見出し画像

日赤名古屋第二病院の件で思うこと -スケープゴートにされないために-


SMA症候群で高校生が亡くなった件が話題です。これについてはネット上で様々な議論が繰り広げられています。

私としてはこちらのポストと同意見なのですがそれはさておき、今回の記事では研修医や若手医師が責任を擦り付けられ生贄にされないようにするために何ができるのか、何をすべきなのかを実体験も踏まえながら取り上げていきます。

1.責任を一人で負わないカルテ記載を

研修医であれば必ず指導医がいるはずです。必ず指導医の名前をカルテに記載しましょう。〇〇先生併診と最初に書くだけでもいいです。具体的に相談した内容を記載するのも大事です。

人間誰しもわが身がかわいいので責任のなすりつけあいになります。
ヤバくなると研修医の責任にして逃げる奴はいくらでもいます。しかしカルテは公文書です。カルテに書けば逃げられません。
絶対に責任を取らせましょう

2.他人を信じるな

〇〇先生があれをやっていいと言ってたなどと赤の他人から言われてもその先生から直接言われていないのであればやってはいけません。絶対に本人に確認を取りましょう。

研修病院ではどこも満足に指導医クラスが救急室に常駐しているとは限りません。
〇曜日は救急の先生がいない(雇う金をケチってる)ので基本は研修医がファーストタッチを行いながら9:00-11:00は内科のA先生が外来しながら担当、11:00-13:00はB先生が外来と並行して担当みたいに振り分けられているときがあります。
研修医はアセスメントをたてて指導医と逐一報告・相談しながら治療を進めていく感じですね。

ここでは恥ずかしながら自験例を共有します。

研修医1年目、医師になって数か月の時です。午前中忙しく救急部で動き回り、ようやく昼休憩を与えられました。昼食をとっているとPHSに救急部の看護師から電話です。

胸痛で歩いて来た患者さんが今救急室にいるんですけど、心電図とっていいですか?
先生は昼休みなので私が循環器内科の〇〇先生に相談しておきますよ。

循環器内科の〇〇先生はその時間帯外来をこなしながらの救急担当医でした。医師の指示がないと心電図も取れませんので快諾し電話を終えました。救急車ではなく歩いてきた患者さんです。どうせ大したことはないでしょうし、何かあれば指導医が対応してくれるでしょう。

昼休みを終え、救急部に戻ると先ほどの看護師が報告をしてくれました。

〇〇先生に聞いたら研修医にまかせるよ、採血やっといてと言ってました。

すっかり安心した私はとりあえず採血だけオーダーを入れました。その日はとにかく人が来て忙しかったのです。患者さんを診察しアセスメントをたて指導医に相談に行って戻るを繰り返しており、その人のことはすっかり忘れ他の業務に夢中になっていました。

時がたち、先ほどとは別の看護師が私に言ってきました。

(胸痛の患者さん)バイタルが崩れています。

え?なんで?大したことないのでは?
そう思った私はその時初めて心電図を見ました。

心筋梗塞です。

循環器内科医じゃなくても誰が見てもわかる奴です。機械の読み取りでも思いっきり心筋梗塞と書かれています。まずいです、非常にまずい、心電図を取ってからすでに数時間経過しています。

すぐに指導医に報告しました。緊急でICUに入り、その後こっぴどく叱られました。お分かりの通り指導医は看護師から報告など受けていませんでした。

後から知ったのですが、その救急の看護師は嫌がらせも多い性格の悪い人でした。

このように他人を安易に信じてはいけません。
必ず自分で報告相談をしましょう。

3.ミニドクターは責任を取らない

ICUや救急の看護師は口うるさく言ってくる人もいますが絶対に責任は取りませんので気を付けましょう。

ICUで緊急挿管が必要になった時、看護師たちの猛反対で筋弛緩薬が使えず、そのまま挿管したことがあります。深夜2時です。指導医が来るまでマスク換気で粘りつつ押し問答しましたが、指導医到着後も態度が一向に変わらないので仕方なくやりました。成功したのでよかったですが失敗してたらと思うと恐ろしいですね。

4.このような病院に就職はNG 逆張りはやめろ

今回のような研修医一人で帰宅を判断する病院には就職してはいけません。ただのコマとしか見ておらず研修させる気もほぼないでしょう。挙句いざとなれば研修医に責任を押し付け逃亡します。

ブラック病院もホワイト病院もいろいろ見てきましたが今の時代にそんな病院があることに驚きました。数年前都内の某病院の看護師が「うちの病院は研修医一人で当直している。指導医は外にいる。」と言っていたので「それはあり得ない。後期研修医の間違いでは?」と聞いたのですが初期研修医だと言い張っておりました。しかし今回のことを聞くと、あながち勘違いとは言い切れないかもしれません。

学生や研修医の頃はハイパーに働くことに憧れたり、ブラック労働こそ鍛えられると勘違いしがちです。
自分だけは大丈夫と慢心せず、ましてや逆張りはやめましょう。

5.ご家族にはチームで診療していると伝える

自分しか医者が診ていないかのような誤解を生むのは避けましょう。

今回の件も対応した研修医がやり玉に挙がっていますが、研修医自身の態度が悪いときも実際にあります。指導医は「胃腸炎だから帰しといて」と軽く突き放しますが、そのままの態度で伝えてはいけません。ご家族にはこんなに辛いのに研修医の態度がひどかったと悪い印象が残ります。必ず一人で診察して決めているわけではないこと、指導医の名前も一緒に伝えましょう

これは研修医以降、例えば入院させるときも使えます。その診療科のボスがいると思います。カンファレンスに出ているだけ、回診の時にいるだけのお偉いさんの名前を積極的に出しましょう。

院長の〇〇先生とも患者さんの情報を共有しながら(朝カンファレンスで発表するだけ)、△△科全体で毎日検討しながら治療(点滴とリハビリするだけ)していきます。

これだけでだいぶ印象が変わります。

6.胃腸炎と便秘は危険

私が研修医の頃は「抗生剤ではなく抗菌薬」「胃腸炎ではなく急性腸炎か胃炎か区別しろ。慢性胃炎なら例えばピロリ菌だと治療が違う」というのが流行っていましたが今は一周回って胃腸炎って言ってもよくなったんでしょうか。

便秘というのは過去診断されていない人には言ってはいけないというのは救急の教科書にもあると思います。でも実際には指導医から「便秘だから帰しといて」と言われたけどどうにも不安という症例もありますよね?

そこで私は「今回は帰宅としますが、帰った後も腹痛が悪化する場合や嘔吐する場合は救急車で来てください。その時は詳しい検査(造影CT)をしましょう。」と伝えています。
今回は痛み止めを処方して帰宅だけど増悪したら再診してねというパターンです。
若い人だと被爆を考えれば腹痛→腹部CTと簡単にはいきませんからね。
実際にこれで命拾いしたこともあります。

胃腸炎も危ないです。救急でCTを撮って胃腸炎と診断→翌日放射線科が誤診に気付き私の診療科に急遽コンサルトがきたことがあります。無事に退院しましたが、退院後もご家族はあの時の研修医に会わせろと怒っておりました。こんな状態だから入院させるべきと主張したのに冷たくあしらわれたそうです。


まとめると忙しい病院は一人一人の患者対応がおざなりになってしまいがちで結果事故を起こしやすいと感じます。暇すぎてもよくないでしょうが、何事もバランスが大事です。
本当の意味で自分に合った病院を選びたいものですね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?