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八首抄 令和5年3月号

臼井 良夫 選


わが影を見ながら歩く夕刻に存在の無き悲しみを知る
藤田 直樹

道の上より見ればわが家の瓦の屋根が輝り返しをり
川口 六朗

暮れなずむ稜線続く房総のローマと同じ色の夕焼け
高橋 美香子

どの人も眼は美しと思ひつつマスクの顔に対きて物言ふ
広瀬 美智子

放浪の人もやうやく老いづきて残るいのちをわが傍におく
高田 香澄

天空の薄き空気を思いつつまぶたに描くマチュピチュ遺跡
建部 智美

高くなれと祖父がつまみし我が鼻をチョビと名付けて君もつまめる
山内可奈子

朴の葉の重い音立て真っ直ぐに地面に落ちて大見得を切る
田村ふみ子


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