【詩】背中

大きな背中
わたしよりもずっとずっと大きかった背中が次第に遠ざかっていく
その事実が確かであることを知らしめるように、ゆっくりとゆっくりと遠ざかっていく
精一杯走ればきっと追いつける
でも、走って追いついてもきっと、意味なんてないのだと分かっていた
必死に走って追いついて
そしてその立派な背中に縋りつくわたしを
あなたはいつもの優しい表情でなだめるのだろう
そうなんだって分かっていた
分かっていたからわたしは立ち止まっていた
両手をぎゅっと握りしめて、熱気の強いアスファルトの地面を踏みしめて
どこかへ飛んで行ってしまわないように
頭の上の青い空、そこに広がる白い雲みたいにふわふわ浮かんできてしまわないように
ただただ立っていた
あなたの背中は小さくなっていく
はっきりとしていた視界がぼやけはじめ、陽炎みたいにゆらゆらと所在ないものに変わっていく
わたしは目をこすった
目をこすってこすって赤くなるまでこすって
ああ、これが痛いってことなんだ
そんな帰らぬ日を思い出す熱帯夜
またまた目をこすってこすって、無茶苦茶なくらいにこすって
わたしは痛みを思い出す
生きていることを思い出す


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