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『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』個人的まとめ

読んでみた個人的な感想です。
他の方の作品への思い入れを咎める意図は一切ありません。







◾️全体の印象
・「客観性はない」とわざわざはじめに書いてあるので、書いてあることをそのまま鵜呑みにはできない。
・社会現象にまでなった作品のラストを完成させることがどれほど大変だったのかは伝わってくるし、その重圧はよくわかる。だから色々あったけど完遂したんだから褒めてほしい、という書き方が散見されるのは、よくわからない(業界やファン向けの本だからそれでいいのかもしれないけど)。それを言っていいのは観客側であって、当事者側ではないと思う。
・良くも悪くも「庵野さん頼み」な空気感が強い。「ファンや観客を楽しませる」よりも「庵野さんを喜ばせたい」が優先される場面が非常に多い印象を受ける。完結させることも、「ファンが納得する」ではなく「庵野さんが納得する」になっている。「シン・エヴァ」の脚本の細部に客観性がなかったのはこのせいではないかと感じる。庵野監督に対して、対等な立場で率直に辛辣・真摯な意見を言える人がどれくらいいたのかは気になる。旧劇の頃ほどはいなかったのではないかと思える。
「ゲンドウと冬月の二人でネルフ運用して大量のエヴァ操ったりしたらリアリティなくなりますよ?」
 とか、
「加持さんがヘリでサードインパクト止めたりしたら、シンジ君が14年間溶けてた意味とかエヴァの存在意義自体が消滅するけど大丈夫ですか?」
 とか、
「親子関係に見せたいのはわかりますけど、アスカに裸でケンケンとか言わせたら絶対公開後の話題がそれしかなくなってグッズの売上死にますよ?」
 とか、脚本の粗を「庵野さんの作品だから」で済ませて誰も指摘しなかったように見えるのが、個人的にすごく怖い会社だなと思った。
 ただ、作品は監督のものというのもよくわかるし、この会社の制作方法が特殊なのかどうかは、自分が比較検討できる他の制作会社のデータを持っていないのでわからない。
 一方で、庵野監督への「心酔」「崇拝」に近い制作体制がこの作品のノイズになって、コアなファンの大量離反を産んだ要因なのではないかと思う。

◾️腑に落ちた点
・興行収入100億円が目標だったという点と、鶴巻さんのインタビューに、脚本について「思いの外わかりにくいことをやろうとしていると感じました」「ある種の難解さを好む昔からのお客さんを切り捨てずに、新しいお客さんも取り込むという両取りをねらい」というコメントがあったことで、「シン・エヴァ」がやはりライト層とコア層のそれぞれに別々の意味を持たせたダブルミーニングだったという確証は得られた(主にシンジ・アスカ関連)。
・「旧劇を一回は観た」「内容はあんまり覚えてないけど旧劇ラストの『気持ち悪い』は知ってる」くらいのお客さんをたくさん取り込まないと、100億は無理という思惑があったように感じる。確かにキャラにこだわりがないライトなお客さんには、あの映画の内容は「監督もキャラも大人になれて良かったね」ですっきり終わったようにみえる(らしい)ので、受け入れられやすいし、自分の周りの人の感想を見てもその点では成功していると思う。
 代わりに、今までファンアートやグッズ買いでコンテンツを長年支えたコアなファン=本来マネタイズしてきたファン=キャラ推し・キャラ好き・ハードSF好き・考察好きなファンのほとんどに「公式から裏切られた」というトラウマ級の強烈な印象を与えて反転アンチを大量生産する事態を招いたわけで、その点では完全に失敗していると思う。
・庵野さんの考えについて、誰の意見を見ても「そのように感じた」とか「そのように思われる」「考えを察して行動していた」という曖昧な供述しか見当たらず、右腕である監督陣ですら、映画の真意について共通の認識を持っていなかったのではないかと思われるのはとても興味深い。
 映画公開直後はやたらとシンマリ・ケンアスで推そうとしていたのに、なぜ特典の薄い本からはシンアス全開の「Q」前日譚のマンガを掲載し、他は親子関係のテーマを示唆した寄稿イラストだらけにしたのかも、個人的には上記の理由から得心がいった(本気でグッズ関連の売上が洒落にならないレベルで落ちたのが理由かもしれないけど)。

◾️腑に落ちない点
 販促やマーケティングの話にまで触れているのに、脚本内容や公開後のSNSの炎上には全く触れていないのは、不公平だと思う(ビジネスにおける“検証”とは、決して都合のいい部分だけを抜粋して振り返りを行なうことではない)。わずかに触れているのは鶴巻さんのインタビューのみという徹底ぶり。同じように、月刊Newtypeのインタビュー記事や特典の薄い本で大炎上した方たちのインタビューがないのも、忖度と言われても仕方がないだろうなと感じる(載せたらネット界隈でネタにされるのは確実なので、載せないのが正解とは思う)。
 本当にこのプロジェクトが大成功だったのなら、「客観性はない」などとはじめに書く必要はないし、プロジェクトの目標が「興行収入100億円」「エヴァを完結させること」と書いてあるにもかかわらず、「プロジェクトの成否とは数値や指標に左右されるものではなく、10年後、20年後に真に世間に評価されたものこそが成功」みたいな整合性の取れない言い訳を前置きしておく必要もないし、アマプラ配信後の円盤の売上は狙い通りだったのかも書けばいいし、脚本や設定だって成立のプロセスや内容の賛否を堂々と掲載すればいいのに…と意地悪なことを思った。

◾️まとめ
 ずっと知りたかった「シンジ君とアスカの描写には裏の意味がある」という部分に自分なりの確証が得られたのはよかった。
 庵野さんのファンの人や業界の人は読む価値があると思うけど、「シン・エヴァ」が無理だった人は怨嗟がさらに積もるだけなので、読まない方がいいかもなぁと思う。

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