【詩】恋

遠くからわたしは飽きもせずあなたを見つめていて、そのままただ見ているだけでもよかったはずなのだけれど、わたしに気が付いたあなたは自然にわたしに向かって微笑んできて、わたし、真面に目を合わせることもできないまま下を向いた。心音が次第に大きくなっていって、あなたを取り巻くすべての光景が綺麗に見えて、わたしは更にあなたから目が離せなくなって、あなたのことばかりが目に浮かんで、けれども、けれども見ていた人々は、それが恋なのだと言い張った

人々はどこにいても呼吸をするように恋を語り合っていて、そこでわたしは初めて、わたしの抱いている感情には既に名前がついているということに気が付くのでした

ふと辺りを見渡したときには、もうあなたの姿はどこかへ消えて去ってしまっていて、わたしの確かに持っていたはずの感情も砂埃のように散り散りになってしまっていて、わたしはそれからずっと、ただ何も無い空間を見つめていた

欲しいものがあった。けれども欲しいものは言葉にした瞬間、欲しいものではなくなっていた

感情に自分から名前を付け始めたころ、わたしたちは大人になり始めるのだとそんなことに気が付いてしまった幼き日の終わりから、わたしは叫ぶように祈り続けているのです

恋なんて、消え失せてしまえ、と

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