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買い物帰りに起こった奇跡

母の運転で娘と三人で買い物へ行った帰り道の話。


「遅い。」


私たちの前を走るシルバーの軽トラのことだ。

時速30キロ弱。

見るとその車体にはカラフルな葉っぱのマーク。

高齢者だ。どうやらおじいちゃんのようである。


「高齢者はこのくらいの速度が安全だよね。」

と、母は私たちに伝える体で自分を納得させるための言葉を

放った。

しかしその言葉とは裏腹に、車内には

雪のようにしんしんと苛立ちが募っていくのが分かる。


「もしかしたら前の車ヤオハンに寄るかもよ?」


10年以上も前に店が変わって今はマックスバリュになっているが

未だに前身の名前が染みついてしまっているスーパーに

おじいちゃんが寄るかもしれないという

希望ある発言をしてみた。


ヤオハンへ寄るには次の角を曲がる必要がある。

次第にその角が近づいてくる。


「ここだよ、おじいちゃん!

ヤオハンへ寄るにはこの角を曲がるんだよ!」


私は心の中で祈るように叫んだ。


しかし、その叫びは虚しく軽トラは直進した。

皆の落胆が伝わってくる。


しばらくすると赤信号で止まった。

私たちの帰路は直進か左折かの二通りあった。

軽トラのウインカーは出ていない。

直進か・・・。


「前の車がまっすぐ行くなら私たちは左へ曲がればいいんじゃない?」

と娘。

しかし私はその提案にうなだれながら首を横に振った。

「ばあば(母)はまっすぐ行く道の方が好きなんだよ。」


「信号を超えたら追い抜くよ。」

ばあばは腹をくくった。


信号が青に変わった。

と、次の瞬間信じられないことが起こった。

軽トラが左折のウインカーを出したのだ。


「おおおっっ!!」


車内はオリンピックで金をとったような歓声に

包まれた。


おじいちゃんの安全運転を祈りつつ、

私たちは一堂に勝利を噛みしめていた。





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