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白い部屋

物件の続きです。


娘は夜な夜な散々騒いで迷った挙句、
「大学から1.5キロ、新築2階角部屋、7.5畳の1Kアパート」
に決めた。
「新築物件・・・」
フン!!!

とはいえ、東京といっても都心ではないので家賃も想像より安く、そこはホッとした。
騒ぎの間も決まってからも、手続きのための上京など、付き合わされたのは当然私で、娘の父親とはもう別れた後だったが子供の件に関しては連絡を取り合っており、事務連絡はした。
海外赴任中の彼にすることは何もなく、報告を聞いて
「よろしくお願いします」
と、もはや他人の関係と痛感する返事が来るのみだった。

娘の入学式には、たまたまその時期に本社へ出張の仕事をセットした父親と、まだ春休み中の息子の男ふたりが参列した。
私は転勤で居を移さねばならず、心を残して帰りの新幹線に乗るよりも良かったと今も思っている。

娘が東京に住むからと言って、私が遊びに上京することは無かった。
入学式同様、父親が国内で仕事の際や、息子が夏休みの時など娘のアパートを宿舎としていたようだ。

娘からは、東京では売っていない地元の調味料を送って欲しいなどと、たまに連絡が来るだけで、普段は音沙汰がない。
私も忙しくて、おそらく元気にやっているだろうと思うだけだった。マメに連絡は無くても会えば話が尽きない。顔を合わせるからこそ話せる事柄が多いのだった。

私が在学中に出向いていったのは、娘の誕生日近い金曜の仕事終わり4回と、卒業式、それに続くアバート片付けと転居の時だけだった。

行く日は4時半起床。

そんな時間からスポンジケーキを焼く。
♪ 朝一番早いのは、パン屋のおじさん・・・♪
なんて歌が昔あったな。
で、冷まして梱包して荷物に入れ、仕事に行く。その日は何があっても定時で上がり、駅に直行する。
そうまでして上京するわたしは馬鹿親だ。親バカを通り越した馬鹿親である。

なぜそんなことをしたか。
モノをねだらない娘がぽつんとメールを寄越した。
「ケーキ、送れないよねぇ」
ただそれだけのことに反応したのだ。

わたしは普通のひととはお金の使い方が違うと思う。人混み大嫌い、都会苦手の山姥だが、娘の誕生日を祝うそれだけのためになけなしの金をはたいて出掛けるのだ。コレを贅沢と言わずして何が贅沢か。

まっすぐ娘のもとへ行き、またまっすぐ帰る。笑うがヨロシ。
そして、会いたい時に娘に会える、それが許されている幸せな母親である。

晩秋はとっくに冬装備のいでたちでも、東京ではコートも要らないほど、夜着いても暖かい。
東京駅から中央線ホームに降りると、わたしに合わせるように特快が出るところでタイミングが良い。
最寄駅で降りると、「ダイジョウブ」と言っておいたのに娘が改札に来ていた。

「ヤア」
手を挙げる。
寒そうな顔である。
「わざわざ来なくても行けるよ」
「飲み物買うついでだから」
「東京は暖かいねぇ」
「今日は寒いよ」
とはいえ、原チャリで移動できる。こっちは今朝は霙で積雪だったぞ。

一年次は殺風景だった。全体的に息子のところより片付いていた。
 


キッチン 自炊はしているようだ    

なんか白い部屋である。


白いなぁ



バイク乗りなので女っぽい服が無い・・・


       

クローゼットの中には服が沢山あったが
「こんなにあるのにいつもオンナジ格好だね」
「そうなんだよ」
許可が出なかったので他は写してしませんが、ここは7.5畳あり、しかしほとんどその半分のスペースで暮らしている。勿体ない。

翌年も同じように出かけ、アパートに着くと部屋に押しやられ
「休んでて」
と言われる。
去年とレイアウトが変わっている。




殺風景だったのがなんぼか女の子らしくなっていた。テーブルの上のカタマリは伯母がよこしてくれたおにぎりである。

CDは相変わらずBump of chicken♪

所在なく座っているのも何なので、キッチンにいる娘に声をかけると
「ご飯よそって頂戴」
ででーんと出てきたのは、
「トンテキ」
キャベツの千切りの上に、肉だけでなく、茄子、モヤシ、舞茸、シメジなど具だくさんである。
「味付けはどうしたの」
「玉ねぎ擦って、ニンニクと・・・」
彼女オリジナルの甘辛味である。

実に美味しくてご飯が進むではないか。
「悪いねぇ、遅い時間にこんなに作ってもらって」
「1日働いてきて、そのまま新幹線でわざわざ来てくれたんだもの、いっぱい食べらいん」
東京の空の下ではあるが、訛っている。
他に
「久し振りに食べたくて」
鮪は柵で買って切るひとである。
「カツオはイマイチだ」
と言いながらも良く食べながら
「リバウンドヤバいよー」
なんて言っている。
私の血統を受け継いでしまい、軽微ではあるが持病が判明し、随分心配したが元気なので一応安心した。
どれどれ・・・と味噌汁は、茄子、小松菜、大根が具だ。
一口すすって驚いた。
「・・・美味しい。ばあちゃん(伯母)の味噌汁とおんなじだ」
娘は
「ホント? ホント?」
「うん、野菜のやわらかい味がたっぷり出た優しい味噌汁だ」

「良かった~、ばあちゃんの味噌汁、大好きなんだよ、野菜の味噌汁。
大根とニンジンしか入って無くてもどうしてこんなに美味しいんだろうっていつも思うんだよ」

「わたしには出せない味だ、参りました」
くるくると頭を撫でてやる。
歯ブラシも、兄や父親の分まで用意してあり、それぞれに名前を入れている、そんな娘である。


                              


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