ハッピーファミリー (第一幕)

大学の演劇サークルの新人公演用に執筆したものの、暗くて陰湿すぎて採用されなかったのでNoteに載せました。
・
・
・

第一幕
(場面はエピローグで行われたバランスボールゲームの後、番組終盤の罰ゲームコーナーから始まる。中央にはバランスボールから落ちた江川、松坂が片手にコップを持って嫌悪感を顔に出している。右手には白井とコップを持った長嶋が笑顔で立っている。左手には佐々木、木下、濱口が立っており、こちらも番組を雰囲気を作ろうと笑みを浮かべている。)
長嶋　(仰々しく)　いや～さっきの「バランスDEバカンス」はほんまにおもろかったわ～祐介が落ちた時、もらいゲロみたいに武志がバランスボールから落ちるんやもん。(笑いながら)　あんたら朝酒飲んできたんちゃうか？
濱口　(便乗して)　ほんまですよ！ほんと夜の十三か難波か石橋でよく見る光景ですわ～
江川　(長嶋に忖度して)　すいません！ちょっと我慢できなくて缶ビール飲んじゃいました……生ジョッキ缶のやつ……
長嶋　(わざとらしくつまずく。江川の方を向いてツッコミ)　武志、仮面戦隊ウルトラズでちびっこのヒーロー役をやりおったお前がビール飲んでどうすんねん！飲むんならオロナミンCぐらいにしときや～　(不意に松坂の方を向いて)　んで？祐介は？
松坂　(特に何も考えず無邪気に)　俺、朝と昼に飲んじゃいました！ストロングのチューハイレモン味５００ml！
長嶋　(わざとらしく大げさに倒れた後、笑いながら)　ほんまにあかんわ。この番組。まじでアル中しかおらんやん。祐介は天然な役柄やからしゃーないけど、ほんまに肝臓が心配やわ。(立ち上がり、手を振りながら観客席に向かってわざとらしく)　すいませ～ん。こんなかにお医者さんおりまへんか～？
(沈黙)
白井　(観客席を向き、話を遮るように元気な声で)　では武志くんと祐介くんには罰ゲームとして「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲んで頂きます！
佐々木　(引き気味に)　うわぁ……
木下　(爆笑)　ウケるｗｗｗｗｗｗ
長嶋　(大げさに)　ほんま頭悪い組み合わせやわ～
濱口　(便乗して)　ほんまに。頭悪いですわ～
木下　(爆笑)　ほんとそれｗｗｗｗｗｗやばすぎｗｗｗｗｗｗ死ぬｗｗｗｗｗｗ
白井　(話を戻すように遮って)　準備はいいですか？　(江川、松坂はためらいながらもうなずく)　それでは！「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲んでください！
(江川、松坂は嫌々ながらもコップを口につけ始め飲み干そうとする。しかし苦みとアルコールのにおいに悶絶している様子である。他の出演者たちはその様子を見て笑みを浮かべている。すると不意に長嶋が地獄のようなコールを歌い始める。)
長嶋　(スカイピース風に)　美味しいヤミー
白井・木下・濱口　(手を合わせて右斜め上に突き出す。)　感謝・感謝！　
(佐々木もためらいながら同様の動きをする。)
長嶋・白井・木下・濱口　(佐々木は声を出さないものの４人のしぐさをたどたどしく真似る。)　(手を大きく広げて)　また一杯食べたいな！　(両手でおなかを押すジェスチャーを入れながら)　デリシャッシャッシャッシャッシャッシャッ！　(両手の人差し指でほほを指しながら)　ハッピースマイル！　
(長嶋は別の、これまたこの世の終わりのようなコールを歌い始める。コールと同時に江川、松坂以外の出演者から笑い声が込み上げてくる。)
長嶋　(上機嫌に)　イッキッキーのキー！
濱口　(ノリよく)　ハイ！ハイ！ハイ！
長嶋　(上機嫌に)　イッキッキーのキー
白井　(あざとく)　ハイ！ハイ！ハイ！
長嶋　(上機嫌に)　イッキッキーの……あれっ？あれっ？あれっ？あれっ……
(すると突然何を思ったのか長嶋が辺りを見渡した後に佐々木の方を不思議そうな、はたまたおちょくるようなまなざしを向け始める。)
長嶋　(佐々木に飲酒を強要するように問いかける)　直紀、飲んでなくない？
白井・木下・濱口　(長嶋に忖度して機嫌よく)　ウォウ？ウォウ？　
(佐々木はためらうように苦笑いを浮かべる。)
