【エッセイ】死に際に笑う
今際のときになって、にやりと笑って消える。
そんな死に際に憧れる。ゴールド・D・ロジャーみたいな。
人には誰しも、表立っては言えないようなものがある。
やましさだったり、嫌悪だったり、願望だったり。
多くの共感を生むような言葉には、いつも反論がつきまとう。
そうした反論が怖くて黙ってみたり、勇ましく宣言してみたり、レトリックでごまかしてみたり、あるいは潔白のように振る舞ってみたり、どちらにしろ批判はずっとそこにいる。
けれど死んでしまった人には、そんなものは何も影響しない。
誰がなんといおうと、もうその人には罪悪感や理性や、その他いろいろのしがらみがなくなっちゃうから。
そんなことを考えると、人間らしい失敗や生き恥を晒している人ほど、死後の人の心には残っていくような気がしてくる。
私はいつも何かを発するのが怖く感じてしまうので、本質を突いてさらっと浮世から退場する、みたいな生き方はすごく憧れる。
息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。