月刊誌
夫は家の前が海というところで育った。幼少期より海に親しみ、泳ぐ潜る釣る捌く食べるということをしてきた。
魚については物凄い見識知識がある。なんでも、幼少期は常に魚類図鑑を見ていたそうで、魚の名前だけでなく学名まで覚えている。
テレビなどで珍しい魚の名前を聴き、
「それは方言の呼び名、正しいのは○○だ」
と、たちどころに指摘するのである。
ボーっとしている私は
「ほう・・・」
と驚くばかりだが、時々意地悪をして夫の言い分が正しいか調べてみると当たっている。ハハー・・・とひれ伏すしかないではないか。
夫はさかなクンさんのことを
「この人は本当にすごい」
と言っている。私は夫イチバンなので、その夫が言うのだから
「さかなクンさん、凄い」
と素直に思う。
海にとどまらず、川や湖沼にも手を出した。
そういう男はどんどん極めたくなるタチで、やがて山に入りキノコ山菜を極めていった。
図鑑で見た憧れの魚に会いたくて、小学生の時近くの沼に行ってワクワクと期待したそうだが、その魚の生息域ではなかったので彼が会いまみえることはなかった。
歳月が流れ、当地に引っ越しして、某所で私がそれを釣り上げたら感激しつつも悔しがっていた。
積年のあこがれだった魚を、テキトーなキャスティングで釣ってしまったこの女。
彼の気持ちはワカルが、魚が勝手に針に掛かったのである。
私は先人(夫)の苦労も知らず、彼について行くだけで良いものに会えるのだった。
「俺は、投網も簎(ヤス)もやってたからな。その経験を活かして
『月刊 投網』
『月刊 簎』
を創刊しようと思ってたんだ」
とハナをヒクヒクさせつつ言う。
なんでも、投網で鮎を3ケタ、ヤスで黒鯛を2ケタ獲ったのだそうだ。
それがどのくらい凄いのかは素人の私にはピンとこない。近所にナントカさんという
「しょっちゅう飲んだくれてばかりのしょうもない」
人がいたそうだが、魚突きについては本当に凄い人で、その人に教えてもらったそうだ。
「黒鯛は突こうと思っても突けるものじゃない」
のだそうだが、その人が
「8枚突いてみせ」
負けず嫌いの少年(夫)は
「んじゃ俺は9枚突く」
と思い決め、やったら12枚。名人が心から感心したそうだ。
「すごいねー」
「いや、その人は食べる分だけ突いてくるから、本気でやれば俺なんか敵わないよ」
いずれにしてもそういう「キワメ」たがる男なので、月刊誌なのである。
「まずな、俺が裸で投網を投げてる」
「ハダカ?」
「それが特別袋とじ」
( ̄_ ̄ i)
「あと、俺が裸で魚を突いてる」
「またハダカ・・・」
「それも袋とじ」
「あと、特別付録『ヤス』『TOAMI』ステッカーな」
「表紙は?」
「表紙は服を着て、俺がカッコよく投網を投げ、あるいは、潜って魚を突いてる」
「1ページおきに袋とじだ」
「・・・・・」
「写真を多用して、字はでかくな」
「裏表紙は逆光で俺のシルエットが・・・・」
「シルエットって・・またハダカ?
「そうだ」
本文の話はひとつもないが
「だいたい25ページ分くらいになる」
でかい字で、どんな本文だろうか。このオトコは何をしたいのだろうか。
25ページの月刊誌・・・袋とじ・・・
・・・・
・・・・・・
妄想暴走する点が誰かと似ている気がするが、誰なのか今は思い出せない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?