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バレンタインの思い出 (毛)

元ブログより。2015年01月27日に投稿したものに若干加筆修正して載せます。シリーズ3部作となります。まずは私編(;'∀')。

せっせ、せっせと

働いている時に、時期が来ると言われた。
「男性陣にチョコ配るので、女性一人あたりこのくらいで・・・」

見積もりを見せられた。
テレビなんか、毎年勝手に盛り上がっている。

バレンタインデーなるものはわたしが子供の頃はたいして盛んでなかった。
が、しかし、初めてチョコをあげたときの事が蘇って呻吟した。
ハズカシイ・・・

アレは中学1年のときだ。
前年の春にめでたく中学に入学したワタシ。

あちこちの小学校から生徒が集まる。
クラスは7つあり、たまたま同じクラスになって仲良くなった子が懊悩していた。

「H君・・・好き・・・好きだぁ・・・」
その子は、小学校の卒業アルバムまで持ってきてワタシに見せた。

「これこれ、これがH君・・・カッコいいでしょう??」
どれどれと見たわたし、その顔に一目ぼれしてしまった。
友達の話と写真だけで実物を見たことがまだないのに。

端正で、とてもいい顔だった。それまで一緒だった同級の男子とは何たる違い!!と自分の顔はさておき同級生を腐しつつ、ワタシまで惚れ惚れとその写真に見入った。

「ゴメン、好きになった、たった今」
友人はひとの好いたちでライバルが増えたことを怒りもせず、
「ふたりで協力してH君を好きでいよう」
なんてわけのわからないことを言って盛り上がる。
彼女によると彼は5組だという。
ワタシは2組。間に3組と4組が邪魔だ!!

早速その日から休憩時間に何度か廊下に出て生H君を見ようとするが、その他が邪魔でなかなか見れない。やっと遠目に確認した時思った。

「カッコいい・・・」
熱病にかかったように、顔しか知らないH君に思いを募らせ妄想は膨らんでいくのだった。

恥ずかしいが書く。

ワタシは当時日記をつけていた。
きょうだいもいないし家では話す相手が親だけで、思春期のワタシとは全く話が合わないから殆ど話はしない。

父親がうるさいから好きな子の話などましてや出来ない。
日記は毎日彼に語りかけるように綴る。

話もしたことがない相手、ましてや彼はワタシの存在など知るヨシもないのにだ。

いつだったか実家を片付けていて当時の日記が出てきて、元夫と息子が読んで大爆笑していた。

実家は新築して引っ越していたのだが、あの日記が残っていたということは親が取っておいたということで、親にも読まれたのであろうか・・・
もう親は亡くなっていたから聞くことも出来ず、ワタシは
「やめて!」
と奪い返し火にくべた。ああ・・・わたしの思春期・・・

5組には才気煥発な友人がいて、H君の隣の席で大層仲がいいと耳にしてわたしは奈落の底に落ちた。
あの子には勝てない・・・。

足が速くて可愛くて、頭もよくて・・・同じクラスならワタシだって何かアピールできても、果たして何をアピールするのか・・・
あ、あるぞ!!!
百人一首の一番目を諳んじていたのはクラスでワタシだけだった。


  あきのたのかりほのいほのとまをあらみ 

  わかころもてはつゆにぬれつつ ・・・・天智天皇


それがなんだというのか。
身の程や、取り柄のなさをいやというほど知った時期でもある。

別に彼とその子が両想いだったわけではないのだが、ワタシの悩みは増えるばかりであった。

家の電話が鳴るたびに妄想する。
彼からだったらどうしよう・・・。

有り得ないのに、ドキドキしているわたしは本当に馬鹿だ。
今ワタシが当時ワタシの親で、部屋にこもってブツブツと何か言いながら夢を見ている姿を見たら、何事かと心配したと思う。でも止められないのである。

文化祭の写真を誰かから見せられたときも、愕然とした。
5組にはワタシの従弟がいた。
同じ写真に納まって笑っている。
男5人。
同じ血筋なのになんでワタシでなく従弟が5組???
・・・ワタシは己の悲運をつくづく嘆いて、かの友人に訴えた。

ワタシの募る想いに、友人は
「わたしが身を引く」
と言って全面的に応援してくれていた。

「身を引く」
と言っても彼女も彼と何かあったわけではないのだ。しかし彼女はH君とは小学校が同じで「話もしていた」という強みがある。彼女が身を引いてもワタシは分が悪い。

ワタシは彼の顔に惚れていただけで、彼のことを全然知らなかった。
野球部。弟がいる。思いのほか家が近い。知っているのはそれだけである。

そんなある日、とんでもないことを耳にした。
・・・クラスで彼だけが毛が生えている・・・

毛!!!

