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オンライン講義のお作法

10月は、例年に比べても忙しかった。コロナ禍の出口が見え始めたことも(11月に入った今現在はまた感染者増加気味のようだが)あったのか、オンライン講演/講義が続き、対日本で10件近くこなした。依頼されたものを全て受けられているわけではないのだが、興味深いと考えた依頼を受けていたら、10月は週に2-3件という、私にとっては過労死寸前の量にまで膨れ上がってしまった。

発表に関して言えば、コロナ禍の期間は、海外在住研究者として利点が感じられる契機となった。コロナ禍で日本に気軽に行けないのは辛いものの、以前に比べて、比較的簡単にお声がかかるようになったから。発表することに関心があっても、今までは暗黙の了解で日本に物理的に来ることが期待されていたと思うし、ほぼ選択肢は一択だった。だから、発表の1−2時間は可能だったとしても、渡航のための数日の都合がつかず、断念するケースは多々あったわけだ。それが今では、「オンラインでぜひ」という流れになる。時にはハイブリット開催で私だけオンライン参加もある。コロナ以前はオンラインが想定されてなかった会合も、コロナ禍では基本オンライン会議に移行していたが故に、場所の制約は初めから解除されることになる。主催側にしてみれば、大阪の〇〇さんでもデンマークの安岡でもたいして変わらない、んだろう。いや、実際のところは、運営側は時差への配慮などそれなりに大変だと思うが、オンラインだし海外からも呼んでしまおう、と思ってもらえるようになったことは非常に嬉しいことだ。

この2年の間にずっと考えていたことでもあるが、この1ヶ月さまざまなスタイルで集中的にオンライン発表したことで、より一層「発表者にとっての良い発表環境」を意識することになった。集中して体験することで、経験値が高まり、考察が深まる。何が言いたいのかというと、とどのつまり、多くの機会の中でも、10月8日発表「情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢」がとても良い発表体験だったということだ。オンライン発表の構成として、あまりインタラクションや発表者の視点が考えられない場合がある。一人でオンライン参加し、サイトで起こっている議論がよく理解できずに、仲間外れになることもある。さらに、まるで罰ゲームかのように、1時間30ほどぶっ続けて話し続けることが求められ、しかも皆さんビデオオフなので全く反応が全く見えないこともある。たまにミュートの仕方がわからない偉い人のため息なんかが聞こえてきたりとか、どうやら300人ぐらい集まっているようなのに、全く反応がなく一人で静かな部屋の中で話し続けるのは、心理的にきつい。さらに、その後、全く質問が出なかったりした暁には、1週間分のエネルギーを消費し尽くしてしまう感覚に襲われる。

「情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢」では、発表の数週間前に資料を作成編集し映像提出することが求められていたので、準備は10月前に完了しており、安心して当日を迎えることができた。当日、デンマーク時間朝6時からの発表には「可能だったら参加して?!」と言われており、そのゆるさ加減に感謝しつつも、無事起きることができたので、起きたての眠気まなこ+ビデオオフで参加。発表者が紹介された際に「発表者がオンラインで参加している」という周知が運営側からチャット欄で展開され、「誰一人取り残さない電子社会のためにデンマークはなにをしているのか」というタイトルの発表が事前録画ビデオで流された。発表中、投稿される質問にリアルタイムで答えていたら、途中から、アクティブに質問が投稿されるようになった。その関心の高さを喜び、質問の角度に慄きつつも、遠隔地にいながらインタラクティブな対話ができることが嬉しく、気分が盛り上がった。発表者冥利に尽きるとは、まさにこのことだろうか。もしかしたら中の人たちがサクラになり、場を盛り上げてくれたのかもしれない。でも、そんなことはどっちでもいい。

発表中に事前のビデオ提出は、半数ぐらいの発表で行っているので、この録画発表プラスチャットの組み合わせは、とても珍しいというわけではない。でも、「情報セキュリティワークショップ in 越後湯沢」ほど後味の良いオンライン発表は初めてで、改めて参加者(日本のエンジニア)のオンラインでのコミュ能力と配慮に感銘を受けた。

新しいオンライン発表という世界を知ってしまった私たちは、今まで以上に、オンラインでの交流を増やしていくだろうし、オンライン発表の形態もさらに分化し多種多様になっていくだろう。そこでは、単に「オンライン」にしただけの発表と、よく練られたオンライン体験を提供する発表の場とで、大きな違いを生み出していくんだろうと思う。一方通行の知識伝達か、インタラクティブな交流か、創造的な対話かで、それぞれに効果的なスタイルやプロセスがありそうだ。

さいごに

私を推薦してくれたのりぴー、ありがとうございます。発表内容から資料について相談に乗ってもらい、ビデオ編集まで皆さまで対応いただきました。とても良い発表体験、インタラクション体験で、今でも心があったかくなります。しかも、その後も色々とネットワークが広がり続けています。偉そうなタイトルを掲げ、色々と述べたましたが、単なる個人的体験談及び遅くなっていたお礼の投稿でした。

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