科学と、科学の先にあるもの。

 私はコロナワクチンの研究を自分なりにしてみようと考えたとき、遺伝子ワクチンについて全く知らないことに気が付き愕然としました。医学部で免疫学の単位を取得したにもかかわらずです。手元には『シンプル免疫学』(中島泉、高橋利忠、吉開泰信)があります。「初版の序」には「以上、本書の内容が、それぞれの立場から免疫学の基本を習得したいと考える、メディカル、コメディカルの一般学生や、免疫学を専門としない医療従事者および医学研究者の、一助になることを願ってやまない」とあります。ちょうど私に適切なレベルくらいかなと思っています。この教科書のなかで「遺伝子ワクチン」についての章は、204ページのたった1ページしかありません。それも「新規の技術を用いたワクチンの開発」という章で、DNAワクチンについての記載はあってもmRNAワクチンについての記載はありません。私が全くmRNAワクチンについて知識がなかったのは、しょうがないのかなと思います。

 そこで自分なりに勉強を始めたのですが、とにかく自分なりに全体像として納得できるような記事がなかなか見つからず困りました。そうしたなか、いろいろ記事や論文を読んでみるうちに、最も誠実に情報を出されていて、しかもレベルが高いと私が思ったのは荒川央先生の記事と、宮坂昌之先生の記事でした。荒川先生は分子生物学と免疫学の世界的な研究者(研究者のレベルを現わす一つの指標h-indexにおいて33という驚異的なスコアを持たれています)です。宮坂先生は日本における免疫学の第一人者です。ここですでに最初のステップがあります。「興味をもって調べたいけども、何を参考にしていいかわからない」のは誰しも最初は同じだと思います。そうしたなか、どうしても「あ、この方の言っていることは誠実そうだ」とか「この方の書いていることは多角的で総合的な視点がしっかりしている」といった「直観」があります。どなたの言説を信じてどなたの言説を信じないかはもう直観のレベルだと思います。そして私は荒川先生と宮坂先生の記事が、最もレベルが高く誠実だと思いました。そこで今回は一つの題材として、荒川先生と宮坂先生の「抗体依存性感染増強ADEとワクチン」についての論点を自分なりにそれぞれ考えてみたいと思います。

 まずADEの基本的な考えについてですが、wikipediaでは以下のように書かれています。

 1960年代にRSウイルスワクチンに関して初めて報告された[4]。 通常は、食作用後はウイルスが分解されるが、ADEの場合は逆にウイルスの複製が引き起こされ、その後免疫細胞が死滅することがある。つまり、ウイルスは免疫細胞の食作用のプロセスを“誑かし”、宿主の抗体を“トロイアの木馬”として使用する。抗体-抗原相互作用の強さが特定の閾値を下回ると、ADEが誘発される[5][6]。この現象は、ウイルスの感染力と毒性(virulence)の両方につながる可能性がある。ADEを引き起こす可能性のあるウイルスは、抗原の多様性、免疫細胞内での複製能力、細胞内での生存維持などの点で共通点を持つ事が多い[1]。ADEは、ウイルスへの一次ないし二次感染時や(生)ワクチン接種後のウイルスの攻撃によって起こり得る[1][7]。これは主に一本鎖プラス鎖RNAウイルスで観察される。デングウイルス[8]、黄熱病ウイルス、ジカウイルス[9][10]、α,β-コロナウイルスを含むコロナウイルス[11][12]、インフルエンザなどのオルトミクソウイルス[13]、HIV等のレトロウイルス[14]、RSV等のオルトニューモウイルス(英語版)[15][16][17]などのフラビウイルス科がそれに含まれる。
FcγRII/CD32受容体を介した免疫複合体の食作用によるメカニズムは、補体受容体経路よりも解明されている[18]。この受容体を発現する主な細胞は、単球、マクロファージ、一部の樹状細胞およびB細胞である。ワクチン接種で生成された抗体が目的感染症についてADEを発生させる事があり、この場合ADEはワクチンの開発を妨げる。この事はCOVID-19のワクチン開発の後期臨床段階における決定的な問題である[19][20][21]。コロナウイルスやRSウイルス、デング熱ウイルスを標的とした一部のワクチン候補はADEを誘発した為、その後の開発が中止されたか、以前に当該ウイルスに感染した事がある患者に対してのみ使用が承認された。

