは一週間くらいで引いた。爪の見た目が治るには一年かかった。

 私は、これは何かの罰なのか、誰かの嫌がらせなのかなと思った。あちこち開ける仕事をして、それを良く思わない何かがいるのかもしれない。と思った。正直、恐ろしくなった。今まで、何の疑問もなく、姫神様に言われるがまま、やっていたけど、誰かにとっては面白くないことであって、仕返しも有り得るということだ。

 いつも初詣に行く神社さんの宮司さんが、ちょうど、境内の掃除をしていたので、
「伊勢神宮に参拝したら、急に爪の先にトラックで轢かれたような大けがして、びっくりです。なにかの罰ですかね?私、そんな悪いことはしてないように思うんですけどねえ。」
なんて話かけたら、大笑いして
「神様が神域で罰したりしませんよ。あなた、それはね、大難を小難に替えてくれたんです。本当だったら、トラックに轢かれるかもしれなかったところを、爪だけで、済ませて下さったんです。良かったですね。今後とも、ちゃんと信心して下さいよ。」
と言われた。
「大難が小難になっただけなんですね。」
とても、ほっとした。


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