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初めてのインタビュー取材と執筆の記憶

コルクラボでつくった本居心地の1丁目1番地で、東畑開人さんのインタビューと執筆を担当させてもらった。

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コルクラボでつくる本のテーマが「居場所」に決まった時から、東畑さんのインタビュー掲載をしたいということは、企画メンバーの総意だった。
私は、東畑さんへの取材依頼と、インタビューと執筆を担当したいと立候補した。

編集長のばっしーにフォーマットを借りながら、初めての取材依頼書も作成した。

・まだふわっとしている「居場所」ということばの持つイメージの輪郭をつくりたい
・自分の中にある「他者と居ることが苦手」についても聞いてみたい
・コルクラボを外側から見るとどんな風に見えているのか聞いてみたい
・居場所は自分の意思でつくれるのか聞いてみたい

まだ、本の全容が見えてはいない段階での取材依頼だったのだけれど、「居場所」や「コミュニティ」というキーワードを考える上で、今後多くの人の参考になる1冊になるようにしていきたいという思いは、明確にあった。

反面、思いだけの本にならないようにしたいとも、考えていた。


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8月の暑い日、わたしたちは、初めての取材にむかっていた。
楽しみ半分緊張半分、いや、緊張と不安が8割楽しみ2割だったかな……。私はずっと浮わついていた。

ありのままに書けば、その時の私は、当初作成していた目次案と構成で、どのような本をつくろうとしているのかを説明できるほどの肚落ちをさせれていなかった。「居場所」について考えることが軸にはあったのだけど、「居場所」「コルクラボ」「コミュニティ」をどう繋げていくのか、理解が追い付いていなかった。

この取材の趣旨説明は、編集長に任せて、私は、インタビューの始まりを待っていた。
ここでも私はまだふわふわしていた。

編集長の説明が終わって、私にバトンが渡された。


インタビューできる時間は1時間30分。

「単刀直入におうかがいするのですが、東畑さんは居場所をどのように定義されますか?」

相手との関係性を作るための雑談などすっ飛ばして、直球の質問から始めてしまった。

言い訳……をするならば、聞くべきことを聞いておかなければ……と焦りがあった。時間配分がわからないので、段取りよくなど格好つけている余裕はなかった。

しかし、それは私の理由であって、東畑さんには一切関係ないことだ。むしろ私は、東畑さんが考えやすく話しやすくなるための工夫と努力をすべき立場だった。唐突にインタビューを始めてしまい、話始めのテンポづくりは最悪だったと、文字おこしをしながらも反省した。


東畑さんの著書はおもしろい。公開されている各種記事もおもしろい。
東畑さんのお話しを聞いていると、自分のインタビューは意外とうまいんじゃないかと勘違いするほど、わかりやすく、深く、おもしろく、やさしかった。


「居場所」という大きなテーマを東畑さんに話していただくことで、この本は何を伝えるられるのだろう? どんな人が読む本になるだろうか? と想像しながらインタビューをしていたはずだったけど、私は、私自身がずっと悩んで、抱えていた不安を東畑さんへ投げかけていたようだった。

「居場所」を感じることができない不安、人との関りに距離をおいて、ひとりでいることの方が楽だという思いと、他者と関わりたいと思う葛藤。

「コミュニケーション力に自信がないんですよ」という私のことばに、東畑さんは「コミュニケーションのチャンネルは本来複数あるものだから、チャンネルがあわなかっただけなんだよね。自分なりのコミュニケーションで繋がれる場所はあるし、つくれると思う」と返してくださった。
その言葉を聞いたとき、私は、静かに救われていた。


東畑さんの話はおもしろかった。ずっと聞いていたかった。自分のインタビュアーとして未熟さが、はがゆかった。


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原稿を書き始めてからは「読んだ人の心がふっと軽くなる原稿を書く」と決めていた。
東畑さんのお話はどこをとってもおもしろしいし、切り取ってしまうことがもったいないところばかりだった。もっとここを広げたらよかったなとか、もっと聞き出せたんじゃないかと、反省するばかりだったけど……。


