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減り続ける外科医、需要はあっても待遇が改善されない理由とは?

日本消化器外科学会より国民の皆様へという題名で記事が公開された。


https://www.jsgs.or.jp/modules/transformation/index.php?content_id=1より引用

医師数は増加し続けている現在だが逆に消化器外科医は減少の一途をたどっており、歯止めがかからない状態だという。今回の記事では、前半はその中身を吟味しつつ後半ではなぜ外科医(≒消化器外科とする)が減っているのか、そしてこの先も間違いなく減り続ける理由を解説していく。

前提

医療業界において基本的に外科とは消化器外科・呼吸器外科・心臓血管外科・乳腺外科・小児外科を指す。脳神経外科や整形外科は外科とついているが別枠であることに注意が必要だ。
また、通常外科と言われたときには消化器外科を指す。大学病院など全ての科がある大きな病院は消化器外科と記載していることはあるが、普通の病院(一部の大学病院や大病院含む)において、心臓血管外科は心臓血管外科と書いてあるのに対して消化器外科は外科としか書いていない場合が多い。この理由として、それが慣習であることや外科の中では消化器外科医が多数を占めているからだと考えられる。
そのためこの記事では外科≒消化器外科として扱う。

”診療科の選択として敬遠されてきた”は本当なのか

消化器・一般外科は唯一減少している診療科です。この事実は、消化器・一般外科の業務がとりわけ負担が大きく、診療科の選択として敬遠されてきたことを示しています。

https://www.jsgs.or.jp/modules/transformation/index.php?content_id=1

日本消化器外科学会の会員数が右肩下がりのため、学会としても危機感をもって今回の声明につながったのだろう。医師数は20年前に比べて31%も増加しているが消化器外科だけは同じ期間で21%も減少しているのだという。

ところで診療科の選択として敬遠されてきたというのは本当だろうか。
日本外科学会が公開している専攻医登録状況によると2018年度は805人、2023年度は835人が外科専攻医(医師3年目、専門として外科を選択した人)として登録されている。そう増えているのである。

もちろんこの中にどれだけ消化器外科を志望している人がいるかはわからない。

消化器外科学会の会員数が2万人ほどいるのだという。
呼吸器外科学会の会員数は横ばい、心臓血管外科の会員数は増加しているものの全体の人数は4000人ほど、小児外科はそもそも希少であることから考えると外科を選択した医師の大半が消化器外科であることは想像に難くない。

実際に筆者の周囲を見渡してみても心臓血管外科や呼吸器外科は少なく小児外科は一人もいない。専攻医の人数は年度によって上下はあるが、少なくとも減っているとは言えないだろう。

ではなぜ外科医は減少し続けているのだろうか。それは選択をする(志望する)人が減っているのではなく、途中で辞めていく人が多いからである。

心臓血管外科も同様にやめていく人も多いが、憧れを持つ人が一定数存在するためか新規参入も多く会員数は増え続けている。
心臓血管外科(と脳神経外科)はKing of Surgeryを自称し、とてもハードな修練と働き方をしているがやりがいも格別なのだろう。

それではドロップアウトした場合はどうなのか?

本題とずれてしまうがここではドロップアウトした場合の選択を考えたい。

例えば皮膚科の場合、専攻医を2,3年やれば一般皮膚科の外来バイトはできるようになるという。実際に皮膚科のスポットバイトの募集要項を見ると皮膚科経験1年以上と書かれていることもありその通りなのだろう。
皮膚科医は専門医を取らずに辞めてしまったとしてもその後の就職に大いに役立つのだ。

一方、外科をやめたところで内視鏡の専門医(胃カメラや大腸カメラのこと)を持っていなければ訪問診療や救急などに行くしかない。何でもやらされていた昔と違い、今では外科専門医をとった程度ではクリニックの外来などまず出来ない。

このように診療科によってたとえ同じ年数修業したとしても即戦力(≒稼ぐ力)となれるか大きく変わってくる。外科と皮膚科では雲泥の差である。

要はドロップアウトした場合、残念ながら他の専門科の下位互換になってしまう。下手をすると研修医上がりと何も変わらない。今まで頑張ってきても辞めてしまえば何も残らないのだ。ここも研修医から敬遠される理由の一つだろう。
そして内視鏡バイトも修練期間の労働環境や給料、内視鏡そのもののリスクを考えると開業しない限りはペイできない可能性が高い。そもそも最初から消化器内科を選択した方が賢明だろう。

医師の世界では専門性を極めれば極めるほどできる施設が限られてしまい他で働くことができないため給与が低く抑えられる。
逆に麻酔科医は一人でもやれることが多く多種多様な施設で働けるため働き方の融通が利く診療科であり日雇いバイトも多く、当然給与が高い。

専門医機構が誕生し専門医の価値を強調しすぎた結果、皮肉にも専門医間での待遇差を考えるきっかけとなり外科を専攻する人は今後増えていくことはないだろう。働き方改革が叫ばれている今であればなおさらだ。

