【詩】言葉

何のために口がついてるんだと誰かに声を荒げて怒鳴られてわたし

口も鼻も耳も目もそれ以外の体の部分もすべては遺伝子情報の組み合わせなんだよと思いつつそれをひた隠す

物事の大抵には理由なんてないし、だからわたしに口がついていることにももちろん理由なんてないんだよ

言わなきゃ分からないだろって

言っても分からないものは分からないし

それに

誰が分かってほしいなんて言った?

誰が分かりたいなんて言った?

わたしがいつそんなことを言った?ねえ答えてよ

みんながみんな、分かり合いたいなんて、そんな風に思うなよ

本当は分からないのが怖いだけなんでしょ?すべてのことがわかったつもりでいないと不安で仕方がないんでしょ?

なにも分からないままでいい

だって分からないままでいたほうが、すべてのものが綺麗に見えるから

だから言葉なんていらない

もし言葉が世界からなくなったら?

そしたら多くの人はどうやっても自分の感情が伝えられないことに絶望して、抱き合いながら泣き叫んで、それで世界にあるものすべてが支障をきたして、けれどそんな世紀末の中で、きっとわたしだけが広角が今にも上がりそうなのをこらえてるんだろうな

目の前からいなくなった誰かを横目で見ながら、わたしは一冊の本を開く

すべての言葉がなくなってしまえばいいのに

今、ページの中に無数に並んでいる文字ぜんぶ、消えてなくなってしまえばいいのに

まっさらなものが染まるためにあるなんて詭弁も丸ごと消えてしまって

そうすればわたし、胸のなかにある圧迫するような蟠りがなにかを知らずに済むのに

その感情を定義せずにすむのに

さみしいです

わたしはわたしの感情だけを愛してる


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