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純愛バカの戯言「同級生」

 学生時代に脳破壊された作品で「同級生」というゲームがあったことを思い出した。

 高校生の主人公を操作して意中の女の子と仲良くなるという、いわゆる「恋愛アドベンチャーゲーム」のパイオニア的作品で、シナリオと音楽がいいという話を聞いてプレイしてみることにしたのがきっかけだった。ライトノベルから小説に入った影響か、純愛が大好物のロマンティックが止まらない阿呆なので、恋愛小説や漫画にやたらと傾倒していた時期だった。
 誤算だったのは、この作品が元々18禁のパソコンゲームだったことを知らずにプレイしたこと(複数の家庭用ゲームに移植されていた)と、登場人物の一人である「田中美沙」というキャラクターに完全にハマってしまったことだろうと思う。
 当時は全く知らなかったのだが、田中美沙といえば18禁のゲーム界隈では伝説的なツンデレポニーテールキャラとして今でも人気のあるキャラクターで、自分も初プレイ時には声を担当されているこおろぎさとみさんボイスの破壊力に凄まじい衝撃を受けた覚えがある。親友が好きな男子(主人公・卓朗)を自分も好きなことに気づいてしまい、陸上と友情と恋の板挟みにあうという、現実になさそうでありそうなストーリー展開も、没入感が凄くて好感触だった。

 問題というか、引っかかったのはエンディングだった。
 よくわからないなりになんとか話を進め、晴れて結ばれてつきあうことになったのに、なぜかその後を描いたエンディングで「いつか二人には秋が訪れるかもしれないが、俺たちの夏はまだ始まったばかりだ」みたいなモノローグが流れて、全然ハッピーエンドに見えなかったのだ。
 調べてみると、このキャラは発売当時からメインヒロインよりも人気が凄かったようで、続編「同級生2」にも登場しているらしい。2に登場する時は高校生から女子大生になっていて、その触れ込みが「前作主人公とつきあっていたが、別れている。2の主人公が前作の主人公にそっくりで急速に惹かれていくことになった」とかなんとかいうもので、この事実を知った時の自分の衝撃は今でも筆舌に尽くし難い。
「うせやろ……」という感じだった。2から始めた人には違和感がないのかもしれないが、こちとらすでに1の主人公・卓朗にバリバリ感情移入してしまっているのである。ゲームなので、いわば自分の分身である。いや、卓朗(というか自分)なら、好きな子と喧嘩したくらいで別れたりなんかしない、逆にもっと大切にするはず、卓朗(というか自分)と美沙の信頼関係はそんな程度で揺らぐはずがない……などという入り込みすぎの妙な考えが頭の中でぐるぐるした。大人の事情なのだろうけど、人気が出たからってそんな設定で再登場させられてもちっとも嬉しくなかった。
 そもそも18禁ゲームにピュアさなんか求めるなということなのかもしれないが、ばかやろーこっちは異性にモテたことがないからプレイしてるのである。純愛からしか得られない養分を求めてプレイしてたのに、NTRみたいな展開を見せつけられた哀れな場末のオタクの気持ちを想像してみてほしい。せめてゲームの中くらいハッピーエンドで素敵な思い出にさせておくれよと、何度恨み節を呟いたかしれない。
 やめときゃいいのにネットで調べてしまって、いくら卓朗と性格も容姿もそっくりな設定だからといって、好きなキャラが別の男性と懇意になっていく様子を見せつけられるのは拷問に近かった。
 やめときゃいいのについでに調べてみたら、2に繋げるために田中美沙のエンディングだけ主人公との別離をほのめかす内容に変更されていたらしいことがわかって、さらに悶絶するハメになった。
 今なら炎上しそうな設定に思えるけど、18禁のゲーム界隈ではキャラクターのこういう扱いや続投の仕方は当たり前なのだろうか。そのあたりは詳しくないのでよくわからないが、理解も納得もできない。少なくとも自分は、「同級生1」をプレイしていた時のワクワクも思い出も全て否定された気分になった。
 ちょうどリメイク版「同級生2」が近いうちに発売になるようなので、今の新規ユーザーがどういう反応をするのかは、商業的には気になるところではある。

 当時おんなじような批判があったのかどうかは知らないが、アニメ版「同級生2」では、喧嘩別れした卓朗(アニメではわたる)と田中美沙が仲直りし、わたる(卓朗)の元へ帰っていくという救済策が描かれいて、「その展開アリなのね」よかった…と納得するまでに半年くらいかかった。2の主人公視点で物語が進む中、わたる(卓朗)と田中美沙が熱い抱擁の後にするロマンチックなキスシーンを何十回もビデオテープ巻き戻して観ていたのは自分くらいのものだろう。ここのラブシーン観てむせび泣いてたのも自分くらいだろうと思う。自分以外には本当にどうでもいいことだと思うが、このシーンの作画は気合が入っていてめちゃくちゃ良い。わたる(卓朗)もイケメンの好青年に成長していてお似合いのカップルである。再登場なんていらんから、最初からこれをエンディングで見せてくれればよかったのに……。

