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桜を掘りに行った話(汗)

入学式には桜のイメージが全国的に定着していると思うが、さにあらず。北の紋別で桜が咲くのは5月の連休当たり。だから入学式には間に合わない。

そのためか、紋別小学校にも、紋別中学校にも、紋別北高校にも桜はなかった。学校にもなかったが近所にもなかった。だから、僕の学校生活の思い出に桜は入ってこない。ただひとうつの冒険を除いては ―― 

あれは中学2年の5月半ばを過ぎた頃だったと思う。遠くの大山にちらほら見える桜を見ながら僕が言った。

「うちにも桜があったらいいな」

この一言に仲間が乗った。「取りに行くか!」となり、仲間3人でスコップ担いで山に向かった。

家のそばを走る線路(単線)を越え、傾斜のある原っぱを下り、下に流れる小川を渡る。ここまでは、いつもの川遊びに行く順路。次に川向こうの斜面を登り、そこから少し歩いた先が山。さっき家のそばから眺めた桜の木にたどり着くまで30分くらいだったと思う。


僕たちは桜を掘りに出かけた

それは高さは2.5メートルくらいの山桜。それを3人でせっせと掘った。結構大変だった。それを黙々と引きずって帰ってきた。

原っぱをせっせと引きずっている時、遠くの方から農家のおじさんの声がした。「なにやってるー」

それは問い質すような口調ではなかったが、一瞬ドキッとした。そして、みんなで「なんでもないでーす」と丁寧に叫び返した。それから僕たちの歩みが少し早まったのは、多少の後ろめたさがあったからに違いない。

何はともあれ、3人は無事戻り、それから家の前を再び黙々と掘って植えた。いやいやいやいや、ちょっとした冒険だった。

残念ながら、その後の桜は葉っぱばかりの記憶しかないが、桜を掘りに行った記憶だけは、満開の桜の如く鮮明に残っている。

話は変わるが大学は、親父への反発心もあって紋別から遠くの大学を選んだ。そして、大学4年になると、がむしゃらな気持ちでアメリカに飛び出した。それからロンドンへ渡り、かれこれ、3年近く向こうにいたのは、必死に勉強していたからではない。単にお金がなくて帰れなかった、という笑える話なのだが、根無し草のような日々だった。

もし、あの頃の自分が旅先で1本の桜の木に出会い、
もし、桜が満開に咲いていたら、
僕はきっと桜の木の下で泣き出したことだろう――と思う。

単なる想像でしかないのに、桜の花を見ると、いつも、そんなことを思う。何なのだろう、この気持ちは…。

だから、桜の下で、飲んで騒いでなんて気持ちには、ちっともなれないのだ。 

所沢の黒目川沿いの桜

(まこと)

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