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デンマークの生成AIに対する対応

はじめに

デンマークは、国際的なIT指標でも名前の上がることの多い先進的なデジタル国家であり、AIを活用するデジタル・データインフラが整備されている数少ない国だ。インフラを整備した後に進められるのは、いうまでもないことだろうが、インフラの活用であり、要素技術の応用だろう。AI(人工知能)に関する論調もその特徴を反映しており、数年前よりAIの話題が見られるようになり、ChatGPTに代表される生成AIが注目されるようになった2022年年末ごろから、さまざまな新しい動きも見られている。

ここでは、備忘録や自分の学習を兼ねて、デンマークにおける一般的なAIへの態度、生成AIへの対応のいくつかを紹介したいと思う。ちなみに、私はAIの専門家ではないので、間違っていることも多分にあるかもしれないということは認識しています。そのため、アドバイス・コメント・建設的な批判は大歓迎です。

AI全般に見られる傾向

AI活用も北欧的

他国に劣らず、デンマークでもAIに注目が集まっている。ただ、論調という意味では、米国や日本のそれとはやはりちょっと違う。欧州的だし北欧的だ。

イノベーションと技術への積極的な姿勢

デンマークはイノベーションと技術の活用に積極的であることはよく知られている。「技術の活用」といっても、対象となっているのは必ずしもキラキラ先端技術ではない。堅実な技術が中心で、先端技術でも産業につながりそうな場合は積極的に投資しているし試すこともある。この状況は、量子コンピューターや環境関連技術、そしてAIに対して見られる。AIの活用によって、国内のかぎられたリソースを有効活用すること、産業の効率性や競争力を向上させることが期待されている。

産業分野:サステナビリティへの取り組み

デンマークは環境への取り組みにおいて世界的に注目されている国だ。AIの利用においても、環境の取り組みに関係する動きが見られる。つまり、AIの利用領域として、環境配慮が注目されているのだ。たとえば、エネルギー効率化や再生可能エネルギーの開発など、環境へのポジティブな影響をもたらすためのプロジェクトに、AI関連資金が提供されている

産業分野:公共サービスの改善と効率化

デンマーク政府は、AIを活用して公共サービスの提供を改善し、効率化することに関心を持っている。2年前にすでに国家プロジェクトとしてAIプロジェクトに資金が投入されているが、対象となっているのは、公共サービス分野で、例えば、ヘルスケアや教育分野でのAI活用、医療診断や学習プロセスの最適化などのプロジェクトが実施されている。

データプライバシーと倫理への重視

北欧だけでなく、欧州全般で言えることだろうが、個人のデータプライバシーや倫理的な側面に対する関心は非常に高い。AIの導入や活用に際しても、個人のプライバシー保護や倫理的なガイドラインを重視し、いかにプライバシーや倫理を考慮して、AIを活用するかという議論が進む。

インクルーシブなアプローチ

なによりも北欧的だと思わされるのは、社会的なインクルージョンや公平性に重点を置いているという点かもしれない。AIの導入においても、偏見のないアルゴリズムや多様性を考慮したシステムの開発に注目が集まっている。北欧はAIが対象であっても、社会全体の利益に貢献することを重視する。

生成AIに対する傾向

生成AIが注目されるようになってから、行政、産業そして学術分野で関連議論が巻き起こっている。一般的に議論トピックとして注目対象となっているのは、AI全般でみられるトピックと似通っている。たとえば、技術へのオープンマインドを持つ国、つまり新しい技術に対する関心が高いという点。生成AIの可能性についても興味を持っており、他国との比較で考えると、技術がもたらす様々な利点や応用に対して積極的な姿勢を示す傾向があるようだ。そして、データプライバシーと倫理の重視も健在である。特に、AIが個人情報や創造的な作品に関与する場合、透明性や適切な制御措置を導入することが重要視される。さらに、インクルーシブな技術開発と利用が議論されているのも北欧らしい。現段階で、この視点がどのようなアプリケーションにつながるかは定かではないが、偏見のないアルゴリズムや多様性を考慮したデータセットの使用、利用者の多様なニーズに対応する柔軟性が大切だよね、という議論になるのは北欧らしい。

芸術やクリエイティビティへの関心

生成AIの出現で特に注目されるようになったのは、芸術やクリエイティビティをどう支援していくかという視点だろう。デンマークは芸術やデザインを重視し保護しているが、模倣や盗作などには厳しい態度を示している。だから、生成AIの芸術的な応用はもちろん課題にもなる。例えば、AIによる音楽や絵画の生成、クリエイティブなプロジェクトへの活用などが今後増加すると思われ、おそらく活用も進むのだろうが、どのように境界線を引くのだろうか、という点も模索されていくだろう。

人間中心のアプローチ

生成AIの導入においても、他の分野と同様に、ユーザーエクスペリエンスや人間中心のアプローチが重視されている。つまり、AIは、人間の幸せのために使われるべきであるという、社会に共通する認識がベースになっている。北欧が重視するのは、AIによる生成物が人々のニーズや意図を適切に理解しているのか、有益なインタラクションや体験を提供できているのか、そして、倫理的に正しく、インクルーシブであるのかという観点だ。

大学の対応

大学の対応はまた別にまとめたいと思うが、教育機関の動きも興味深い。第一に、多くの北欧の大学が、AIやChatBot、ChatGPT対応の指針を公開し、常時アップデートされている。

背景として、AIは「学び」の環境を大きく変える可能性があることを多くの人が認識しているからだ。北欧では、教育領域では、正解を求める試験ではなく、意見をもとめる試験が出される傾向にある。今までは、Googleに聞けば正解は見つかるかもしれないが、「個人的な意見」を構成するのは自分しかできなかった。ただ、こChatGPTの出現で、この状況が一変した。エッセイ(レポート)の執筆やテストで生成AIを活用することで、それなりの質を担保し「データに基づいた」「独自意見」がいくらでも作れてしまう。

教育機関の当面の対応は非常に興味深い。そのうち統一見解が出されるような気もするが、現在のところ機関によって対応は大きく異なる。テストやレポートでChatGPTの利用を不可とする教育機関もあれば、コペンハーゲンIT大学のように試験でChatGPTの利用は問題ない」と見解をだしたり、コペンハーゲン大学のように使ってもいいけれども利用に言及し見解も述べること、とする大学もある。

結局のところ、教育機関でAIについて考えるということは、学ぶとは何か、AIにできずに人間がやるべき仕事とはなにか、ということを追求することに他ならない。AIやChatGPTがない時代に後戻りはできないことを考えると、学生に「使うな!」といっても無駄だろうし隠れて使う人は必ず出てくる。それならば、どううまく使いこなすか、を考えることが合理的。そう北欧は考えているようだ。

最後に

AIやChatGPTにまつわるデンマークの論調をみていると、テクノロジーは、やはり硬貨の裏表で、使い方次第なのだなと思わされる。北欧ではAIの活用を人間中心で考えることができていることに安堵するとともに、米国の動きや極端な嫌悪を示す一部欧州諸国の動向にも注意が必要である。

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