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【小説・全文公開】連立のアキレス 第1話

【注意】この物語は事実を元に解釈を広げたフィクションです。

 「私」は大阪市西成区に住む1人の男だ。

日本の政治において、1999年から自民党と公明党という二つの党が連立関係を結んでいる。これにより、2009~2012年を除いて安定的な政権を実現しているが、ここにはさまざまな「犠牲」によって成り立っている。その筆頭は衆議院選挙における「公明党が議席を持つ選挙区に住む自民党支持者の犠牲」である。
 彼らは自民と公明が連立して以降、小選挙区に自民党の候補が出馬せず公明党とそれ以外の野党しか出馬しないため総選挙の度に「選択肢」が他の選挙区に比べて少ないのである。
それが連立政権の犠牲の一つだ。「私」が住む大阪市西成区はその犠牲に1999年から悩まされ続けてきた。

しかしこのままうずくまる「私」たちではなかった。
自民党大阪府連にいるある男を利用すれば、自公の連立関係に一矢報いる事ができることを知ったのだ。

その男の名は柳本顕。2021年の時点ではまだ元大阪市議会議員の一般党員である男だ…

これは大阪にある自公連立政権の「アキレス」をぶった斬るために動いた人々の物語…

 2020年11月1日、大阪市がなくなるかもしれないいわゆる「大阪都構想」が僅差の反対多数で否決された。これにより大阪市の存続が決まり、反対派達は歓喜の声をあげていた。無論「私」もそのひとりであった。
しかしこれで反対派が安心できる状態ではないのだ。大阪都構想を取り仕切った大阪の地域政党「大阪維新の会」が大阪府知事、大阪市長の椅子を持ち、大阪府議会の議席は過半数を持っている。大阪市議会だけは維新が過半数に達していないが公明党に協力を得て議会を回してきた。
しかし公明党はこの大阪都構想において、自らの保身の為に大阪市議会でとんでもない過ちを犯した。

 2019年4月、4年に一度日本の全都道府県の首長や地方議員を一斉に選出する「統一地方選挙」が行われた。大阪府はこの中でも注目されていた。
なんせ当時の松井一郎大阪府知事と吉村洋文大阪市長が立場を交換して出馬してきたのだ。これに大阪府議選と大阪市議選の日程に合わせる事で維新は都構想を有利に進める為に知事選府市長選の勝利と府議市議の維新過半数を目指して戦いを仕掛けてきた。これに驚いたのは維新を目の敵とする「反維新」だ。国政では圧倒的多数に君臨する自由民主党(以下自民)が後塵を期している数少ない地域の一つである大阪でどうしても維新に一泡吹かせたいと、犬猿の仲というべき日本共産党と手を組んで維新を妨害してきた。
 だがそれも功を奏せず大阪維新の会が府知事と大阪市長の座を死守し、大阪府議会は過半数を、大阪市議会も第一党の議席数を獲得した。
とは言え大阪市議会は維新が過半数の議席数に満たない為、他の党との協力が不可欠だった。そこで公明の協力を仰いだわけだ。
だがそれも反対多数で否決されてしまい、廃案となった。

 大阪都構想への賛成の見返りに、公明党が国会議員の議席を持つ大阪府内にある4つの小選挙区に維新は候補を立てないというバーターが成立していた。だがこれは公明党が議席を持つ区域の一つ・西成区に住む「 私」にとっては最悪な状態だった。都構想を賛成してきた公明をこれ以上応援する気になれなくなった。私は他の自民党支持者に作戦を打ち明けた。
「柳本顕さんに出馬してもらおう」
それはかねてから地元・西成区で代々政治家を輩出してきた柳本家の顕に西成区を含めた小選挙区・大阪3区に出馬してもらうことだった。
 しかしここにも壁があった。大阪3区は「公明党」が持つ選挙区なのだ。自民党と公明党は国政において1999年から連立政権を構築している。その連立において衆議院議員総選挙の小選挙区比例代表並立制におけるやり取りが問題だった。
公明党は自民党候補を推薦・応援の意味合いとして公明党の票を自民党候補に入れて当選をサポートする見返りとして一部の小選挙区は公明党が持つ約束を交わしていた。
 それが柳本にとっても国政進出を妨げている一因だった。なんせ大阪3区には自民党党員は出馬できないからだ。だが手はまだあった。
「今の柳本さんなら自民党辞めてくれるかもよ」

 2019年夏の参議院議員通常選挙に大阪選挙区から自民党公認候補として擁立された柳本顕だったが、同年春に急遽行われることになった大阪市長選挙が彼を翻弄させることになる。
4年前の2015年に行われた大阪市長選に維新候補に対抗するための反維新候補として出馬したことから、同党の選挙対策本部は再度柳本に出るように要請してきた。
しかし当初は固辞していた。しかし他の大阪市議会議員や有力な人物に声をかけても断られ続けてきたため再び柳本にお鉢が回ってきた。
普通に要請しても断られることが目に見えていたので党本部は自民党のドン・二階俊博を仕掛けてきた。二階は柳本にすごむ。
「おめえが出ないと、大阪は取り返しがつかない事になる。もう一度出んかい!」
恫喝に屈した柳本は参院選出馬を辞退させられて出たくもない市長選もう一度出ることになった。

結果は惨敗。
大阪府連はそんな柳本を不憫に思ったのか再度参院選の公認候補に戻すよう要請。
しかし選対は以前から同党で擁立していた大阪府知事を経験した現職の参議院銀・太田房江に一本化していく意向を示していた。
彼女は2013年の出馬時は比例候補として出馬しており、ひっそりと最下位当選していたが今回は柳本とともに大阪選挙区から自民党公認候補として立候補した。
「なんでですか!柳本さんは二階さんにおどされて大阪市長選に出馬させられたんですよ」
当時の私は納得いかず自民党本部と選挙対策委員会にかみついた。
「すまない・・・もし柳本さんを再度公認したら大阪選挙区は共倒れになる可能性がある。定数が複数ある選挙区で自民党が当選者を出せない事だけは何としても避けたい」
参院選候補への復帰どころか大した埋め合わせもなく、柳本顕は自民党の一般党員に逆戻りとなってしまった。

これ以降私たちは自民党への不信感を増長させ、柳本は気力を失った。
しかし彼は大阪・西成の星だ。このままくすぶらせるわけにはいかない。
公明党に支配されたこの地元の閉塞的な空気をぶち壊してくれるポテンシャルがある。
彼を焚き付けて、大阪3区に無所属で出馬させる作戦がまとまった。
2021年の春、柳本に進言した
「柳本さん、今日は折り入ってお願いがあります。私たちはこれまで自民党のためにと地元の選挙区では公明党を応援していました。しかし前回の都構想で維新と手を取り合っているところをみるとこれ以上公明を応援することができません」
「私たちは限界ですよ。20年以上衆院選では自民党の候補がいなくて、公明党の候補しかいない。あろうことか公明党は大阪では維新と協力して都構想に賛成してきた」
「公明との選挙協力辞めよう。柳本さんが無所属で大阪3区に出馬したら確実に投票率あがって柳本さん勝つよ!精一杯応援しますよ」
「それに柳本さんも一昨年の大阪市長選に無理やり出馬させられたうえ、ほったらかしにした自民党本部のこと恨んでいるでしょう?」
「私」たち支援者の声に気をよくしたのか、
「いいでしょう。あなたたちの思いしかと受け止めました。私・柳本顕、地元の人のために大阪3区に出馬しましょう!」
重い腰をあげ私たちの話に乗っかってくれた。さあ、公明党と自民党本部に反逆ののろしを上げる時である。

続く


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