 コロナウイルスはACE2受容体から感染するウイルスなのが、免疫細胞が持つFc受容体からも感染する可能性があり、宿主の抗体を“トロイアの木馬”として利用することによって、Fc受容体から免疫細胞に入り込んだウイルスが、宿主の細胞内で増加し殺してしまうということです。

 荒川先生は「猫とネズミ」という記事で「抗体を持った猫の方が重症化しやすく早くに死んでしまった」ことを紹介なさっており、また「ワクチンと抗体依存性感染増強(ADE)」という記事の中で以下のように書かれています。

コロナワクチンを接種した人口が増えるにつれ、コロナに対する抗体を持つ方が増えてきます。そうすると抗体を利用する変異株が有利になってきます。ADEを起こしやすいコロナウィルスの変異株はそうした中で派生して来るのではないかと推測されます。ワクチンは社会のためになるとは限りません。ウィルスによっては逆効果で大惨事を生むかもしれません。コロナウィルスがまさにそういったウィルスなのです。
数ヶ月後、あるいは数年後、状況はどうなってるでしょうか。コロナウィルスのADEが起こると、ワクチン接種者はコロナウィルスに感染して重症化しやすく、強毒化したウィルスを周囲に撒き散らしながら (スーパー・スプレッダー) 死んでいくという事態も起こり得ます。現在のワクチンの接種順序からして、最優先接種対象である医療従事者から先に亡くなっていくという事態も有り得ると思っています。
ADEによる人類の大量死はウィルス学者、免疫学者から警告され続けています。こうした事態が本当に起こるかは誰にもまだ分かりません。そもそも世界中の誰も経験が無いからです。科学的、人道的に考えて、危険性が指摘されていながらのコロナワクチンの大量接種は始めるべきではありませんでした。
私の最悪の予想は外れて欲しいと心より願っています。

 さらに「ブレーキの無いRNAワクチン」という記事の中ではこのように書かれています。ファイザー社コロナワクチンとモデルナ社コロナワクチンについての分析です。

これを見ると、遺伝子配列とは対照的にタンパクの配列上はほとんど差異が見られません。2つのプロリン置換 (K986PおよびV987P) が見られるだけですが、これはスパイクタンパクを変形前の構造に固定させ、中和抗体を産生しやすくするためのものです。しかし他のアミノ酸配列はコロナウィルスのスパイクタンパクと同一です。そしてアミノ酸配列からはスパイクタンパクの毒性を取り除くための工夫の跡は見られません。これは驚くべき事なのですが、確かに「毒性の高いタンパクの遺伝子から毒性を取り除かず、ほぼそのままの状態のものを体内に投入している」という事です。この点においてはファイザーもモデルナも同様です。

 対して宮坂先生のADEに対する記事は2021年10月13日にネット上に掲載された「ワクチン接種の時限爆弾「ADE」は本当に起きるのか?」を参考にしたいと思います。

 ADEについての宮坂先生の考察部分を読みますと、Fc部分から感染が起こってADEが起こる機序とは違った考察(『Cell』誌オンライン版での、大阪大学・免疫学フロンティア研究センターの荒瀬尚教授のグループによる研究)を引き合いに出しながら、このように書かれています。

ただし、ADEに対しては、今後はもう少し警戒の念をもって見ていくべきかもしれません。5月24日の『Cell』誌オンライン版で、大阪大学・免疫学フロンティア研究センターの荒瀬尚教授のグループが、ADEを引き起こす可能性のある悪玉抗体に関する興味深い論文を発表しました。新型コロナウイルス重症者の多くには、感染を促進する抗体(=私がいう悪玉抗体)が多く存在したのです。
この報告で非常に興味深いのは、この抗体がスパイクタンパク質のN-terminal domain (NTD)という領域の特定の部位に結合して、スパイクタンパク質の立体構造を変化させることによりヒトの細胞に結合しやすくすることです。これによってウイルスの感染性が高まります。
つまり、抗体というのは単にできれば良いというわけではなく、場合によっては、かえって感染を促進するような抗体ができる可能性があるということです(ただし、どのような状況でこのような悪玉抗体が作られることになるのか、それはまだわかっていません)。
少し安心するのは、デルタ変異株であっても、善玉抗体と悪玉抗体が共存すると善玉抗体のほうが強く威力を発揮するため、ヒトの生体内ではADEは容易には起きないということです。
ただし、現在のワクチンでは、この感染促進抗体が結合する部位も抗原として使われています。もしかすると、新たなワクチンでは、この部位をワクチンの標的から外したほうがさらに良い結果が得られるのかもしれません。

