ホチキス異聞・・・おかしいのは誰だ
危急の際のホチキスについて、念のため言います。
「ならぬ」
忘れもしない、勤務中のこと。制服のスカートの裾が全部ほつれていた。
あれって、ミシンでがーっと処理しているから、ほつれだすとピリピリピリピリ~と、実にあっけなく糸が取れてしまう。その時もそういう状況で、気づかなければまだしも、仕事が始まるタイミングで気づいてしまったので非常に焦った。
私は当時窓口で、一番前である。後ろには上司がいて、一番奥は支店長だのエライさんたちである。後姿をいつも見られる位置である。目ざとい次長にバレたら笑われる。
こういう時、人は冷静に対処するか、冷静にあきらめるか、逆上してしまうかである。
私はいつも逆上の末、普段否定していることをしてしまうのだ。
更衣室に携帯の裁縫道具を取りに行く時間も、縫う時間もない。その時、頭に浮かんだのは、夫の
「ホチキス♡」
私は仕事の合間を見、誰にも気づかれないようにホチキスで、スカートの裾をとめていった。しかしうまくいかない。どうにも不安だ。布地がクッションのようになり、針先が浮いてしまう。
お客さんは途切れない。
ええい! ままよ!!!
その日私は立ったり座ったりする度、チクチクと腿だのオシリだのが痛いのであった。
夕方、息子がズボンを取りに来た。仕上がりは完璧なのだが、一応断りを入れる。
「14センチのファスナーは一種類しかなくて・・・」
夫が口をはさむ。
「金のタマが付いてるよ」
息子は絶句し、私は
「大丈夫、ホラ」
と、機能的には全く問題がないと力説し、開閉してみせるが
「タマ、はみ出るじゃん!! 」
哀れつまみ部分の金の玉は、
「サービスの工具借りて取る」
ブラブラしているのはやはりよくないようだ。息子は向こうを向いてしまった。
私がふざけて、わざとこのファスナーを買ってきたと思っているに違いなかった。
誤解は解かねばならぬ、私は普通の人ならやらない手間隙かけて一生懸命直したのだ。
「生憎この近くでは14センチのファスナーは、イ〇ンの手芸コーナーでしか売ってなかった・・・でもYKKだよ、一流メーカーのだよ」
息子は声も立てずに大笑いしている。ヤツはむっつりスケベだ、そういえば。だから、実はウケにウケているのだ。
さて、この場合、だれが一番おかしいでしょうか。
① あくまでホチキス信奉の夫
② 母の真面目な手仕事を深読みし、大笑いした息子
③ 常に真面目、丁寧な仕事のワタシ
④ わざわざこういうファスナーを作るメーカー及び、わざわざ仕入れて
売る店
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