サーカスの子
小学生のとき、街にサーカスが巡業でやってくると、団員の子供が一時的に同じクラスに入ってきたことがあった。それは2度あり、どちらも女の子だった。
一度は、3年か4年の時だった。殆ど話をしない子だったけど、それは仕方ないよね。だって、サーカスの巡業と共に転校を繰り返しているのだから、仲良しなんか作る暇ないだろうし、仲良くなっても、ほんの数日で別れが来ちゃうのだから。
だから、教室に座っていても、遠慮がちに黙っていたけれど、昼休みになり、みんなが旧校舎からグランドに駆け出していったとき、「みんなと遊ぼう」と誘うと、なんとなく笑ってくれたので嬉しかった。そして、ドッジボールをして遊んだ。でも、会話らしい会話はしなかった。
あれは、キグレサーカスだったと思う。
親に頼んで休みの日にサーカスを行かせてもらった。たしか、いつもの仲良しと一緒だったはずだ。
その時の大々的な呼び出しものに、鉄球の中をオートバイが縦横無尽にぐるぐる走るのがあった。最初に鉄球の扉からオートバイが入ると、扉が絞められた。この時点ですでに緊迫感がある。次にオートバイが「バリバリバリ!」と物凄い音を出しながら横に走り始めると、徐々に高さを上げて鉄球中央を真横にぐるぐる回る。それが今度は縦回転になっていくのだ。爆音もすごかったが、落ちないので驚いた。
その舞台の後ろの陰に、その子の姿を見た。
その頃、「遠心力」という言葉は知らなかったが、勢いを付ければ落ちないと分かり、家に帰ってから、ブリキのバケツにビー玉を入れ、バケツをゆすってビー玉をぐるぐる回して遊んだ。最初は下の方から、それから徐々に上の方で回した。オートバイのように。
バケツの中で回るビー玉のうるさい音が、オートバイの音のようだった。
二人の男が帽子で遊んで笑いを取った。そのひとつに帽子のつばを持って、くるくるっと回して頭に被る芸があり、面白いと思った。もう一つは、一人が帽子を投げて、もう一人が頭でキャッチする技。これも楽しかった。
難易度は全然高くないので、帰ってから、その仲良しの家に上がり込んで、学生帽でその二つの技を練習して遊んだ。2,3メートル先から投げられた帽子をうまく頭に被せることが出来たときは、オットセイになった気がした。
帽子のつばを指で挟んでくるくる回してから被る芸は、今も、誰に見せるでもなく時々やるが、やると、顔も何一つ思い出せない、数日間だけ転校してきたサーカスの子の記憶がクルクルと蘇ってきます。
(まこと)
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