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最先端でカオスな街づくり:レフスヘーレウーエン(Refshaleøren)

アクセスは水上バスで

以前よりのんびり散策したいと思っていたレフスヘーレウーエン(Refshaleøren)に行ってきた。コペンハーゲン中央エリアから水上バスでアクセス(陸路もあるが遠回りだ)することのできる、今最もカオスな先端的街づくりエリアだ。「最先端だがカオス」なのは当然で、今までの都市のイメージから離脱した新しい都市の姿が求められている現在、イノベーションが行われるためには「カオス」であることは不可欠な要素だろうなと思う。

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はじまりは尖ったレストラン

レフスヘーレウーエンには、次から次へと興味深いアクターが集まり、折に触れ人々の話題に登る。コペンハーゲンでアート・デザイン・芸術界隈に生息している人たちが、ニヤッと笑い口を揃えておすすめしてくる区域だ。

関連に居住私が初めにこの地区レフスヘーレウーエンを知ったのは、食べ歩きをよくしていた頃で、菜園を併設し持続可能性を追求するちょっと尖ったレストランAmassだった。「美味しいよ」、「面白いよ」といわれて行くことにしたものの、なにもそんなところに...と思うぐらいアクセスの悪い場所で、しかも周囲は工場跡地ばかり、というのが数年前に初めに訪問した時の印象だった。

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そんな土地に立地しているから、このAMASSのファンキーな内装や巨大な吹き抜けの室内には圧倒されつつも、受け入れて楽しめるのだと思った。ここでだったらどんな食事が提供されても不思議じゃない、と思えるだけの雰囲気が漂っていたのは戦略勝ちだと思う。

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Amassの裏庭には、野菜畑があり、ベリー類や野菜が豊富に実っているスモーク小屋からはいつもいい匂いが漂う。周囲には、カフェやレストランやベーカリーが開店し、どれも個性豊かな店舗であるにもかかわらず、いつ行っても多くの人で賑わっている。サウナのあるレストランや舞台を併設したパーティ会場などコンセプトはかなり謎でカオスだ。さらに、最近は、別地区にあった屋外フードコートRefffenが移動してきて、私のような観光客を呼び込み、彩を添えている。レフスヘーレウーエンのレストランやカフェなどの食周りは、都市型農業の追求、新しい食の形の追求をしているという点が共通している。同時に、なんだか懐かしい雰囲気でありつつも、都市型のエレガントな雰囲気を漂わせているのは本当コペンハーゲンらしい。

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北欧型スマートシティの試みが次々に

レフスヘーレウーエンがアート芸術系の人たち以外、私のような一般の人たちやビジネス領域の注目も広く集めることになったのは,学生向けのコンテナハウス事業を行う元NPO CPH Villageや世界的にも有名なデンマークが誇る建築家ビヤケ・エンゲルス(BIG)がデザインしたコンテナハウスUrban Riggerが展開されるようになった頃からだろうか。少なくとも私が知ったのは、尖った人たちがこぞって集まるようになったしばらく後の頃だった。

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コンテナハウスというと、トレーラーハウスのような安っぽいイメージがないわけではないが、デンマークでは、ロスキレ・フェスティバルで活躍したり、デンマーク工科大DTUの学生寮として設置されたりと、次第に知名度をあげ、なんだか人や環境に優しいというイメージが醸成されていったと思う。そして、「住む場所のない学生のために!」、「環境に配慮した未来の住宅群」、「都市におけるコミュニティ構築」といったキーワードで突如として市民権を得たのがCPHVillageUrban Riggerだ。

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多くの元気な尖った学生が都市中心部にも程近いこのエリアに移り住み、多くのアクティビティが展開されるようになる。今、レフスヘーレウーエンでは、移動してきた屋外フードコートRefffen(前述)が注目されて週末に多くの人を呼び込み、都市型アウトドア事業(ボルダリング場やペントボール会場など)が開設され、期間限定のアート・フェスティバル会場、展示、屋外コンサートなどの場づくりには多くの人が集う。

そして、今でも密やかに地元の人たちが揃って集まる隠れ家的なお店や、マジョリティを無視するカオス・プロジェクトが、あちこちで動いているという。

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レフスヘーレウーエンの始まり

かつてレフスヘーレウーエンには、デンマークが誇る大企業Burmeister and Wain (B&W)の造船所があった。始まりは19世紀のこと。コペンハーゲン港管理局が同地区の埋め立てを行い、B&Wがそれまで使っていたクリスチャンスハウンから、レフスヘーレウーエンに移って造船を行うことになったのだ。その後、日本や韓国の台頭、中国の台頭などで、124年の造船の歴史は、幕を閉じる。1996年には造船所破産が破産、同年にレフスヘーレウーエン・不動産(Refshaleøens Ejendomsselskab A/S)が設立された。コペンハーゲン都市中心に位置する広大な(525.000 km2)地区「レフスヘーレウーエン」は、再開発エリアとなり、2009年には地区が一般利用されることになり今に至る。

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かつて造船所であったその地区は、海に汚水を垂れ流し土壌汚染も心配されるエリアであったが,現在は,都市開発、もとい街づくりの新しいスタンダード作り都市課題に対する解決策に取り組むスマートシティエリアとして注目されている.

コラボレーションとコミュニティを基盤としたまちづくり

主体として広大な敷地の再開発を手がけるのは,レフスヘーレウーエン社である。だが、2021年現在、同社は、大手都市開発機構が行うように計画を策定してトップダウンで進めるというよりは、未来の姿なんてわからないよとコミュニティと文化づくりを掲げて黒子に徹し、今のカオスを楽しんでいるみたいだ。

代わりに檜舞台に現れるのは、コラボレーションの推進やコミュニティづくりを通して街づくりを進めるレフスヘーレウーエンの住民や、ビジネスを展開する人たちや、ビジネスになるのかかなり怪しいタネ・プロジェクトを動かす人たちだ。それは、レフスヘーレウーエンを訪問すると一目瞭然で、地区には人々が集い、アクティビティが展開され、なんだかわからないけれども楽しそうな雰囲気があちこちに漂っている。それは、ビジネス論理で都市開発が展開されているのではなく、その場所に関係する人々がプロジェクトやコラボレーションを進め,時にはビジネスを立ち上げることで,未来の都市が形作られようとしているからに他ならないだろう。

言葉にすると陳腐に聞こえるが、この市民主導ボトムアップのクリエーティブな街づくりは、非常に北欧らしい。

レフスヘーレウーエンのこれから

今、北欧諸国の一つの新たな都市開発のうねりとして、水辺がキーワードになっている。理由は多々あるだろうが、ここ10年ぐらいで、工場や港として使われていた水辺エリアがその用途を終えていることから、広く市民に開放される新しい都市エリアとして活用できるようになったことは確かだ。都市の生活においても自然を感じ、自然に近い生活をしたいと考える北欧の人たちは、レフスヘーレウーエンに自分たちの理想の未来の都市像を自由に試せる実験地区を手に入れたのだろうと思う。「実験的な取り組み」がたくさん行われているから、歩き回るとあちこちカオスでしかないんだけれども、行くだけでなんだか楽しい気分になれる。今後どのように地区が再開発され、未来の都市の姿が形作られていくのか、見守っていきたいと思う。

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