ワタシには想像も出来なかった。

彼は既に大人になりつつあるのだ・・・なんて素敵・・・

惚れているから、毛も素敵なのだ。

一度も話をしないままバレンタインデーが近づいた。

当時、某チョコレートCMに、大好きなカーペンターズの音楽が使われていた。

チャンス!

3日3晩考えて、CMで見たチョコを、確か120円で買い、リボンをつけた。
そして手紙を書いた。

「H君へ
 わたしの大好きなカーペンターズの歌が流れているCMのチョコを、大好きなH君へ贈ります・・・」

なんだか意味がわからない。この文章は一体・・・今も覚えている自分が情けない。
向こうはワタシの事をどの程度知っているだろうか。
時々廊下ですれ違うと、何か奇声を発して走っていく(この場合の奇声は、私の恥じらいと歓喜の声なのだが)変な子だろうか。いやいやそもそも全く眼中にないかもしれない。

しかしそんなことは関係ない。
恋とは一人で暴走するものである。
サカリの来た猫よりもものすごい勢いでワタシは突っ走り、バレンタイン当日、かねてよりチェックしていた彼の防寒着の右ポケットに入れたのだった・・・。手渡しでないところが、ワタシの純情さを表している。

そして電話が来るはずであった。
恋がいよいよ始まるのである。

電話で彼は言うだろう。
「チョコ、ありがとう。今度映画でも見に行かない?」
ワタシは着て行く服を、アレコレ想像した。

髪型はどうしよう、どこで待ち合わせしよう・・・。

そんなわけは無かった。

待てど暮らせど電話も無く(今みたいに携帯もないし、家電には親が出るから電話番号も書かない) 

シャイなH君、きっとホワイトデーにワタシの上着のポケットにお礼のキャンデーかクッキーが・・・
入っているはずもなく・・・妄想も暴走も夢も砕かれワタシの恋は何も始まらないまま終わった。

ワタシは熱が引くように、彼のことを諦めた。

「身を引く」
とかの友人に告げた。

後になって当時のいろいろを知ることとなった。

それはワタシには惨いことであった。

小学校からの(大事な友人)が当時、例の才気煥発な友人に頼んで彼に告白し、なんと彼と交換日記をしていたと言うのだ!!

彼らが交換日記にそれぞれ何を書いたかは知らない。しかし、それは正に

「ふたりの世界」・・毎日ワタシは虚しく自分の日記をつけていたのになんてことだ・・・。

その友達に聞いた。
「当時ワタシも好きだったんだけど」
「そうなの?知らなかった」
「交換日記って・・・どんな内容よ・・・」
「大した内容じゃないよ、田舎の中学生のことだし」
彼女も別にデートするでもなく、恋に恋してちょっぴり体現させていたと言う程度。

でも、そんなことも知らずに妄想し、舞い上がり落っこちていたワタシ・・・。



可哀想すぎるぜ、バカすぎるぜ!!

そう言えば思いだした。

一度だけH君から電話が来たことがある。
高校のときだ。

彼とは別の高校に進み、接点など殆ど無い中学時代よりさらに無くなっていたのに、電話が来た。
なんでウチの電話番号を知っているのか。

で、彼がこう言った。
「今暇ならウチに遊びに来ない?」

生真面目だったワタシは、とても嫌ァな気持ちがしたことをよく覚えている。
周りには他の男の子たちもいるようだった。

「きっと襲われる・・・」


その話を、にっくき交換日記(さっき大事な友人と書いたにもかかわらず)に話したら同じようなことがあり、やはり断ったと言っていた。

「あの時行っていたらきっとバージン失っていたかも・・・」
「男は怖いよね・・・」
「そうよ、毛も生えてるのよ、ヤバいよ」

かつて好きだったことなど忘れ、男の本能に眉をしかめる乙女たち・・・
バージンがどれだけ大事だったか。

男の欲望をぼんやりでも察知し、己を守ろうと身を固くしていた乙女(ワタシらのことだよ)たち・・・

ああ、ひとはこうして大人になるのだったか・・・

で、バレンタインデーは本命だけに心を込めて贈り物をしたいワタシ。そこだけは当時も今も変わらない、乙女のままなのである。

はい、馬鹿でした。
いえ、馬鹿です・・・・・

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