 ちなみに宮坂先生が参照された『Cell』誌オンライン版での、大阪大学・免疫学フロンティア研究センターの荒瀬尚教授のグループによる研究の「研究成果のポイント」と「概要に添付された図」は以下のようになります。

 研究成果のポイント
• 新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産⽣されることを発⾒した。
• 感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合すると、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が⾼くなることが判明した。
• 感染増強抗体は中和抗体の感染を防ぐ作⽤を減弱させることが判明した。
• 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者では、感染増強抗体の⾼い産⽣が認められた。
また、⾮感染者においても感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。
• 感染増強抗体の産⽣を解析することで、重症化しやすい⼈を検査できる可能性がある。また、本研究成果は、感染増強抗体の産⽣を誘導しないワクチン開発に対しても重要である。

画像1

 ここからは私の考察になります。

 私には荒川先生と宮坂先生は、抗体に対する科学的事実として、どちらの先生も「今回使われているmRNAワクチンは、少なくともADEにつながる可能性がある部分を作り出す抗原の遺伝子情報を取り除いていない」という認識では一致しているように思います。

 ただ同じような科学的な認識のなかで、荒川先生はより危険性にフォーカスして、今回のコロナワクチンは慎重になるべきだ、という論調です。対して、宮坂先生は「ただし、現在のワクチンでは、この感染促進抗体が結合する部位も抗原として使われています。もしかすると、新たなワクチンでは、この部位をワクチンの標的から外したほうがさらに良い結果が得られるのかもしれません。」と書かれていますように、「元々よいワクチンなのだが、この部分を改良すればもっとよくなる」という認識です。

 このように、今回のmRNAワクチンには感染促進抗体が結合する抗原部位も作られる設定になっているという科学的事実を前に、二人の世界的な先生は正反対の結論を導き出しています。ワクチンの標的から外したほうがいい箇所があっても、その部分は全体としてマイナスになるようなものではないととるか、むしろその部分があることによって、全体として大きくマイナスになる可能性をもはらんでいるととるかだと思います。

 そこに私は科学と、科学の先があるように思います。

 同じような科学的事実を前に、自分がどう結論するかは、その人の生き方や倫理観、人生観や世界観といったものになると思います。疑問に思ったことは徹底的に調べることは大切だと思います。しかしやはりどこかで限界がきます。一例として今回取り上げさせていただいたお二方の先生の、記事の内容という「言葉による表現」よりはるかに含蓄のある、長年真摯に研究を続けられてきたことで磨かれた「本物の直観」といったものが、このお二方の先生の「身体知」といったものとしてあることは間違いないと私は思っています。たとえば私のような、そういった長い研究生活で養われた「本物の直観」がない人は、自分なりに限界まで勉強したならば、もちろん情報をアップデートすることは必須ですが、あとは自分なりに認識した科学的事実を前に、「このことはいったい何を意味しているのだろうか」と考えるしかないのだと思います。自分の良心や倫理観、生き方からすれば、このことは何を意味するのだろうと考えるのです。

 私としましては、まず最初に思いましたのは「なぜこういったことをメディアはまったく報じないでワクチンを100%推奨なのだろう」ということでした。太平洋戦争での大本営発表を振り返れば、負け戦続きだったのを、国は連勝が続いていると報道し続けました。私にはむしろやましいところがあるからこそ、それを必死に隠すためにむしろ強権的に事実とは違ったことを推し進める、というのは、どの人間にも組織にもあるように思います。科学の先、として今回のコロナワクチンについて私が思っておりますのはこのようなことでした。

※本記事は私個人の見解であり、いかなる組織や人物とも関係しません。

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