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選歌 令和5年3月号

この世には分からぬことの三つ有る寿命と心・生存理由
木下 順造

行く舟の航跡の波の打ち寄せて秋のひとひに心あふるる
清水 素子

ぽかぽかと足先温し細胞が両手を挙げて万歳をする
高田 好

車椅子狭い売店の中に入れ夫は森永キャラメルを買う
玉尾 サツ子

日毎増すコロナ罹患を告げしのち今月の死者数ことなげに言う
永田 賢之助

ウクライナに干支のあること知りたる日冬陽に重き山茶花の紅
橋本 俊明

過ちを犯し続けておりまして洗濯機など回しております
森崎 理加

細き腕さすりてぬるきしまひ湯にこの歳晩も無事に越えたり
渡辺 茂子

人がみな木に変はりゆく幻想に誘ひてゆく夜の雪音
臼井 良夫

学生たち乗せる近江のローカル線青き車体は轟音に過ぐ
国友 邦子

球ひとつ人種の差別は消し去りて勝利にむかう「ミリ」なる世界
才藤 榮子

足踏みのミシンに向かい居る姉に憧れ見入る遠き日の吾
篠原 和子

思い切りレモン搾りつつキャスターのたんたんと読む戦況を聴く
髙間 照子

玄武より来たる雪の風強し防雪柵も木葉微塵に
土屋 紀生

朗読は一番の趣味 人前で語る楽しさ何にも増して
南條 和子

四日目で全勝力士が居なくなる五十三年振りとふ珍事
高貝 次郎

戦火さけ脱出できたとウクライナの女性は我に近き年齢
成田 ヱツ子

教職の道続けたるこの度は崩壊学級 策を巡らす
松下 睦子

ひとり分のできるメニューを考える単純こそが老いの仕合せ
青山 良子

思春期の娘をハグせし思ひ出の無きまま四十七歳に逝く
井手 彩朕子

見たいもの見えぬ苛立ち声に出し吹雪の空に全身伸ばす
児玉 南海子

ブラジルへの不安と希望の海路への道神戸元町鯉川通り
山口 美加代

けぶる雨囲炉裏の臭い甦るミシン踏む音 母のいた日々
仲野 京子

われときみ遠く隔つるしらゆきはかつらの川の橋もうづめて
石谷 流花

陽は恵み月は慰め 今年もう最後の満月 光降りくる
三上 眞知子

畳かえ障子張りかえ生け垣も柚子の色づく炉開きの朝
宮本 照男

やってない事を数える指見つめやりたい事も倍数えおり
渡邊 富紀子

図書館の予約本二冊届きたりギブスの吾へお見舞ひのごと
岩本 ちずる

今日のこと明日に延ばす横着を許す心の甘えを憎む
上村 理恵子

別れぎわよいお年をと声かけてそれぞれ向かう師走の街へ
奥井 満由美



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