長嶋　(静かに)　直紀、飲んでなくない？
濱口　(忖度して)　ウォウ？ウォウ？
長嶋　(静かに)　直紀……
白井　(被せるように)　それでは直紀くんにも「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲んで頂きましょう！
佐々木　(困惑して)　え……白井アナ……僕……ゲームに勝ちましたよね……嘘……
白井　そうですけどこれがハッピーファミリーなんで。
佐々木　(不服そうに)　僕……こんなの納得できません！「バランスDEバカンス」の勝者は僕なんですよ？
(白井はいらだった様子で佐々木に詰め寄ろうとすると長嶋は慌てて白井の横を歩き、右手で白井を遮り、左手向けて佐々木の方向へ向けてなだめようとする。
長嶋　(なだめるように)　まあまあまあ落ち着いときや
木下　(白井をおちょくるように)　勘違いしたらあかんよ。勘違いしちゃ。
(佐々木は絶句したような態度を示す。躊躇う様なそぶりを見せているとしびれを切らした長嶋が佐々木に語り掛ける。)
長嶋　(たしなめるように)　直紀、おまえはハッピーファミリーの一員なんやから。
江川　(同調して)　そうだよ。直紀。お前もママに言われたならファミリーの責任持とうよ。僕らはハッピーファミリーなんだからさ。
松坂　(同調して)　そうだよ！もっと場がハッピーになるように行動しなくちゃ！　(表情を笑顔に切り替えて)　ほら。父ちゃんからコップもらって俺らと一緒にイッキしよ！
佐々木　(依然として絶句した様子で)　そうですけど……
濱口　(佐々木の方に寄り添い、佐々木の肩をなでる)　まあまあ。ここは穏便に済まそうや。
(佐々木は観念して長嶋からコップを受け取る。)
白井　(半ギレで)　えーアナウンサーの白井です。それでは武志さんと祐介さんとそして直紀さんには「激苦青汁・ジン・ウォッカ・ラム・テキーラ割り」を飲んで頂きます。
(沈黙。)
白井　(苛立ちを隠せない様子で)　お願いします！
(江川、松坂、佐々木はコップを口に近づけて飲み始める。余りにも度が過ぎている苦みやアルコールの強さに苦悶の様子が観客にも明らかである。
松坂　(苦しみながら)　うわーめっちゃ苦い。
江川　(苦しみながら)　これベロベロになりそう。
佐々木　(苦しみながら)　なんで僕がこんなことする羽目に……
(すると番組の放送時間が無くなったのか白井と長嶋が番組を終わらせようとする。)
長嶋　(焦ったふりをして)　あかん。そろそろ時間やわ。仁美ちゃん締めちゃって。
白井　(さっきまで何事もなかったような素振りで笑顔を振りまく。)　はい！そろそろ時間ですね！　(濱口、木下の方向を見てお辞儀する)　ゲストの濱口さん、木下さん。本日はありがとうございます。(嘘っぽく物悲しそうに)　今週の「長嶋伸介のハッピーファミリー」はここらへんでお別れとなります。(また笑顔に戻って)　ではまた来週！
長嶋　(大げさに手を振りながら)　ほな、また来週～
濱口　(大げさに手を振って)　ばいばーい。
木下　(あざとく手を振る)　じゃあね～
(江川、松坂、佐々木は罰ゲームの飲み物に悶絶しつつも視聴者を意識して手を振る)
松坂　(苦しそうに)　バイバーイ。(吐く素振りを見せて)　うえっめっちゃにがっ。
江川　(苦しそうに)　さようなら～　(むせる)
(ここで佐々木は観客に語り始める。)
佐々木　(苦しそうに)　僕は確かにゲームには勝ちました。誰よりも長くバランスボールの上にいました。それでもこのドリンクを飲んでいることは一種の理不尽だというのはあながち間違いではありません。だけどハッピーファミリーのためなら仕方ありません。伸介さん、白井アナ、江川さん、松坂君、全員この番組の共演者ですが、僕はハッピーファミリーのメンバーたちがお互いに赤いチューブを差し込み合っている気がしました。もし僕にもチューブが差し込まれているなら……それならこのドリンクだって最初は嫌だったけど飲める気がしました。それでハッピーファミリーが成り立つなら……ハッピーファミリーを増やせるなら……もしかしたら僕たちだけでなくハッピーファミリー全員がバランスボールの上に乗っていたのかもしれません……　(むせる)
(暗転)