「あんなにおもしろかったインタビューがつまらないものになったら……」という不安は書いても書いても消えなかった。

原稿を書くときは「削ることが大事」と以前学んだことがあった。
どこを削っていくのか、消しては戻しを繰り返しながら、8000字までに絞った。

原稿を編集長にたくした。ドキドキだった。
何度も読み返して書き直していた。この原稿が「東畑さんのわかりやすくて深くて鋭くておもしろい魅力」を引き出せているのか、ラボ本が目指す原稿になっているのか、もうさっぱり判断できないくらい脳内でインタビューが再生され続けていた。


編集長は、「え! おもしろいよ!」と、返してくれた。

息が、漏れた。

そこから、もっとおもしろくわかりやすく読みやすくしたかった。
編集長からフィードバックをもらいながら、何度か構成を変えた。途中で掲載する部分を入れ変えたりもした。

自分が書いた文章を信用していなかった。
もっともっともっと……が消せなかった。でも、東畑さんに確認していただくために書き上げなければならないリミットがきた。

緊張と共に東畑さんへ原稿をお送りした。

予想だにしていない速さで戻していただいた。
自分の原稿に大きな問題がなかったんだと思って、すごくホッとした。

ホッとすることが、わたしの次への一歩だった。


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少し端折ってしまうのだけど、

そのあと、インタビューページのデザイン案が出来て、写真を決めて文字をデザインに流し込んで、最初の原稿が上がってきた時は、めちゃくちゃに興奮した。本の制作過程の中で、一番興奮したかもしれない。

あぁ、形になっている……。
すごく素敵な原稿になっていた。

まーしゃが撮影していた写真も素敵だった。


印刷が終わって、「書籍」に収まったページを見た時は、自分が書いたんだという実感がわかなかった。

自分が書いた原稿が1冊の本に収まっているという、得難い経験をしたのに、冷静な自分がいた。


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本が発送されて、読んでもらえて、感想をあげてもらえるのはとても嬉しい。
「東畑さんのインタビューよかったよ」と言ってもらえたり、東畑さんのことばを引用してくれているのを見ると、ほっとできた。(もちろん本全体の感想にもほっとした)

自分の責任を果たせたのかなと、少し、思えた。


私が書いていたのは、私の言葉ではなく、東畑さんから預かった言葉だった。

私というフィルターを通して東畑さんの言葉歪んでしまわないように。東畑さんの魅力が半減しないように。でも、東畑さんの言葉が、広く届くような願いを込めて書いた。

私は文章を書くことは素人だった。

でも、居場所について悩んでいることは、経験が伴っていた。
居場所がないと不安になったり、さみしさを感じていた自分の心に沁み込んだ東畑さんの言葉を、同じ悩みを抱えている人へ届けたいと思った。

心に寄り添う言葉を届けたい。
心を感じる言葉を届けたい。

漠然とした理想を、少しだけ実現できたのかな。


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「届けたい想いを届けられる人でありたい」
「ことばをつないで、思いをつなぎたい」

その思いを、これからどうやって形にできるのか、わからないでいる。

書きたいことを書けた幸運を、次につなげていきたいと思いながら、今日もnoteの更新にむかうことから始めている。


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東畑さんの著書『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』は、居場所について考えるきっかけにもなりました。

お忙しい中、取材へのご協力をいただき、本当にありがとうございました。

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最後に宣伝を…。

Amazonには電子版しかないのですが、試し読みで東畑さんのインタビューが読めます。なんとなく集団が苦手だったり、居心地の悪さを感じることがあったら、少しだけ心が楽になることばが、あるかもしれません。


corkのECサイトでは、書籍のご購入が可能です。(送料がかかります。ご了承ください)。表紙の手触りも楽しんでいただけたらうれしいです。


東京都内では、BOOK  LAB TOKYO(BLT)さんと、青山ブックセンター(ABC)さんで取り扱っていただいています。
お手にとっていただけると嬉しいです。

名古屋の三省堂書店名古屋本店さんで取り扱っていただけることになりました。お近くにいらっしゃいましたら、ぜひ。



ありがとうございます。ロックンロールと生クリームとマンガと物語に使いながら、自分の中のことばを探っていきまます。