[創作]進路はつづくよどこまでも(原案)③

文芸サークルの会誌用に創作した作品です。拙文ですが、どうぞお楽しみください。


進路はつづくよどこまでも

場所

株式会社SAITO 面接室


人物

万丈大輝(ばんじょう だいき)  

就活生。 船場大学文学部英文学科四年生。

伊藤 

面接官。四十代。

三井 

面接官。三十代後半。

リク  

ナビサイトの精霊。 見た目は二十歳前後の男性。

マイ  

ナビサイトの精霊。 見た目は二十歳前後の女性。

大杉 

大卒の新卒エージェント。二十代。

お母さん

万丈の母。五十代。


伊藤: (淡々と) ありがとうございます。では万丈さんのキャリアプランについて教えてください。

(沈黙。)

三井: (心配そうに) どうかされましたか?

万丈: (うつむいたまま) ……

(右手からお母さんがまるで犀の様に万丈のもとに駆け寄る。彼女は片手に椅子を持ち、万丈から見て右側に椅子を設置した後、着席。)

お母さん: 初めまして。大輝の母です。

伊藤: (驚く様子もなく) お母さまですね、初めまして。私、株式会社SAITOの人事部長の伊藤と申します。

三井: (同様に特に驚くことなく) 同じく人事部長の三井です。今何をしているのかは…その先は言う必要ないですよね。自分で考えてみてください。

(お母さん、伊藤、三井に向けて愛想を振りまく。)

三井:(少し心配そうに) 先ほど万丈大輝さんはうつむいておりましたが、何かお困りごとでもありましたか?

(お母さん、少し万丈の方向を向き、万丈に語り始める。)

お母さん: (ささやき声で) 大きい声で。目を見て。 

(万丈は伊藤と三井のいる方向に視線を向ける。)

万丈: はい…特に困ったことはございません…

お母さん: (ささやき声で) 頭が真っ白になったと。頭が真っ白に。

万丈: (まごついて) はい…あのー…初めてのこういう最終面接であのー…まぁ頭が真っ白になっていたと言いましょうか…

三井: (安心した様子で) なるほど。確かに最終面接は緊張しますよね。まあ自然体で受けてくれれば大丈夫ですよ。(微笑む) では改めて万丈さんのキャリアプランについてお聞かせください。

お母さん: (ささやき声で) 御社に入社した後、様々な部署を転々としながら定年まで御社の事業に貢献したいです。

万丈: (たどたどしく) はい…あの…私のキャリアプランは、御社に入社した後…えー…営業や人事などの様々な部署での経験を積み…そうですね…私が定年で退職するまで…御社の…事業に貢献したいです… 

(伊藤と三井は深くうなづいてメモを取ると、ステージ外からリクとマイの声が聞こえてくる。)

マイ: 福利厚生!福利厚生!

リク: (彦摩呂風に) まさしく「配属ガチャのゴッドフェスや~。」でございます。それも一興。

伊藤: (マイとリクの声に気づいていない様子で) ありがとうございます。ということはつまり弊社が第一志望で他の企業の選考は受けていないということですね?

お母さん: (ささやき声で) ないです。ないです。

万丈: はい…現在…そうですね…他社の選考は…受けておりません…

リク: (ひろゆき風に) 「大手から~ベンチャーって行けるんすけど~ベンチャーから大手って難しいんすよね。なので~新卒は大手行った方がいいっす。はい。」でございます。

マイ: あなたの感想! あなたの感想!

三井: (リクとマイの声に気づいていない様子で) ありがとうございます。(唐突に) ではあなたを乗り物に例えると何ですか?

万丈: (お母さんが何かをささやこうとするが、特に答えに困る様子もなく) 私を乗り物に例えると…電車です…新幹線とかじゃなくて…その…もっと遅い電車…なぜかと言いますと…始発から…終点までたくさんの乗客を乗せて走るように…周りの人間を乗せて…堅実に…仕事が…できるからです…

リク: 御意。「脱線」してしまえば自分だけでなく、乗客にも甚大な被害が出てしまう。なんという万丈さんの慈悲深さ!

マイ: (無知に) ふーんそうなんだ!ところで「脱線」って何?

三井: (マイの発言を無視して) ありがとうございます。

つづく

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