 真面目な話をすると、田中美沙が2の主人公に惹かれるのに「わたる(卓朗)に似ている」以外の目立った理由がないのも、自分が納得できず、続投を受け入れられない要因のひとつだった。
 わたるはスケベだが義理人情に厚い愛すべきバカなので、親に反対されても陸上をがんばる美沙を素直に応援するし、怪我で陸上ができなくなるかもしれない美沙に、陸上がなくても美沙に対する自分の態度は変わらないよと言ってあげられる唯一の人間だった。そういう裏表のない奴だから美沙はわたる(卓朗)を好きになった、というのは説得力があった。
 再登場させるからには、これを超えるバックボーンが必要になるが、2の主人公には、田中美沙への能動的な行動による動機付けがない。だから、アニメ版でわたる(卓朗)と2の主人公が並んだ時に、美沙がわたる(卓朗)を選ぶのは自然で納得できるし、当然だと思った。
 ただ、そうすると田中美沙編における2の主人公の意味は、結局「わたる(卓朗)の代用品」以外なくなってしまって、美沙の作中での行動全てが陳腐化する。アニメ版では、プレゼントの指輪を捨てきれず、ラストでわたる(卓朗)へ回帰していくにもかかわらず、美沙が知り合って一日しか経っていない高校生男子に、
「あなたが彼に似てるから好きになったんじゃない、彼があなたに似てるから好きになっただけなんだから!」
 というような台詞を投げつけたりするのを、「いや、さすがにそうはならんやろ…」というやるせない気持ちで眺めることになるのである。ヤケクソか。他にもここには書けないような言動が多数あり、いくらゲームだアニメだと言っても強引すぎだし、やりすぎだと思う。「前作で人気があったからまた登場させた」というメタな理由しかなくなるのが、なんだかなぁという感じだった。
「同級生2」のファン向けに作られたアニメの脚本に何言ってんだっていう話ではある。ただ、傷心につけ込んでヒロインをかっさらっていくような輩と、後出しジャンケンみたいなアンフェアな展開が死ぬほど大っ嫌いって話でもある。本当に好きなら彼女の傷が癒えるまで、前の相手と付き合った年月と同じ時間くらい待ってみせなさいよ。
 そもそも田中美沙というキャラクターの心理描写から鑑みるに、卓朗と一緒にいた時間を一番大切に想っていて、彼女にとっての幸せは卓朗とのハッピーエンドなのは間違いなさそうなので、そうすると喧嘩別れしたという設定はマッチポンプ以外のなにものでもない。
 田中美沙というのは「物語の登場人物は大人の都合で性格や存在意義がねじ曲げられることがある」ということを、初めて自分に教えてくれたキャラクターだった。

 結局、この手合いのゲームがマルチエンディング(マルチバース?)なのと、アニメで卓朗回帰エンドもあったので、「1のラストで付き合って喧嘩別れするかもしれないけど、その後なんだかんだで仲直りして同棲始めて末長く幸せに暮らしたんだろう」という結末に自分の中で落ち着いた。当時もし同人誌の存在を知っていたら、このルートを描いた二次創作を探して買い漁っていたと思う。
 ちなみに、最初期のDOS(フロッピーディスク)版が2000年代に「同級生オリジナル版」として復活したのを知ったのは社会人になって随分経ってからで、こちらの卓朗と田中美沙は「いつまでも仲良く一緒に暮らしました」という形のハッピーエンドになっている(だいぶえちちな感じではあるけど)。
「結局自分の好みの結末でいいんじゃね?」という達観した気持ちに至るまで、初プレイから五年以上もかかった阿呆が私です。

 自分みたいな話に入り込みすぎる人間には、この手合いのゲームは向いてないんだろうな、というのが今になって思う感想である。ゲームのシステム上、話を進めるために同時に何人もの異性に声をかけたりする必要があるのだが、罪悪感がまさって気持ちのいいものではなかった。ハマってしまった田中美沙以外の話も一切進める気にならなかった。はっきり向いてないのだと思う。
 大人のゲームは怖いなぁということで、それ以来恋愛ゲームには手を出していない。恋愛小説を好んで読まなくなったのもこの頃で、我ながら厄介な性格だなと思う。
 ただひとつ言えることは、こおろぎさとみさんボイスの破壊力は、今聞いても凄まじい。

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