給与が同じであれば、比較的負担が少なく、時間外や休日のプライベート時間がしっかり確保できる診療科が選択される傾向が全国的にあります。

https://www.jsgs.or.jp/modules/transformation/index.php?content_id=1

なお国が保険点数をあげたところでダヴィンチなどのロボットの維持費や購入費にあてられるくらいで外科医の手元には届かない。これは厚生労働省の資料にも書かれていることだ。

時間の融通も利かない(文字通り病院に縛られることが多い)

働き方の融通が利かないが、残業が多く休日出勤もあり時間の融通も利かない。
昔のように袖の下があって院内で女関係が完結した時代ではない。資産形成もできずデートの時間すら妨害されるため、若い医師ならなおさら敬遠するだろう。

病院側(雇用主)がそもそも給与を上げる気がない

病院側としても高難易度手術でもなければ指導医クラスが一人いればその人が執刀すればいいので他は誰でも良い。助手は研修医でもよいし、整形外科に特化した病院だと看護師が助手をやっていることもある。 

カメラ持ちも同様で看護師にやらせている病院もあるし、今では臨床工学技士もできるようになった。カメラ持ちは解剖を覚えていないとできないなんて大嘘である。
ダヴィンチのアームの入れ替えだって別に誰でもできる。若手の外科医はなぜか貴重な休日を使ってintuitive社の講習に行きお金を払ってよくわからない資格を取ってきているようだがまったく理解できない。

病院としては部長クラスに辞められるのは困るだろうが、下っ端は替えが効くのでインセンティブをつける理由も薄い。さらに言えば部長クラスでさえ当直バイトに行って給料を稼いでいるのが現状で、外科は他の診療科と違い働き口がかなり限られてくる。

多くの病院では固定残業代制が採用されているため不利

大半の病院では残業代は給与にすべて含まれている。定時に確実に退勤できる診療科なら夕診や夜診も入れやすいし、そういう診療科こそ外来バイトの募集もある。
二重の意味で残業が多い診療科は損なのである。

本来であれば基本給を安くしてすべて残業代をつけるようにすれば解決するのであるが病院経営陣はしない。どうせ辞めないだろうと舐められているのだ。
一方、麻酔科だけは特別に残業代がつくという病院も存在することからわかるように一人で完結できる科はフットワークも軽いため交渉にも強い。

健康にも悪い

オンコールや当直が多く睡眠不足となり当然心身に影響が出る。
さらにいうと手術でも体に負担はかかる。立ちっぱなしで真下を見るため首の神経をやってしまったり、エネルギーデバイスのフットペダルを踏む動作のためか腰の神経痛で悩まされ整形外科手術を受ける外科医は多い。
残業が続き不規則な食生活となりビール腹となる外科医もよくいる。

SNSの普及により周囲と比較することが可能になった

インターネットの普及でブータンが幸せな国ではなくなったように、夜も眠れずオンコール三昧でその上報われないことが明確になった。
パワハラ気質もあり、自分の働き方が間違っているのではないかと気付く人が増えてしまった。それでみんな辞めていくのだ。
今外科医として残っている人は今より厳しい時代を経験した人たちばかりになった。その指導に大半の医師はもうついてこれないのだろう。

〇〇科に進んだ同期は専門科の外来バイトをやっているのに、外科専攻医は毎日カメラ持ちと残業してオペ記事、カルテ記載、化学療法のルート取りである。

紹介業者の広告には週4日で年収1500万!当直なしオンコールなし!の文字が並ぶ。深夜まで残業し眠い目をこすりながら年収1000万程度だと、世間から見たら稼げる方だとしても他の医師と比べてしまえば虚しいだけだ。

最近は落ち着いてきたとはいえバイト医ブームが起きたときに常勤医の損な部分がクローズアップされたのも大きい。研修医から見れば日給3万円で時に罵倒されながら深夜まで働くのか、日給8万円で健診やワクチン問診を行い夜はぐっすり眠るのか、もはや比較対象にもならないだろう。

コロナワクチンバイトで有名な、筆者の知人でもあるミズイロ氏もこのように述べている。

病院は眠れないほど重労働なのに賃金が比較的安い、コロナワクチンバイトは軽負担なのに賃金が極めて高いという、どちらが健全で働きたい職場か一目瞭然であるという結論に行き着く。

https://mizuirotest.com/roudoutsuraiより引用

”やりがい”だけで生活できる人は少なくなった

「ありがとう」を集めるだけでは生活ができないし、感動を食べても生きてはいけないのだ。
個人的には外科の先生方はとても尊敬しているし、絶対になくてはならない存在であることは間違いない。
しかしこれから医師になり専門を決める人がどう考えるのだろうか。志望する人は多いが途中で辞めていく人はさらに多い科を選択すべきだろうか。答えは簡単である。現状は「落ちるナイフをつかむな」となっているのだろう。

SNSを開けばパワハラ外科医のエピソードで溢れている。外科をやめて〇〇科に転向しQOLが向上しましたと書かれているアカウントも多い。
ストイックで誰よりも厳しかった外科医が、巡り巡って苦しんでいるのは令和の時代に当然の帰結なのかもしれない。

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