ショートショート「飛行機」

羽田発サンフランシスコ行きの機内。
私はCAとして初の仕事に焦ってばかりだった。
少し休憩しようと、ギャレーに入ると「機内食運びに行くよ」と先輩CAが
言い出した。
思わず溜め息がこぼれたが、先輩には聞こえなかったようで安心した。
順調に機内食を届けていき、残るは二つとなった。
「失礼いたします」
そう声をかけ、客の方に目をやったとき、私は少し戸惑った。
目の前にいるのは、二人の外国人だった。
三十代と思しき女性と明らかに小学生の男の子で、二人は親子だろう。
カートの方を見る。
皿にはそれぞれ牛肉料理と鶏肉料理が乗っていた。
質問しなきゃいけないじゃん。
私は英語が苦手なのだ。
何で違う料理を頼むんだよ、と理不尽な怒りがこみ上げてくる。
何て言ったらいいんだ。
あなたが頼んだのは鶏肉ですか、とかどう言うんだ。
今考えればジェスチャーとかを使えば何とかなったはずだ。
時間ばかりが過ぎ、焦りが増す。
ええい、文法がめちゃくちゃでも伝われば良いんだ。
開き直った私は、窓側に座る男の子に向かって、優しく微笑みかけて言った。
「Are you chicken?」

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